杖はカッコ悪いから使いたくない父
先日、父のケアマネさんとの打ち合わせがあった。私は、実家のキッチンに置いているアレクサでリモート参加した。
父には「テレビ電話だよ」と説明するが、理解するのが難しいようで、不思議そうに画面をみていた。
ケアマネさんが、「特に変わりはないようですね」と切り出すと、母が「先週、家の前で転んで大変だったんです」と、父が玄関前で鼻血を出して倒れていた話をした。
ケアマネさんから、杖を持っていかなかったのか、と聞かれた父は、「持って行くのを忘れた」と答えた。
しかし実際は意思を持って、杖を持たずに出かけている。一度手にした杖を玄関の奥に置いて出かけて行く様子が、玄関の見守りカメラに映っていた。
「杖を使うのはカッコ悪い」と主張する父に、ケアマネさんは「転んで、もし車椅子になったら、自由にお出かけできなくて困りますよ」と正論で対抗する。が、父は「もう転ばないから大丈夫」と謎の自信を持って答える。半年前にも転んで肋骨にヒビが入ったの忘れたんか?
父は「杖が黒くて見つけにくい」と、あくまでも「うっかり忘れちゃうのだ」と言い張った。そうですか。それなら見つけやすくしてやろうじゃないか。
父の杖の持ち手の部分にテニスラケットのグリップテープを巻いてみた。嫌がるかなあと思ったのだが、意外にも父はすんなり受け入れた。父の「カッコいい•悪い」の基準がよくわからないが、前よりも杖を使うようになった。
母が自分の杖にも目印のテープを巻きたいと言い出した。父と同じ黄色のテープを選んだので、「お父さんとお揃いだけどいいの?」と聞くと、慌てて赤いテープに変えていた。