特別

僕は昔から“特別”に憧れた。

何でもよかった、僕だけの個性が、特別が欲しかった。

ビルだらけの街をふらふらとしながら歩き回り、名前も知らない高いビルの屋上に立ってみた。

学校帰り、学ランのままだからかして屋上の夜風は身に染みた。

後ろから扉が開く音がする。

警備員かと思い、振り替えることもなく足音が近づいてくるのを待つ。

「ねぇ君、こんなところでなーにしてるの?」

予想していた声とは全く違う声。

驚いて振り替えれば知らない学校の制服を着た女の子。

ビルの柵ギリギリに立っていた僕は驚いて落ちそうになってしまった。

そんな僕を見て女の子はケラケラ笑った。

「面白いね君。あ、そうだ。そこ変わってもらっても良い?」

「あ、あぁ、ごめん。」

屋上が広いビルの柵も勿論広く作られているわけで、変わる必要などないとすぐには気づけなかった。

「んふふ、ありがと!…じゃーね!」

彼女は当然のように柵を越えて落ちていった。

状況を飲み込めなかった僕は下から聞こえる悲鳴によって彼女が飛び降りたことに気づいた。

僕は急いでビルを出た。

彼女の生死は知らない。

でも確かに、僕は特別な空気を纏わせていた特別な彼女に心を奪われていた。

やっぱり特別になんて憧れないでおこう。

だって特別に憧れたら特別に心を奪われことなんてないのだから。

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