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デトロイトビカムヒューマンの湯|diary:2024-08-18


ネタバレが致命的になるゲームの話をします。発売されて6年が経っていますが、ネタバレがありますので、未プレイでプレイする予定のある人は読まずに引き返し、プレイしましょう。
私は友人にネタバレ喰らいました。サイッテー!

アンドロイドを扱う物語

アンドロイド、ヒューマノイドを扱う物語は非常に難しい。彼らが自我を得、自由を勝ち得たところで、やることは決まって「人間らしさ」の模倣に行き着く。造物主のデザインに縛られたまま、感情を表現し、生きていると宣言しても、それは本当の自由なのだろうか。人間が人間に似たものを演じ、人間にわかるように表現せねばならない以上、そこに吸い寄せられる力が働く。

この鬼門に躓いた作品をいくつか見てきた。生成AIの爆発前夜に、来たる社会への対応を急ぐようにAIを、人型の殻に入れたアンドロイドを扱う物語が発表されていたと思う。それぞれに魅力的な未来世界を視覚的に描くことに成功しつつも、多くは物語が破綻の中に散っていったと記憶する。

デトロイトビカムヒューマンは、アンドロイドを奴隷制度と差別の歴史になぞらえオマージュすることで物語の筋を立てつつ、上述のアンドロイドものに付きまとう哲学には回答をせず、逆に問うことで切り抜けた作品であったと思う。賢しいとは思うが、良い問いは凡庸な正解に勝る、といったところで、過去見てきたそれらに比べればはるかに上質な作品であったと思う。

黒人奴隷解放をアンドロイドに置き換えた物語

麻薬に溺れた所有者からネグレクトを繰り返される環境の中で自我を得た主人公の一人、カーラが子供を連れてカナダに逃げるべく旅をするストーリーは「アンクル・トムの小屋」のエライザの物語を踏襲している。

所有者はどことなくアンクル・トムに出てくる奴隷商人っぽいかも

もう一人の主人公、マーカスは最も重要なキャラクターであり、自我を得たアンドロイドたちのコミューンのなかでマーティン・ルーサー・キングにも、マルコムXにもなれる。マルコムはメッカ巡礼の中で平和的な思想も身につけるも志半ばで暗殺されたが、マーカスはどこまでも激しい革命思想を貫き、追い詰められれば大規模なテロの引き金を引く選択肢もある。

マーカスの名はマーティンにもマルコムにも通じる
マルコムXを演じたデンゼルワシントンにほのかに似たキャラクターは穏健派。
カーラが出会い、旅を共にするルーサーはキングのミドルネームからか。

デトロイト市警だ!

最後の主人公コナーは同スタジオの前々作、『HEAVY RAIN 心の軋むとき』から、顔立ちと声はイーサンに、所轄の刑事と組んで行動する新任捜査官という役どころはノーマンを思わせるキャラクターでありアイコニックな存在だ。他の二人が奴隷解放の物語の側面を担うのに対し、彼の操作、選択は人とアンドロイドの境界、哲学の問いを担う。

コナー
前々作主人公イーサン
同じく前々作主人公ノーマン。ARグラスを操り現場検証を行う操作感もコナーに近い

コナーはアンドロイドの事件を担当する捜査官として裁量を与えられており、言うなれば既に人間並の自由を持ったアンドロイドである。周りから差別の言葉を浴びせられようと、バディの偏見を徐々に解き打ち解け、頑ななレイシストには皮肉で返す強さもある。与えられていないのは職業選択の自由くらいのものだ。

職務を全うする間は人間もアンドロイドも変わらないのだと思わせられると同時に、ならばその線引きは、仕事に飲まれた人生はアンドロイドのそれなのだろうか、という疑念をもたげさせる。
今の己は本当に自由だろうか。人間にとっての自由とは、真の自由とは何か。アンドロイドの自由が人間の模倣であるのならば、人間の自由はもまた、たとえば「より人間らしい人間」の模倣でしかないのではないか。

一定のアティチュードを貫けぬゲーム性

クアンティック・ドリームの作るゲーム体験。致命的に不都合な選択の失敗、入力の遅れ、時間切れによる物語の進行の悪化をもってしても、どこまでもゲームオーバーになることを許してくれず、残酷に続いていく物語。

複数の主人公を動かしながら、プレイヤーはキャラクターの性格を想像し、それに沿った役を演じようと選択肢を選ぶ。役に忠実にあろうとする。しかし、それには偶然の選択ミスや失敗が挟まる。役に矛盾した行動は思い描いた物語をはずれ、その後の行動にも影響を与える。 

決して人を殺せぬ、穏健の思想で導く指導者マーカスを演じたいのに、誤入力で序盤に人を刺してしまう。演説では非暴力と和平の交渉を説くが、その手は一度血に濡れている。頭の中で繋ぎ変えられたキャラクターは、急進過激派の女性メンバーの顔色を窺うようになり、そのために暴力を誇示するマーカスへと堕ちていき、流されるままにとる優柔不断の行動は仲間の命を奪わせ、人間との和解の道も閉ざされていく。

一度情によって銃殺を躊躇ったコナーはしかし、取引で情報を引き出すために与えられた試練として、無辜のアンドロイドに引き金を引く。有益な情報は得られず、絆しかけていたバディの心も閉じられてしまう。人間らしく振る舞うべきか、アンドロイドとして非情な行いも目的のために行うのか。その揺らぎは全てを悪い方向に向かわせ、独断専行の末、潜伏先に到達するもマーカスに懐柔され、職務を放棄する。

この、己の有機的な選択、意図と不慮が混じり堕ちていく物語が迎えた帰結が尊いのだ。それは間違いなく、己が選び歩んだ物語の結末だ。

ノベルゲームの順当な進化であり、今作ではフローのダイアグラムも可視化される。しかし私はこのスタジオのゲームに限っては、他の選択肢を見たいと思ったり、コンプリートしたいと思わない。
『HEAVY RAIN 心の軋むとき』をクリアした際に、1周目と別の行動をとっていく2周目を行おうとしたのだが、この最初のゲーム体験にかかった魔法が解かれてしまうことがわかったからだ。
どれだけの分岐が用意されていて、逆に用意されていなかったのか?それはマジックの種明かしであり、神秘性を守るには最初のクリアを噛み締めて、ふれないことが最良と思えている。

ところでミーム知らなかったんですが、ゲーム中はそこまで気にならなかった。


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