俺と稀有(後編)
<前回のあらすじ>
・ネトゲで仲良くなった女の子が自ら積極的に寿命を迎えてしまった
前編を読んでね!
俺と稀有(5)
さて、稀有さんが亡くなったと聞いた翌日。
俺は都内某所の居酒屋にいた。
稀有さんの訃報をネトゲ仲間に伝えたところ、「あんまり落ち込むなよ。元気出せ!」ということで、草弓くんと長門くんが飲みに誘ってくれたのだ。
なんてイイ奴らなんだ…やっぱり「持つべきものは仲間」だな!
長門くん「ていうか鐘さんさぁ~~~~!いつまでウジウジしてんの?いい加減めんどくせーし、そこの窓から飛び降りれば~?そしたら稀有に会えるよ~?ほら!早く!」
草弓くん「なあ、この後カラオケ行かねー?え、気分が乗らない?ハァ~~~~~、鐘さんノリ悪ぃなぁ~~~」
うるせえ!俺は本気で落ち込んでんだよ!
前言撤回。
付き合う仲間の民度によっては、逆効果の場合もある。
どうにも身内が最低な感じだったので、稀有さんの墓参りには一人で行くことにした。
まあ稀有さんの実家は鳥取県。
東京からはかなり遠いし、どうせ誘っても来ないだろう。
当時は金が無かったので、移動手段は高速バス。
鳥取駅で「ムガ虎」さんという人と合流し、稀有さんの実家に向かう。
このムガ虎さんは、(生前の)稀有さんがオンラインで人狼ゲームを一緒にプレイしていた友達だ。
俺も(生前の)稀有さんと一緒に人狼ゲームをやっていた時期があるので、ムガ虎さんのことはよく知っている。ただし会うのは初めて。
どんな人なんだろうな…
やっぱムガ虎って名前だから、元ネタの漫画に登場するオッサンみたいな感じの人かな…
と思っていたら、鳥取駅に現れたムガ虎さんは20代半ばくらいの女性だった。しかも美人である。
マジかよ…チャットの文章では絶対に男だと思ってたのに…
そういえば(生前の)稀有さんもリアルで会う前は男だと思ってたな~
人狼プレイヤーは理屈っぽくなるから、チャットだけだと男に間違われやすかったりするんかな?
などと失礼なことを考えているうちに親御さんが車で迎えに来てくれて、無事に墓参りを完遂することができた。
ついでに「家に位牌があるから線香をあげていって」という親御さんの申し出を受け、家にお邪魔することになった。
そしてそこで衝撃の事実を知ることになる。
俺と稀有(6)
線香をあげ、位牌に手を合わせ終わると親御さんが1枚の紙を持ってきた。
どうもメールを印刷したもののようだった。かなり長文のメールである。
稀有さんは遺書のようなものは全く何も残していなかったため、死に至った原因については謎だった。
しかし事前に親御さんと電話で情報交換をし、恋愛問題で悩んでいたことが原因だろうと推測はしていた。
そして親御さんが色々と調べていく中で出てきたのが、このメールだった。
稀有さんの死に関する経緯は、おおよそ次の通りだ。
まず、(生前の)稀有さんには「好きな人」がいた。
名前がわからないので、ここでは便宜的に「彼くん」と呼称する。
そして亡くなる数日前、「好きな人とダメになってしまった」と語っていたことから、俺は稀有さんが失恋したのだと思っていた。
しかし、違った。
親御さんが言うには、その「彼くん」が、稀有さんに「付き合ってほしい」と言ってきたらしい。
ほんなら両想いやんけ!恋愛うまくいっとるやんけ!
ところがそうはならなかった。
稀有さんは、「あなたとは付き合えない」と断ったらしいのだ。
ハァ?????????
すまん、意味が、分からない。
ここで親御さんが持ってきたメールの文章を読む。
「彼くん」にあてたメールのようだ。
「ごめんなさい、あなたとは付き合えません。あなたのことは好きだけど、私が思っている理想の恋人関係というのは、真剣に議論ができて、お互いに尊敬できるような、そういう関係のことです。でも、あなたとはそういう関係になれるとは思えない。だから、ごめんなさい。今後もお友達として仲良くしてください」
ハァ?????????
すまん、意味が、分からない。(二度目)
め、め、め、めんどくせーーーーーーーー!!
ゴチャゴチャ言ってないで付き合ったらええやんけ!
いや、しかし、待ってほしい。
じゃあなんで稀有は死んだんだ?
フラれたわけじゃない、フッてるんだぞ。死ぬ理由が無い。
その理由も、親御さんは調べていた。
「彼くん」に直接連絡して、事情を聞いたらしい。
どうやら「彼くん」は、フラれたことにショックを受け、SkypeやSNSなど全てにおいて稀有さんをブロックしてしまったらしい。
まあ、気持ちはわかる。
告白してフラれた相手とは、関わりを断ちたいと思う人がいても不思議ではない。
だが、稀有さんは違った。
どうやら、稀有さんは本気で「今後もお友達として仲良くしてください」と思っていたらしく、全てブロックされて連絡がつかなくなったことに絶望してしまったようなのだ。
そう、自ら死を選ぶくらいに。
あ…
あ…
あ、あ…
アホか!!!
ブロックされたのが文字通り"死ぬほどつらい"なら、素直に付き合えばよかったやろ!!
俺と稀有(7)
さて、これで死に至った経緯はわかった。
ついでに、稀有さんがアホだったということもわかってしまった。
しかし稀有さんは、どうしてこれほどまでに恋愛に対する価値観を拗らせてしまったのか。
そのヒントも、先ほどのメールの続きに書いてあった。
「私には昔、すごく好きだった年上の人がいました。その人は議論が好きで、いつも対等な立場で意見を言ってくれて、お互いに尊敬しあえる、そういう関係でした。私はそういう恋愛がしたい」
なるほど。
どうやら、「議論好きで稀有さんとよく意見を交わしていた年上の人」が稀有さんの恋愛観を拗らせた原因のようだ。
イカれた奴もいるもんだな!全然心当たりは無いけど!
さらに、これは後日、稀有さんがレッドストーンというゲームをやっていた時代の元恋人、「上腕二頭筋」さんから聞いた話。
「2007年12月か、2008年1月くらいのことだけど。稀有が"めっちゃ好きな人ができた"とか、"今日は好きな人と一緒に人狼しちゃった~"とか、"好きな人とたくさん通話できた~幸せ~"とかみたいなことをレッドストーンのほうのグループで話してたよ」
う~~~~ん、心当たり、全然無いな?
俺が稀有さんと知り合ったのは2007年12月だけど…
人狼ゲームを一緒にやってたけど…
全然、誰のことかわからないな?
いや、嘘だ。
心当たりは、ある。
でも確証が無い。俺の考えすぎかもしれない。自意識過剰かもしれない。
この件について、俺は1ヶ月くらい悩んだ。
悩んだ結果、「真実はわからない。答えは出ない。だから、この件については俺が悪いということにしておく」と結論付けた。
そして俺は自分のスコアに「アシスト+1」を付けたのだ。
(ちなみに「彼くん」にはキル+1を付けておいた)
俺と稀有(8)
と、ここまでが重い話。
ここから先は笑い話というか、今回のオチだ。
稀有さんの怪文書メールを読み、おおよその真相を把握できたところで親御さんは言った。
「弟にも会っていってほしい」と。
お、おう…弟?
いや会うのはいいけど、気まずくない?
弟もアンタ誰?ってなるでしょ。
弟「あ、鐘さん?どもども~」
!?
俺のことを、知っている…?
弟「俺、影楼だよ。よくゲームで会ったじゃん。敵同士だけど。」
!?
た、たしかに、B鯖のエルソード(隣の国)に影楼というプレイヤーがいた…
ゲーム内で何度もボコられたから覚えてる…
お、お前、稀有の弟だったのかよ!
弟「そういうこと~ ちなみに姉ちゃんのアカウントを操作して、鐘さんと一緒にゲームしたこともあるw」
!?
!?!?
説明しよう!
稀有さんはもともと、FEZというゲームでは裏方(非戦闘員)を好むプレイヤーで、戦闘はあまり得意ではなかった。
しかし俺や草弓くんと親しくなって一緒に遊ぶようになり、いつの間にかメチャメチャ強くなっていたのだ。しかもゴリゴリの近接職。
なんなら"GLADIATOR"という、2007年の公式大会で準優勝したチームにも所属していたくらいだ。
そ、それがまさか、姉はVCだけで、操作は全て弟だったとは…
信じられん…
弟「びっくりしたでしょw」
いや~~~びっくりしたけど…
弟くんゲラゲラ笑ってるけど…
ええんか…?君の姉ちゃん死んでますけど…
弟「死人に口無し!」
その言葉を本当に正しい意味で使ってる人、初めて見たわ。
この話を持ち帰ってネトゲ仲間に共有したところ、稀有さんの死は俺たちの間で「笑い話」に昇華した。
稀有さんの死から13年ほど経った今でも、稀有さんの話は「笑い話」としてネタにされ続けている。
あるいは、俺がいつまでも落ち込まないよう、みんなが気を遣ってくれたのかもしれないが。
やっぱり「持つべきものは仲間」だな。
おしまい。
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