メイクブラシという武器
はじめてメイクした日のこと、覚えていますか?
私の記憶の中でのはじめてのメイクは、おそらく5歳の時。
当時習っていた新体操の発表会で、控え室で母にメイクしてもらったのを、ぼんやりと覚えるている。
5歳児にするくらいだから、リップを塗るくらいのうすーいメイクだったのだろうけど、
少しお姉さんになったような、あの胸が高なる感覚を今でも記憶している。
はじめて自分でメイクしたのは、中学1年生のとき。
なんだかメイクしてる感があるから、ファンデーションを買った。
周りの大人には「まだ子供は肌がきれいだから、そんなことしなくていいよ」と言われたし、実際対して変わらなかったけど、
自分でメイクしているということにどうしようもなくワクワクした。
自分は可愛くなっている、と少し強くなれるような気がした。
はじめてアイプチをした日。
高校の教室で、メイクの上手な友達が私にアイプチをしてくれた。
ずっとコンプレックスだった重いまぶたに線が入った時。
他の人から見ればただのまぶたの線だけれど、それができただけで少し救われたような気持ちになった。
学校の友達がみんな、「かわいいじゃん!」と褒めてくれてくすぐったい気持ちになった。
自分の世界が少し変わったような気がした。
思い返せば、はじめてメイクをした日には、
世界が少し変わるような甘いときめきと
武装して自分が強くなれたような満ち足りた気持ちがあった。
ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」を、映画館で見た。
ドラァグクイーンに、ハマった。
彼や彼女たちが、煌びやかなメイクや艶やかなドレスを着ることで、「強く美しいドラァグクイーン」に変身する姿に、どうしようもなく惹かれるようになった。
「キンキーブーツ」に登場するドラァグクイーンのローラや、ドラァグクイーンのリアリティ番組をみていると、
メイクをする前の彼や彼女たちはすごくいい意味で人間らしい。
世の中にある辛い事実や偏見に真っ正面から傷ついたり、苦しんだり、怒ったりしている。
そんな彼や彼女らは、ド派手なメイクをして高いヒールを履きステージに上がった瞬間、「ドラァグクイーン」になる。
自信満々で、自分と他人を愛しながら、世界を魅了する女王様。
この世のものとは思えないほど美しくて、強い。
なんてかっこいいんだろうと思った。
メイクブラシを手にして、強く美しく輝くように生き様が、あまりにも眩しすぎるのだ。
メイクブラシを手に取ることで、強くなれた人がこの世界にどれくらいいるのだろうか。
私もその1人だし、画面越しにみたあのドラァグクイーンもその1人なのかもしれない。
この世界で、私を強くしてくれるもの。
メイクブラシは、私に取っての武器だ。