日本で補聴器が普及しない理由
突然ですが、私はメニエール病のせいで、両耳に軽度の難聴があります。しかも進行性なので、これからどんどん悪化する予定。辛い。
最近はマスクとかフェイスシールドとかパーテーションのせいで、ほとんど何も聞こえません。「私もあんまり聞き取れないんだよね〜」とか言う人がいますが、そのレベルではありません。マジで何も聞こえてないです。
大きな道路沿いとか、駅のホームとか、オシャレな音楽がかかっているカフェとかでも、何を言っているのか本当にわかりません。先日、友人がかわいい財布を持っていたので、「どこで買ったの?」と聞いたら、小声で「メルカリ」と答えてくれたのですが、全く聞き取れず、結局大きな声で5回ぐらい繰り返してもらうことになりました。友人よ、ごめんなさい。
そんなわけで今日、補聴器を見に行きました。
『補聴器』とググったら、近所の『眼鏡市場』で売っているとのことだったので、徒歩で行ってみました。補聴器屋さんは都内にもたくさんあるし、メガネ屋さんでも売っています。
そしたら、普及しない理由がなんとなくわかったので、ちょっとまとめます。これで理解が深まってくれると嬉しいです…
理由1:補聴器をしている人が世界トップで少ない
とある調査によると、日本では難聴者の14%しか補聴器をしていないとのことです。一方でドイツでは37%、フランスでは41%、英国では48%、ノルウェイではたしか50%超えでした。
A 2018 survey by the Japan Hearing Instruments Manufacturers Association (JHIMA) shows that about 14% of people in Japan with hearing loss use hearing aids. Japan had the lowest rate of hearing aid adoption as compared to other countries including Germany (37%), France (41%), and Britain (48%).
難聴者の76%はどうやって暮らしているのだろうか…と疑問に思います。調査した人もすごいですけど…
理由2:安い補聴器がダサい
補聴器って「おじいさんの耳にかかってるバカデカい機械」みたいなイメージですよね。「可愛い補聴器」というだけで話題になったりもしましたが、まだまだダサいイメージはあります(もちろん可愛くして、オシャレを楽しむことは大事です)。
こういうダサい補聴器は、やっぱり安いです。補聴器と呼んでいいのかわかりませんが(集音器?)、1〜2万円ぐらいで買えたりします。
一方で、今日私が試した補聴器は、これでした。
Airpodsに似てますよね。充電ケース含め。ちなみにGood Design Awards取ってるらしい。ドイツのSignia社のStylettoというやつです。
つけるとこんな感じ。
モデルさんの白髪効果なのかわかりませんが、ほぼ見えません。しかもめちゃくちゃ軽い。でもこういうダサくない補聴器してる人ってめちゃくちゃ少ないですよね。
理由3:補聴器の補助金が少ない
補聴器の助成金ですが、私の住んでいる東京都大田区では、「中等度難聴児発達支援事業」と「高齢者補聴器購入費助成」があります。
「中等度難聴児発達支援事業」では、18歳以下であれば片耳12万3000円までの助成金が受けられます。12万3000円と聞くと大金に聞こえますが、補聴器は高いです。良いやつだと普通に片耳だけで20万〜30万円するので、普通に両耳で30万ぐらいは自腹で払う必要があります。
「高齢者補聴器購入費助成」では、70歳以上であれば2万円まで(1回のみ)が受け取れます。1回のみって何。2万円で補聴器なんて買えません。
もちろん身体障害者手帳を普及されていれば、本人負担の上限は37,200円までで、それ以上は自治体が払ってくれます。しかしこの身体障害者手帳を普及してもらえるのは、本当に全く聞こえないレベルの超重度の難聴のみです。
少し前に時の人となったゴーストライターを雇っていた作曲家の佐村河内守氏も、身体障害者手帳は返却しましたが、中度の難聴でした。中度の難聴は、普通に日常生活に支障をきたすレベルですし、補聴器が必要です。
すなわち、18歳〜70歳の間の難聴者のほとんどは、どんな補助も受けることができません。
一方でヨーロッパでは、軽度難聴でも補助金が出ますし、無料で補聴器がもらえたり貸し出しを行なっています。
福祉国家のデンマークでは両耳で12万円の補助金をもらうか、無料で病院のものを貸し出してもらうかを選べます。ノルウェイでは基本的に無料で貸し出しですし、英国でも無料でレンタルしており、電池代まで無料です。エストニアでも片耳8万円の補助金がもらえます。
理由4:補聴器の値段が世界トップで高い
主流な補聴器は、ほとんどヨーロッパのメーカー製です。ドイツ、スイス、デンマークのメーカーが市場の世界の6~8割を占めており、日本の補聴器もほとんどがヨーロッパのメーカーです。
今回は私が見に行ったSignia社(ドイツ)のStyletto 7xの価格を比較します。ネットで見つかった価格を出します。
デンマーク:両耳で21,500クローネ(37万円)、保険適応で26万円
ドイツ:両耳で5000ユーロ(65万円)、保険適応で4000ユーロ(52万円)
エストニア:両耳で4500ユーロ(58万円)、保険適応で42万円
英国:両耳で2700ポンド(42万円)
日本:両耳で106万円
デンマークでは26万円、日本では100万円。デンマークが安すぎて怖いですが、日本も高すぎ…100万円なんて出せない…中古車ですか…
しかも補聴器はフィッティング(何ヶ月かかけて調整)があるので、買ってはい終わり、じゃないんですよね。そのアフターケアも入っているのでしょうがない。
ちなみに眼鏡市場で「ヨーロッパで購入したモデルを、ここでフィッティングしてもらえませんか」と聞いたら、「適応しない可能性があるので難しいです」と丁重に断られました。当然ですよね。
理由5:補聴器をつけているかっこいい人がいない
私の大好きなYouTuberで英国のJessica Kellgren-Fozard(ジェシカ)がいます。
ジェシカは最強にポジティブなレズビアンでLGBTQ+界の女神なのですが、神経の難病のせいで18歳ぐらいから歩けない・頭痛で起きれない・耳が聞こえない・片目が見えない・すぐ骨が折れる・触覚が鬼鈍くて火傷とか怪我をしまくるなど、身体的にはものすごいことになっています。
彼女は補聴器の紹介とかもしています。ちなみにジェシカは補聴器をつけてもほとんど聞こえないので、病院から無料でレンタルしています。
ちなみに英国では同性婚が可能なので、ジェシカはクラウディア(女)という普通のトムボーイな歯科医と結婚して、精子を誕生日プレゼントに買ってクラウディアを妊娠させてルパートという息子を作り、病気ながらもマレーシアに旅行に行ったりしています。簡単にいうと、普通に楽しい人生を送っています。
私が好きなビデオで「My Wife is Not an Angel」というのがあります。「別に難病の私と結婚したからって、クラウディアが心優しい天使というわけじゃないわよ。たしかに彼女は身の回りの世話とかもしてくれたりするけれど、私だってクラウディアの頭撫でたりしてるもの!」と言い続け、クラウディアが「そうだそうだ!紅茶も作ってくれるし!」と言うという、最高なビデオです。
YouTubeには他にもBuzzFeedとかCUTとかが色々な難聴の人のビデオがあって、「耳が聞こえないのでも全然普通だし、補聴器つけてたってそれが自分だもの」みたいな風潮があります。
下のCUTのビデオでは、Cheyenne(読めない)という耳の聞こえない女の子が「あなた、マクドナルドから来たの?だってI'm lovin' itなんだもん❤️」と手話で言っていて、可愛すぎてネットが軽く炎上しました。
最近はネットフリックスでも聾(ろう)大学のドキュメンタリーが配信され始めました。Cheyenneも出ています。
補聴器が普及すればいいのにと思う今日この頃
「聞こえが悪いまま放置すると認知症になる」と言われていますが、実際に体験していて、本当にそうだなと思います。
軽度難聴は日常生活にものすごい支障はないのですが、「聞く」という作業にものすごいエネルギーと集中力を使うため、とても疲れるので、人に会いたくなくなります。人に合わないと鬱にもなるし、人間関係もしんどくなるし、そもそも頭を使わなくなります。
あとは、人に何度も何度も聞き返すのが辛くなります。何回も「え?」「なに?」と繰り返し聞かなくてはいけないので、会話がスムーズになりたたなくなります。相手はイライラしていなくても、申し訳なさで自分にものすごいイライラしてきます。
補聴器があれば会話もスムーズになるかもしれないし、何より見た目で難聴だと分かるので、相手が少し大きな声で話してくれるというのが大きいと思います。補聴器は雑音なども多いので、私は必要なとき以外はスイッチを切って、「難聴だから大きい声で喋って!」のサインとして使いたいと思っていました。
けれど日本ではやっぱり高いし、認知度も低いし、なかなかハードルが高いなと思いました。
終わり方がわかりませんが、今日は以上です。