《13通目》私の6月23日③
先生へ
11通目、12通目に続いて、書いていきます。
角の向こうにいたある女性と、目が合ってしまった。
彼女の名前はのちに知る事になるのですが、ここでは「T子さん」と呼びたいと思います。
T子さんは、小柄な女性で、はじめに見たとき、年齢は60後半から70歳くらいに見受けられました。大きな笠帽子を手に、ずっと礎を見つめていて。そして、帰ろうか、迷っているように見えました。
私はT子さんに話しかけようか迷って、ただ立ち尽くしていて…。そしてついに目が合ってしまったのです。
私は彼女におそるおそる近寄り、
れいん。
「大学生の〇〇(名前)です。沖縄戦について勉強したくて…。今日はどなたのところに来られたんですか?」
(みたいなことを言いました。すごく頭がごちゃごちゃで、どうにか思いつく限りの言葉で話しました…)
T子さん
「お父さんなんだけどね、探せなくて」
そうか、そうだよね、刻まれた名前は多すぎて、本当に探すのが難しい。
れいん。
「お名前、伺っても大丈夫ですか」
T子さん
「●●●●(T子さんのお父さんの名前)、〇〇(地区名)の。〇に〇って書いてね…」
分かりやすく漢字も教えてくれました。そして、私はT子さんが見つめていた礎の面に目をやり…。!、あった…2秒もかからなかったかもしれない。
れいん。
「この方ではないですか?!」
駆け寄って手を当てる。
すると、T子さんは「お父さん!」と声をあげて礎に駆け寄り、名前に触れました。そして文字をさすりながら、「お父さん、来たよ。来たよ。ごめんね探せなくて、お酒もさっき上からかけてしまったさ。」
T子さんはお父さんの名前を探すことができずに、この辺、という場所に、きっとお父さんにかかるだろうというところに、広くお酒をかけたのだと思います。
T子さんの後すがた、背中を見て、私は急に涙がこみ上げてきました。今日は朝早く家を出た私。休日なのにもかかわらず、お父さんもお母さんも、早起きして私を見送ってくれました。お父さんのことと、T子さんのお父さん。いろんなことが重なり、とても悲しい気持ちに…。目の前が涙でいっぱいになり、礎とT子さんの背中がぼやける。それでも、T子さんが泣いているのは分かる。私も、汗いっぱいの手でただ涙をぬぐうことに必死でした。
(おいー、勝手に声かけて、勝手に泣いて。他人のくせに図々しいぞ…。)
泣いている自分にそう思って、それでも、涙は止まりませんでした。
涙はあふれて、でも涙のせいじゃなくて、何の言葉も出てこない…。
T子さんは、
「戦争はダメだよ絶対。絶対にだめ。」
と言いました。今まで何度も何度も聞いてきた言葉。でも全然違う響きに、意味に聞こえた気がする。
そこである1人の男性がこちらの方に歩み寄ってきました。やばい、誰か来る、泣いてるのバレるぞクソ恥ずい、急げ!泣きやめ泣きやめ!
④に続く
2024.11.11 ②の刻銘案内の声、まじで頭ループする涙
れいん。
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