サブカル映画のワンシーンみたいな現実
何でもない飲み会。
「最近読んだ本がとてもよくて」
「『傲慢と善良』やろ」
「なんでわかったんですか」
「2人とも同じ本読んでたんですか、すごい、僕にも貸して下さい」
サブカル映画のワンシーンみたいだと思った。
ただ、激烈に流行っていた小説の名前を言っただけだった。
人間の脳は優秀だ。
いくらでもウンメー的に修正可能。
サブカル映画のワンシーンみたいだと思った。
ウンメーを注入してキマった2人は恋人同士になる。
そして時は経ち、ウンメーというドラッグの効力が切れる。
ある日の駅のホーム。あの日の3人。
「そう言えば借りていた小説、ようやく読み終わりました」
そう言って取り出されたのはジップロックに包まれた『傲慢と善良』だった。
サブカル映画のワンシーンみたいだと思った。
1冊の本だけが保存されて、2人のウンメーは腐っていた。
変わらないもの、変わってゆくものがこんなにも分かりやすく情景描写されるのは、サブカル映画に違いなかった。
この話をある人に語ってみると、その人は言った。
「昔サブカル女子と付き合っていて、別れ際その子が合鍵とフランス小説を返してきたんだよ。サブカルすぎるて…と思ったね。そんなエモいグッズよりも、俺は、彼女の家に置いていたパジャマとかエアリズムとかを返してほしかった。」
サブカル映画のワンシーンみたいだと思った。
事実は小説より奇なり、と言うが。
現実はサブカル映画より贋なり、とでも言っておこうか。