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アメリカで生まれたすべての子どもに自動的に市民権を与える制度(Birthright Citizenship)の廃止とその影響:アメリカ移民政策の行方

アメリカでは、Birthright Citizenship (出生地主権市民権)という制度があります。これは、アメリカで生まれたすべての子どもに自動的に市民権を与えるというものです。この制度は、アメリカ合衆国憲法第14修正条項に基づいています。

最近、ドナルド・トランプ大統領がこの制度を廃止する意向を示しました。具体的には、両親が合法的な移民資格を持たない場合、アメリカで生まれた子どもには市民権を与えないというものです。

この提案に対しては様々な意見があります。反対派からは「子どもには親の移民状況に責任はない」との声が多く、移民の子どもが市民権を得ることで、将来アメリカ社会に貢献できる可能性を広げるべきだという立場です。確かに、子どもには罪がないのですから、親の状況で不利益を受けるのは不公平だという意見は理解できます。

また、現在、合法・不法を問わず多くの移民の子どもたちがアメリカの重要な労働力となっています。例えば、建設業界や飲食業界、農業、清掃業をはじめとする様々な業界で活躍しており、これらの業界は移民労働者なしでは成り立たないとも言われています。2023年時点で、アメリカの労働力人口における米国生まれの労働者は約81.4%、外国生まれの労働者(移民労働者)は約18.6%を占めています。 (dlri.co.jp)

一方で、賛成派はこの制度を利用して不法移民がアメリカに滞在し続けるると指摘し、移民問題を厳格に見直すべきだと言っています。彼らは不法移民が恩恵を受けることに反対し、社会保障や教育などのリソースが過剰に使われることを懸念しています。

しかし、この制度を廃止するためには、アメリカ憲法の改正が必要となります。憲法改正は、まず議会で提案され、両院(上院と下院)で3分の2以上の賛成を得る必要があります。その後、州議会で3分の2以上の賛成を得ることで改正が実現します。これらの要件を満たすには、相当な政治的合意が必要となり、その実現は非常に難しいとされています。

確かに、この問題は簡単ではなく、アメリカの社会や憲法、移民政策をどう考えるかという大きな議論を巻き起こすテーマです。しかし、どんな政策が採られるにせよ、未来の子どもたちが平等にチャンスを得ることが大切だと私は思います。

私が住んでいるテキサス州では、ヒスパニック系の移民労働者がとても大きな存在です。合法・不法にかかわらず、彼らはテキサスの労働市場で欠かせない存在となっています。特に農業や建設業、飲食業、清掃業などで、ヒスパニック系の移民が非常に多く働いています。

例えば、農業ではヒスパニック系の移民が多くを占めていて、収穫や畑仕事などを担っています。これらの仕事はとても過酷で、地元のアメリカ人は避けることが多いため、ヒスパニック系移民が大部分を占めています。建設業でも、ヒスパニック系の移民労働者が多く、ビルの建設や道路工事、家屋の建設、屋根の葺き替え、住宅リノベーションなどで働いています。

飲食業でも、ヒスパニック系の移民が多く働いていて、レストランやカフェでの接客や調理を担当しています。

こうしたことから、ヒスパニック系移民労働者はテキサス州の経済や社会にとってとても大切な役割を果たしていることがわかります。

テキサス州の農業で働いている多くの労働者はヒスパニック系の移民、不法移民です。もし不法移民が排除されると、農業分野で働く人手が足りなくなり、収穫が遅れたり、収穫できない作物が増える可能性があります。その結果、野菜などの価格が上がることでしょう。

農業は、低賃金で働く移民労働者に多く依存していますので、彼らがいなくなると、農業のコストが増し、最終的には消費者が価格を負担することになります。しかし、移民労働者が行っている仕事は過酷で、彼らの存在がなければ、多くの業界が成り立たなくなります。移民労働者は、私たちの食料を支えるために、見えないところで頑張っているのです。

私としては、彼らの賃金を上げ、労働環境を改善することが必要だと考えています。少し野菜の価格が上がったとしても、日々の食べ物を作るために過酷な労働をしている彼らをサポートすることが重要だと思います。移民労働者に感謝し、その努力を認め、支えていくべき時だと思います。

不法移民の労働者の環境改善には、雇用主が市民権やビザのサポートを行うことが一つの方法として考えられると思います。雇用主が移民労働者に対して合法的な労働許可を得るための支援を行い、労働条件を改善することで、移民労働者の社会的地位や法的な安定を確保できます。移民労働者は安定した職場で働きやすくなり、雇用主にとっても安定した労働力を確保できるようになります。

雇用主にとってのメリットとしては、合法的な労働者を雇うことで、法的リスクを減らすことができます。(税務署からの監査や罰則を避けることができる)。


***テキサス州の人口分布

白人(非ヒスパニック系): 約11,52万人
ヒスパニック系: 1,175万人
黒人(アフリカ系アメリカ人): 約377万人
アジア系: 約152万人人 ​
違法移民:(推定)173万人



***合衆国憲法改正について

アメリカ合衆国の憲法改正プロセスは非常に厳格で、長い手続きを経て実現します。まず、憲法改正を提案するには、アメリカ合衆国議会(上院と下院)で提案される必要があります。議会での提案には、3分の2以上の賛成を得なければならないという高いハードルがあります。これにより、改正案が議会で正式に提出されることが決まります。

次に、改正案が提案された後、その内容は州議会に送られます。ここでも、改正案が承認されるには、各州議会で3分の2以上の賛成が必要です。この段階で重要なのは、アメリカには50の州があり、改正案が憲法に加えられるためには、38州以上で賛成を得る必要があるということです。これは、すべての州の議会で改正案が受け入れられる必要があるという非常に高い要求を意味します。

このように、アメリカの憲法改正プロセスは、議会での賛成、州議会での賛成という二重の過程を経て、最終的に合衆国憲法に変更が加えられる仕組みです。この高い賛成割合をクリアするには広範な支持を得る必要があり、憲法改正は簡単に実現できるものではありません。このため、アメリカでは憲法改正は非常に稀であり、その実現には政治的合意や国民の意識が大きな影響を与えます。

また、アメリカ合衆国憲法の第5条には、この改正プロセスの詳細が記されています。このプロセスの厳格さは、憲法が安定性を保ち、軽率な変更がなされないようにするための重要な仕組みとなっています。

このように、アメリカの憲法改正は簡単ではなく、長い手続きを経て実現するものです。それでも、社会の変化や時代の流れに応じて憲法を修正することは、合衆国の法の基盤を守るために不可欠なプロセスといえます。




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*出生地主権市民権とは、

出生時に自動的に市民権が付与される法的原則です。出生地主権には2つの形式があります:血統に基づく市民権と出生地に基づく市民権です。出生地に基づく市民権は、「jus soli」として正式に呼ばれ、ラテン語で「土壌の権利」を意味します。

アメリカ合衆国では、出生地主権市民権は憲法第14修正条項によって保障されています。具体的には、「アメリカ合衆国で生まれ、かつその管轄に従うすべての者は、アメリカ合衆国およびその居住州の市民である」と記されています。この原則は、1898年のアメリカ合衆国最高裁判所の判決「United States v. Wong Kim Ark」によって確認され、移民の親を持つアメリカで生まれた子どもは、親の移民ステータスにかかわらず市民権を有すると明確にされました。

アメリカでは次の2つの組み合わせによる市民権付与が行われています:

  • 制限のない出生地ベースの市民権(jus soli):親のステータスに関わらず、アメリカの土壌で生まれた者には市民権が付与されます(ただし、外国の外交官の子どもなどには例外があります)。

  • 制限された血統ベースの市民権(jus sanguinis):アメリカ市民の親を持つ者には、アメリカ国外で生まれた場合でも市民権が付与されます。ただし、法的要件を満たす必要があります。

世界的には、出生地主権市民権はアメリカでは一般的ですが、他の地域ではあまり普及していません。この原則のアメリカにおける歴史的な基盤は、法的な不平等を排除し、包摂性を促進することを目的としていることを反映しています。

https://www.americanimmigrationcouncil.org/topics/birthright-citizenship


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