父の本棚
休みの日に、
築100年になろうかという実家で
ぼけぼけと、
朝ベランダからピーヒョロヒョロと
昼ケロケロと庭先で
夜には枕元の灯りでちろちろりんりんと
鳥や蛙や秋の虫の歌声を聴いておりました。
父は元編集者で、母は元出版社のタイピストだったからか、子どもの頃からゲームの代わりに本を与えられて育ったわたし。
父の本棚には、彼の若かりし頃の時間がそこにあるような気がして、なんだか、例えようもない気持ちになりました。
あまり若い頃の話をしない彼のかわりに、
多くの時を一緒に過ごしていた母から時折聞く彼の話しは、若さゆえの時代ゆえの熱を帯びたものでした。
歌の神田川そのものに、
川沿いの本屋の二階に住み
夜な夜な談義を繰り返し、
当時お決まりの捕物帳などもあり、
母と出会い、新宿東口の小さなマンションで暮らしはじめた頃の話。
田舎に戻ってからの父は
いつもロングヘアにサングラスで、
わたしの同級生の父兄の中でも
幼心にも非常に浮いているように映りました。
田舎に戻ってペンを長靴に変えた彼は
それから、30年以上たっても
真っ直ぐな瞳のまま、ふた回り以上も下の若者たちに
畑で後進育成に励んでいる。
彼の原点は、
あの頃の「自分がやらなくては」なのでしょうか。
そして、
彼の思いの中に、きっと、わたしの原点があるのでしょうか。