なおちゃんとトラ猫ルー
さっきから、お庭で、どろのおまんじゅうを作っているのは、なおちゃん。もうすぐ三つです。それを、少しはなれたところから、ながめているのは、トラ猫のルー。しましまのぐあいが、本当のトラみたいに強そうなのが、じまんです。
ルーが、少しはなれたところから見ているのには、わけがあります。この前みたいに、
「はい、ルー、おまんじゅ、どうじょ」
なんて、いきなり口につっこまれては、かないません。
だからといって、さっさとひとりで、夕方の散歩に行くわけにもいきません。
だって、生まれたばかりのなおちゃんが、はじめて、ルーの家に来た時、
「きょうから、ルーは、おにいちゃんなんだから、なおちゃんのこと、よろしくね」
って、ママにたのまれたのです。つまり、これも、おにいちゃんの大切な役目なのです。
「ルー、こうえんに行こう!」
なおちゃんが、ぱっと立ち上がりました。
「だめだめ、ひとりじゃあぶないよ」
「だいじょぶよー、なおちゃんが、いっしょだから」
「だから、だめなんだってばー。あ、まってー」
なおちゃんは、ちゃんと、まっていました。お庭のすみっこに、しゃがみこんで。
「あれ、かたちゅむりさん、おうち、おいてきちゃったの?」
ルーが、となりから、のぞきこみました。
「なおちゃん、それは、ナメクジだよ。もともとおうちは、もってないんだ」
「ふーん、ナメクジラさんは、おうちがないの。かわいしょねえ」
なおちゃんは、たっぷり同情してから、
「ナメクジラさん、また、あとでねー。なおちゃん、これから、ブランコのりにいくの」
そう、なおちゃんは、ブランコが大好きなんです。きょうだって、ほーら、走って走って、家の前のこうえんのブランコにまっしぐらです。
「ルー、いっしょにのろう」
ルーは、ブランコが、とくいじゃありません。
「ぼくは、いいよ」
「ルーも、のろうよー」
でも、なおちゃんに言われると、ルーはよわいのです。
「わかったよ」
ルーは、しぶしぶ、なおちゃんのとなりに、すわりました。
「いくよー。あれ? うごかないなぁ」
そりゃそうです。なおちゃんは、まだひとりで、こげないんですから。
「そうだ、風さーん、ブランコおしてー」
それを聞いた風は、はりきって、びゅーんと、なおちゃんのせなかをおしました。
ブランコが、ゆれます。
「うわー!」
ルーは、びっくりしてブランコから、とびおりました。
「わーい、風さん、ありがとう!」
なおちゃんは、大よろこびです。
「なおちゃん、もう帰るよ。ほら、暗くなってきた」
ルーが、ちょっぴりふくれて言いました。
「ほんとだ。お月さまに、でんきついてる」
なんと気のはやいお月さまが、まだ少し青い空のまん中で、かがやきはじめました。
「ルー、かえろう」
かけだしたなおちゃんのあとを追いかけながら、ルーは、思いました。おにいちゃんて、らくじゃないなあ。