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難読文書をやいのやいのする(まちの不思議 おもしろ探究日記 #10)

(本記事は雑誌『社会教育』2023年4月号に掲載された記事を転載しています)

「不登校とか教育のことについて意見出せるらしいよ!みんなでパブコメ出そう!」
「いいね!出す出す!」
「これ、不登校だけじゃなくて教育全般の話?いろいろ出せそう!」
「そうだね!でも、何を書いていいのかわかんなくなりそう…」
「こういうの読むの、苦手なんだよね…文字が並んでると、読む気が起きなくて…」
「なんか、みんなで読んであれこれ言い合う会とかできたらいいのにねー」
「たしかに71ページは、一人で読むには心が折れる量だわ…」
「じゃあ、やいのやいのする会、やろう!」

一月末、子育て情報のやり取りを中心に友人たちが集まるLINEグループに、友人が持ち込んでくれた話が展開し、「"次期教育振興基本計画の策定に向けたこれまでの審議経過報告に関する意⾒募集"について、やいのやいのする会」、もとい、「ここから五年間の国の教育の在り方についてやいのやいのしましょ♪」の会を、オンラインで開催することになった。

そもそも「教育振興基本計画」とは何だろうか。「審議経過」とは何のことだろうか。資料の表紙に書いてあるこの言葉たちが、もう既にわからない。これはいったい何で、誰が何のためにどうやって作ったもので、どんな風に活用されてどんな影響があるものなのか。パブコメの前段にある構造がまったくわからないので、資料を読んでも言葉が入ってこない。そんな中では、何をどうやって意見したらいいのかもわからない。

そこでまずは、教育振興基本計画とは何か、誰がどうやって作っているのか、私なりに紐解いて、解説することから始めることにした。

教育基本法。教育ビジョン。中央教育審議会。教育行政に関わっている人であれば、当たり前に馴染みのあるこれらの言葉たちも、そうではない人たちにとっては呪文のように聞こえると言う。しかし、そう言う私の友人たちも、教育について熱心に考え、意見を出したいと思っている当事者の市民である。

平成十八年に教育基本法の改正があり、五年ごとの教育計画が作られるようになり、各自治体では教育ビジョンという形に落とし込まれるようになったということ。そして、そこには私たちの暮らしの目の前にある学校や地域での学びについて、ものすごく具体的に書かれているということ。そして逆に、そこに書かれていないことは、行政職員の方々も取り組むことが難しいということ。そうやってすべてがつながっているんだという事がわかると、全ての大元である、今回の国の「教育振興基本計画」の位置づけもわかってくる。また、それを審議している中央教育審議会とは何なのか、具体的にはどんな背景を持った人たちが、どうやって議論をしてきたのか。そこを見ていくと、また計画の解像度もグッと上がる。

そうやって今回の計画につながる要素を引っ張り出して、解説資料にまとめていった。

難解文書を解読する

さて、いよいよ計画の内容を読んでいこうとページをめくるが、すぐに手が止まった。文字の羅列に、どこに何が書いてあるのかがわからないのである。行政文書あるあるだが、見出しが目立たず埋もれているので、文書の構造がまったくわからない。視覚的に見やすくするために文字の大きさを変えるとか、改ページを挟むといったデザイン的な工夫が徹底的に排除されているため、読んでいる最中に、どこからどこまでが何の話で、今はどの話をしているのかわからなくなってしまう。

わかりやすいように、パワーポイントに一枚ずつ見出しを付けながら、見やすくまとめていくと、それだけで今回の計画の内容がすっと入ってくるようになった。「読む気が起きない71ページの難解文書」が「ここから五年間の国の教育の在り方について考えるための資料」になった瞬間であった。


パブコメが持つ影響力とは

さらにもう一点難解となっているのが、意見募集(パブリックコメント)、通称パブコメとは何か、である。何のために意見が集められ、どうやって意見を出せばいいのか。そして、出した意見はどのように扱われていくのか。この仕組みもまたわからない。

よくあるパブコメでは、出来上がった行政計画について、最終確認の意味合いで行われることが多い。そういった場合は、誤字脱字や、事実や法律に反するものを除いて、修正変更が行われることはかなり少ない。そのため、せっかく一生懸命読み込んで意見を提出したが、全く反映されなかったと落胆する、というのもパブコメによくある話である。

しかし今回は、「これまでの審議経過についての報告(まとめ)」についての意見募集であり、審議は今後も続いていく。そして、その審議を経て計画が最終的に出来上がる。つまり、できあがる前の段階での意見募集であり、どのように反映されるのかは明確ではないものの、何かしら影響していけるような感覚を持つことができる。そこに今回のパブコメのおもしろさがある。

さらに、今回は意見募集の専用のフォームが別途用意されており、そのフォームでは[目標]に関する意見が提出しやすくつくられていた。それはつまり、この[目標]について意見が欲しい、という事であるように思われる。さらに資料を見ていくと、この[目標]の中には【指標候補】という項目があった。この「候補」という柔らかさのある表現が使われているということは、つまり今回の意見募集の一番の狙いは、この[目標]の中の【指標】を充実させていくことであり、審議会はそこの意見を一番求めているのではないだろうかと予想された。そうやって見るべきポイントを絞っていくと、自分の考えも整理しやすくなり、意見も出しやすくなるように思われた。

と、ここまでがパブコメの前段である。この前段の解説だけで三十分かかったが、ここの共通理解を作らないと、みんなで話したいことを話し合うところにはたどり着けない。そう考えると、「パブコメは難しい」「行政書類はわからない」という声が挙がるのも納得である。

つっこみを入れながらやいのやいのする

さて、やっと入口に立てた。いよいよ教育計画の内容の話である。見出しごとにまとめた資料を見ながら、パブコメの内容をみんなで見ていく。まずはコンセプト、方針、そして具体的な目標と指標候補である。

今回の計画では、この国における教育のすべてが扱われているので、その領域は多岐にわたる。それをまとめるコンセプトや方針は横文字も多く、一般的にはなじみのない言葉も並んでいる。なんというか、少し詩的に聞こえてきてしまうくらい、ストンと落ちてくる言葉ではなく、みんなでつっこみを入れながら、かみ砕いていくという形になった。

具体的な目標や指標候補については、全部を理解するというよりは、興味があるところについて、自分の意見を自分で確認していくことが大事である。私自身も興味があるところしか読めていないし、わからない単語もたくさんある。そのため、私が解説するという形ではなく、資料を見ながら気になるキーワードをコメントであげてもらい、私が読み上げていくという形でやいのやいのと進めていくことにした。

例えば、不登校、人権教育、社会教育、学校施設などについてコメントが出た。

不登校については、指標のところで不登校特例校の具体的な設置目標値が出ていて、ここまで具体的なのは、やっぱり高尾山学園の方が委員にいるからではないかとか、この数値があることで自分の自治体には落ちてくるのかどうかとか、そういった声も挙がった。人権教育については、いじめ問題と同じ項目で扱われていたが、そもそも別の項目として扱うべきなのではないかという疑問の声も挙がった。また、いろんな目標の指標として子どもたちへのアンケートの回答の割合というものも多く、このアンケートの項目そのものへの意見も出たりした。この質問項目で本当に知りたいことは聞けるのだろうか、と。

さらに、社会教育については、学校教育に比べてあまりに指標候補が少なく、まだまだ議論が足りない領域なんだねという声も挙がった。また、学校施設の話では、学校のトイレが怖くて使えず、毎日八時間以上我慢していた、といった個人のエピソードなども出てきた。他にも、そのままパブコメとして届けたらいいような意見がたくさん出た。

具体的なエピソードやいいね!を届ける意味

すべての内容をやいのやいのと見終わった後、自分の意見を届けることの意味についての話が展開した。

まずは、n=1(一つのサンプル)の意見、具体的なエピソードを届けることの意味である。計画を作っている担当者の元には、代表者がまとめた「みんなの意見」はたくさん届く。しかし、n=1の本当のリアルな声は届かない。具体的なエピソードは、そのまま反映されることはほとんどないが、その施策が必要だということの根拠となり、取り組みの説得力や解像度があがる。場合によっては、担当の方がまだ取り組めていないけれどやりたいと思っていることを後押しすることにもなる。

次に、ポジティブフィードバックの意味についても意見が出た。行政に意見を届けるとなると、どうしてもよくないところを指摘するという形になりがちだが、いいね!という意見も積極的に出していけるといいのではないか、ということである。それは、行政職員の方々が施策をやっていてよかったと思える瞬間にもなるはずだし、すでにやっているいい施策をやめない理由にもなる。計画を作っているのも、実行しているのも人であり、自分がやっていることが評価されることは誰にとっても嬉しいことである。

そして、担当者その人に直接届けることができるということの意味も大きい。例えば、その担当者に会いたいと思っても、なかなか直接会うことはできない。しかし、もしその担当者が目の前にいて、話しかけられる機会があるとしたら何を話すのだろうか。その人には何を知っていてほしいのだろうか。そんな、直接手紙を書くようなイメージを持ってみると、自分が伝えたいこともわかってくるのではないだろうか。

会が終わった後、「パブコメとは、職場のトップの頭がいい人が出すものだと思っていた。でも、そんなことないんだね。」という声が届いた。一部の人しか出せないなんて、そんなわけがない。パブコメはすべての人に開かれている機会であり、誰もが出せる、届けたい声がある人が声を届けられる機会なのである

さて。この教育計画の今後の審議はどうなっていくのだろうか。また次の経過報告が出てきたら、みんなでやいのやいのしていきたいと思っている。そして、本誌を読んでいる皆さんとも、社会教育の視点からやいのやいのできたらおもしろそうだなとも思ったりしている。

これから五年間の社会教育について、この計画に書かれていることをもとに、みんなでやいのやいのする。昨年から二ヶ月に一度、編集部が「読者交流会」をやってくれているので、そういった機会を活用しながら、みんなで楽しんで盛り上げていけたらいいんじゃないかと思っている。


当日の様子をYouTubeで配信しています。
よかったらご覧ください。


▼ 雑誌『社会教育』

https://social-edu.com/


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