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直木賞受賞『心淋し川』〜江戸の日常を切りとる〜

2021年直木賞受賞作。江戸の町に住む人々を6つのエピソードから切りとって描いている。

聞き慣れた東京の地名が度々楽しい。
根津、千駄木、吉祥寺、渋谷、品川。
江戸の名残りを見つけに、散歩したい気持ちに駆られる。

※ネタバレあります。

📚一読した印象📚

6章それぞれ異なる主人公が登場する。
それぞれの章が絡み合う伏線もはられているが、残念ながら「最後に全てがつながった。すっきり!」という感覚にはならなかった。

直木賞には、ガンガン読み進めたくなるような没入感のある作品を期待してしまったので、個人的には満足度はあまり高くなかった。

たしかにミステリー物でもないし、純粋な短編集として情緒と物語を楽しむ作品なのかなぁ。

🎐エピソード紹介 〜心淋し川〜 🎐


本書のタイトルとなっている一つ目のエピソード。
主人公ちほは、実家の居心地が悪く「どこかに行きたい」「新しい人生を歩みたい」と葛藤をしている。

ちほの心境や人生を描写するのが川。流れぬ川と重ね合わせる。行きようがなく、淀みを増す川だ。

絵師の元吉と出会い、急に清冽な水が差したような感覚になる。初恋であり、パッとしない人生に刺激を与えてくれた存在なのだろう。「変われるかもしれない」という期待感を感じる。

他のエピソードと比べると極端に悲壮感を感じる話ではない。キーパーソンである茂十との「川」に関する会話のシーンが出てきたりと、実はラストエピソードまでしっかり橋渡しをしている章だ。

🌿エピソード紹介 〜冬虫夏草〜 🌿

最も印象的なエピソード。唯一のバッドエンドで後味悪かったのがこのエピソードである。

江戸版「毒親」。一見、甲斐甲斐しく息子の世話する吉。育ちが良く、身体が不自由で横暴な息子の面倒を見続け、周囲からは憐れみの目で見られている。

しかし心のうちは、嫁を毛虫に例えて嫌い、息子の不幸さえ「これで自分の側にいてくれる」と、密かに喜ぶ毒親だ。

桜の木で見つけた「冬中夏草」という菌。
漢方としても使われる高価なものだが、蛾のサナギに付着していて、サナギは孵化することなく死んでいた。

まさに母と息子の姿。外面が良くても本性は自分のことしか考えていない吉にゾッとした。

📚作品から学ぶこと📚

過去や家柄、見た目など、自分ではどうしようもないことがある。(現代ではどうにかなっても当時はどうしようもなかったのだろう)

それでも懸命に向き合い、もがく人々。
全てが好転するわけではないが、例え間違っていても何かを変えようと行動する人は、最終的には誰かに助けられたり希望の光が垣間見えた。

反して、吉のように、元々の家柄は良くとも変化を恐れ続ける者は、周囲さえも不幸にする。

もがいて、行動して、少しでも理想の自分に近づく姿勢を江戸の人々から見習いたい。
そして谷根千でゆったり散歩しながら食べ歩きでもしたいなぁ。

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