ラブレター
どうにかして貴方に会いたいと思った。
そんなのは叶わないというのに。
*
そうだ、手紙書こう。
突然の思いつき。このSNS全盛期だというのにあえて私は手紙を選んだ。
というのも、私はあるインフルエンサーが大好きだ。「好き」というのは恋愛感情としての「好き」で、俗にいう「リアコ」に該当するんだと思う。
彼のSNSは全てチェックするし、Twitterでは彼のツイートに頻繁にリプをし、YouTubeにはコメントを残す。
とにかく彼の目に留まりたくて必死。こういうのって「イタい」って言うのかもしれないけれど、それくらい本気で好きなのだ。だがしかし彼を好きな子は沢山いる。大人数のファンの1人である私の存在なんてきっと知らない。
そんな子たちには負けないぐらい好きということを伝えたい。伝えざるにはいられない。そんなときに思いついた「手紙」。単純だけど、手書きの方が思いが伝わるかなと思った。
とはいっても彼から返事が返ってくるとは1mmも思っていないし、一方的に送るだけだ。所謂ファンレターってやつ。うんそうそう返事なんて来るわけない。
…いやもしかしたら。
いやいやでも望み薄薄薄だ。それでも彼の目に止まってくれたなら。私の手紙を読んでくれたなら、彼は一瞬でも私の存在を認識するだろうか。
そんな下心満載で、私はさっそく家を出た。
今、彼に向けての手紙を書こう。
*
さっそく雑貨屋さんでレターセットを買う。かわいいやつではなくあえてシンプルにした。スタバに寄り、注文をすませて席に着く。家じゃ母にバレたら絶対に向こう1週間は笑いもの扱いだ。
さて、何を書こうか。まずは自己紹介だよな。で、好きです、っと。
いやいやいきなり重いか。じゃあ何を書けばいいのか。てか好きってどうやって伝えたらいい?好きは好きなんだけど、それを言語化できない。いや、もう好きって言葉で言語化されてんのか!?
なんだ!?
TwitterのリプやYouTubeのコメントすら時間をかけて推敲するのに、手紙なんて何日あっても足りない。てか何書けばいいか分かんないわ。
そうだな、まず彼の事が好きになったきっかけとか書くか。あとは好きなところを箇条書きで…。でも彼が気持ち悪いと思わないように。重荷にならないように。めんどくさいと感じないように。
こいつイタい子だなと思われないように。
あれ。
そう思えば思うほど書きたいことが分からなくなってきた。
「なんで手紙を書きたいって思ったんだっけ?」
好きって気持ちを伝えるため。
「なんで好きなの?」
そんなの分かんないけど、彼の全部が好き。だからSNSも全部チェックするし、彼のことを誰よりも知りたいと思ってる。
「そんなうすっぺらい好きが書かれた手紙、彼の元に届くかすら分からないのに?彼の目にとまる保証なんてどこにも無いのに?
そんな下心だらけの手紙。」
便箋が濡れた。
目から涙がこぼれ落ちたことに気づく。
彼の好きなところってなんだろう。
なんで好きになったんだろう。
きっかけはひとつの動画だった。彼の作る世界観が好きだった。そして動画も面白かった。この動画を作るか彼のことをもっと知りたくなった。
それだけ。
彼の一挙一動に興味があるし、彼が同じ世界にいると思うだけで視界が明るくなる。彼が発信する世界はなんだか特別で、自分にはないものを持っている。
たとえ世界中が君の敵になったとしても、自分だけは君を好きでいる、根拠はない自信がある。
そんな素敵な人の隣に、もし居られたら。
それ以上の幸せなことなんてない。
どうにかして気持ちを伝えたい。好きが溢れる。たとえ彼に「イタい子」と思われようとも。思いが一方通行でも。叶わないなんて分かっている。でも一瞬でも彼の目にとまりたかった。
そんな、普通じゃない、普通の恋をした。
1人の男性としての貴方を好きになりました。
いつもありがとう。生きる糧をくれているのは貴方。
そう、書こう。
便箋いっぱいに書いた文字を見て、緊張する。
届くだろうか。
届くといいな。
どうか、届いて。
*
事務所にいたマネージャーからいつも通りファンレターを貰う。パラパラと便箋を見ていると、ふと、目に止まった便箋があった。差出人は書いてない。その場で封を開ける。
中にはたくさんの愛。
どうしてか会いに行きたくなった。
差出人がわからない。そんなのは叶わない。
けれど。
僕の方こそいつもありがとう。
ちゃんと届いてるよ。