御伽の森
——あの少年を、助けなさい
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プロローグ ――—今回はここ
神隠し
憂鬱退屈夢うつつ
北極星を見つける旅へ
御伽の森Ⅰ
御伽の森Ⅱ
御伽の森Ⅲ
御伽の森Ⅳ
エピローグ
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『プロローグ』
人生に絶望して自らの命を絶ってしまう人の気持ちが、僕には少し分かる。
彼らは「死にたい」なんて思っちゃいない。
仮に言葉で死にたいと言っていたとしても、それは正確な表現ではない。
より正しい表現をするとすれば、それは「どうしても生きるという選択をするに見合うだけの理由が見つからない」というものだろう。
なんとなくで生きていけるほど人生は甘くないし、逃げ切れるほど短くないのだ。
人は死を単なる「悲しい出来事」だと捉えている。そこに深い理由は何もない。
いずれ死を迎える理由は「細胞の機能を体が維持できなくなるから」と科学的にあっさりした回答で大半の人は満足しているし、それ以上深く考える人はあまりいない。
だが、生きる理由となるとどうだろうか。
「たまたまこの世に生れ落ちた生命体、細胞群の生命維持活動」だとあっさりした回答で人は満足するだろうか。
死は一瞬の出来事であるが、生きることはあまりにも長い時間がかかる。
この長い期間をなんの理由や根拠もなく心穏やかに暮らし続けられる人が、この世に一体どれだけいるだろうか。
この世に神がいるとするのであれば、問うてみたい。
「なぜこの宇宙を創ったのか」と。
「私はどうして生きているのか」と。
「なぜこんなにも苦しいのか」と。
人生全てが嫌なわけではない。
大切な仲間もいるし、守りたい人だって将来できるかもしれない。
人を愛すことは、僕にもできる。
でも、どうしてもわからないのだ。なぜ生きていくのかが。
どれだけ頑張っても報われない努力もある。
好きでも叶わない恋もある。
仲良くしていた人と嫌悪な関係になってしまうこともある。
あんまりじゃないか、なぜこんなにも苦しいのだ。
「この宇宙はビックバンという巨大爆発によって誕生しました。もともとは何もない静かな極小空間が宇宙の源となっていて…… 」
科学は説明する。
なぜこの宇宙が生まれたかを。
どのようにしてこの地球上に生物が誕生したのかを。
でも、納得できない。小さい頃からそうだった。都合よくごまかされている。ビックバンだけでは宇宙誕生の理由を説明することはできない。
ビックバンは化学反応であって宇宙誕生の原因ではない。手元にある石と石をぶつけて反応を起こすことはできても、何もないところから石を生み出すことはできない。
「なぜこの宇宙は生まれたのか」「なぜ私達は生きているのか」
誰もこの答えを知らないのだ
「なぜ僕は生きているのか」
その疑問を抱えたまま、僕は一人綾杉の木の前に立っていた。暗闇で月光に照らされた大木が轟轟と音を立てながら葉を揺らしている。
樹齢千年を超える大木を前にして、僕は心の中で問うてみた。「これほど長く生きていれば何か見えてくるものがあるのだろうか」と。
この大木はどんな景色を見てきたのだろうか。
樹齢千八百年という綾杉の木は、暗い夜風に揺られながら僕を見下ろしている。
僕は彼と目を合わせながらこの大木が生まれた日を、そしてこの宇宙が誕生したはるか昔を思い描いてみた。
遠い過去に思いを馳せる。
自分がこの百年という短い一生の中で何をするべきなのか、何のために生きていくのか、答えを探していた。
「僕はどう生きていくべきか」
夜風に揺られながら、綾杉の木と呼吸を共にし、この世界への疑問を考えていた。
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