マルクス・レーム選手は差別されていた?!
まず書いておかなければならないこととして、裁判等では欠かせない“疑わしきは被告人の利益に”という考えに基づけばマルクス・レーム選手が差別されていたと断定することは出来ない。
また、彼が差別されていたと仮定して、反差別の運動は被害者である彼の気持ちに寄り添った形で行われなければエセ正義となる。
そういったことを考慮した上で今回のまとめを読んで頂けると幸いだ。
マルクス・レーム選手はドイツの陸上選手だ。
彼は元々ウエイクボードの選手だったのだが、2003年に練習中の事故で右脚の膝から下を切断したのだそうだ。
彼は2005年にウエイクボードに復帰し、その後陸上競技に転向して走り幅跳びでその才能を開花させた。
2014年にはドイツ選手権で健常者に混じって出場すると健常者を破って優勝したり2021年6月1日には8m62cmという記録を叩きだしたのだそうである。
これは8月2日に行われたオリンピックの走り幅跳びで金メダルを獲得したギリシャのミルティディアス・テントグル選手の記録(8m41cm)を上回る大記録だったのだ。
ちなみに健常男子の走り幅跳びの世界記録は1991年にマイク・パウエル選手が世界選手権でマークした8m95cmだそうで、もしかするとレーム選手はこの記録を視野に入れているのかもしれない。
実はレーム選手は2016年のリオデジャネイロオリンピックや東京2020オリンピックに出場したいと熱望していたのだそうだ。
関連記事によると「メダル争いではなく象徴的な意味で出場したい」と彼は言っていたそうで、オリンピックとパラリンピックの共存を望んでいたようだ。
しかし残念ながら、IOC(国際オリンピック委員会)からは「義足が有利に働く」、「テクニカル(道具)ドーピングに当たる」としてどちらも出場は認められなかったのだそうだ。
こういった理由でオリンピックに出場出来ないことは差別に当たるだろうか?
乙武さんがあげられているこちらの動画を見て頂きたい。
https://www.youtube.com/watch?v=D7a3yJMVvSg&t=453s
乙武さんが言われるようにオリンピックに限らずスポーツではほとんどの競技で男子の部門と女子の部門は分けられている。男子と女子の平均を見るとどうしても身体能力に差があるため、それを考慮して分けているそうだ。(まあ、『名探偵コナン』の蘭姉ちゃんみたいに下手な男子より強い女子も存在するだろうけど……)
また、パラリンピックの陸上で車椅子の部門と義足の部門は分けられているのもそれに近い理由だろう。
従って僕はレーム選手がリオデジャネイロオリンピックや東京2020オリンピックに出場出来なかった理由は上記の通りだろうと、すなわち差別ではないのだろうと思っていた。
そして乙武さんが上げておられるこちらの動画も見たので……
https://www.youtube.com/watch?v=_OA0J0j64Yw&t=332s
こうも思った。
今のオリンピックの陸上には柔道の級、すなわち100kg超級や60kg級のような部門がない。陸上に義足部門、車椅子部門がないからレーム選手は出られなかったのだろう。乙武さんがこの『パラリンピックをなくしたい』の動画で言われたようにオリパラが統合オリンピックになって陸上に義足部門や車椅子部門が出来たら、あるいはオリパラをさらに細分化した細分化オリパラならレーム選手は出られたかもしれない。乙武さんが言っていたことを実現できるようになれば……と。
しかし、その後僕は自分が間違っていたことに気付くこととなった。
レーム選手がオリンピックに出場出来なかったのは差別である可能性が非常に高いと……。
何故なら……
https://www.youtube.com/watch?v=GE-RyMtRVtI
やはり知っておくことは大事なんだと改めて気付かされた。
お分かり頂けるだろうか?
パラリンピックの陸上では義足部門と車椅子部門で分けられている。
ブラインドサッカーだとキーパーのみ目が見える健常者が出られるのだそうだ。
これらの区分は各競技のちゃんとしたルールによって為されているのだ。
だが、オリンピックの陸上には義足部門や車椅子部門がない。
その上で南アフリカのオスカー・ピストリウス選手が2012年のロンドンオリンピックに出場出来たことを踏まえると、同じように義足を付けているレーム選手がリオデジャネイロオリンピックや東京2020オリンピックに出られなかったことは理不尽だとしか言いようがないのではないだろうか?
「乙武さんが言うように健常者に勝つ可能性が高かったからレーム選手は出られなかったのではないだろうか?そういえば東京2020オリンピックのウエイトリフティング女子87kg超級に出場したニュージーランドのローレル・ハバード選手は記録無しだった。ハバード選手はトランスジェンダーで女子の部門に出場していたが、もしトランスジェンダーでない周りの選手に勝てそうだったら出場出来なかったんだろうか?」と正直僕は疑ってしまった。
また上記の2014年のドイツ選手権でレーム選手が優勝し、ヨーロッパ選手権に出られるかも知れないとなった時に”義足が有利に働く”から出られないと言われたことに関しても乙武さんが言うようにドイツ選手権前に規定があるのならともかくドイツ選手権後に規定を作って出られないようにしたのはおかしいと言えるだろう。
もちろん初めに言ったようにレーム選手本人の気持ちを差し置いてレーム選手のオリンピック出場を可能にすることを強硬に主張することはエセ正義だし、“疑わしきは被告人の利益に”だからレーム選手が出場出来ないのは差別だと断定することも出来ない。
だが、“疑わしきは被告人の利益に”はレーム選手の”義足が有利に働く”かどうかについても同様に当てはめなければならないはずだ。
レーム選手のジャンプの動画があったので見させて頂いたが、少なくとも僕は彼の義足が有利に働いているようには思えなかった。むしろ健常者のジャンプと見比べてみると義足が不利に働いているようにも見える。
こちらがレーム選手のジャンプ
https://www.youtube.com/watch?v=LpBVdZmLYRQ
こちらが健常者のジャンプ(本当は男子の動画の方がいいのかも知れないが……)
https://www.youtube.com/watch?v=os7kDPhtPxY
こちらはジャンプの見本動画
https://www.youtube.com/watch?v=ctKM1drnXHE
レーム選手の出場を認めないのであれば、認めない側が“義足が有利に働く”ことをちゃんと科学的に証明しなければならないはずであってレーム選手側に「義足のおかげで跳べているわけではないことを証明しろ」等と言うのは暴論でしかない。
また、レーム選手に対して“義足が有利に働く”のではないかと言うのであれば2012年のロンドンオリンピックにピストリウス選手が出場した際には“義足が不利に働く”ことについて十分に議論したのか、さらには周りの選手の“健脚が有利に働く”ことについては議論しないのかとも言える。
レーム選手の2014年のヨーロッパ選手権、リオデジャネイロオリンピック、東京2020オリンピックへの出場を認めなかった人達は少なくとも“レーム選手本人”が納得できるようになるまできちんと説明責任を果たすべきなのだ。
そう。“レーム選手本人が納得”できることこそが必要だ。こういう記事を書いておいてあれだが、僕等が納得出来ないのはどうでも良くて“レーム選手本人”の納得を引き出すことが重要なのだ。
さて、いろいろと書いたが最後は必ずこの言葉を言っておきたい。
マルクス・レーム選手へ
東京2020パラリンピックでの金メダルおめでとうございます!
パラリンピックは楽しめましたか?もし楽しんで頂けていたら幸いです。
これからも是非あなた自身のスポーツを楽しんで下さい。
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