見出し画像

フィレンチェに住んだ英国人美術商の手紙 5

第7通


8, Lung'Arno Archibusieri, Florence
1905年11月21日
フライ様
ジョシュア・レノルズ(訳注1)の講演を注解した貴殿の本、2、3日前に届きました。最高の本・優れた仕事の成果を送っていただきありがとうございます。
後期イタリア絵画と画家についての貴殿の注釈は、私には特に興味深いものでした。この分野では、ドイツ人たちが17世紀の作品について、忙しく研究しています。Poccetti(訳注2)や Franco Frini (訳注3)についての本が準備されているようです。この動きはこれらの画家についての再評価の端緒になるかもしれません。
ジョシュア・レノルズの講演のような、16世紀末から17世紀の 作品についての英語の解説は、ほとんどありません。私が満足感を覚えた所以です。
貴方の本では、サルヴァトール・ローザの記述が特に私の琴線に触れました。
ただ、Giovanni di San Giovanni Poccetti, Loro Lippi(訳注4), Furiniのような人々の賞賛すべき仕事、とくに装飾芸術はとりあげておられません。
フィレンチェに、またこられることはありませんか?

  私は、バーリントン・マガジンはもう少しよくなってほしいと思っています。なぜHolmes(訳注5)はパレルモのあんな記事を一度ならずのせているのでしょうか。もしHのせいだとしたらXXXするべきだと思います。

 あなたが手紙も書けないほど忙しいのは、よく存じております。しかし、こちらにこられることをお考えになっていられるなら、おしらせください。もし一人旅でしたら、私は1部屋を提供できます。もっとも、拙宅の客室は独身者用のつくりにしかなっておりませんが。
敬具
 Herbert P. Horne
*****************
訳注1  ジョシア・レノルズ Sir Joshua Reynolds,(1723年7月16日 - 1792年2月23日)、ロココ期のイギリスの画家。ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの初代会長を務めた。 肖像画家として優れている。

訳注2 たぶんベルナルディーノ・ポッチェッティ 本名Bernardo Barbatelli (Firenze, 26 agosto 1548 – Firenze, 10 novembre 1612) フィレンチェの画家。マニエリスム~バロック。

訳注3  フランチェスコ・フリーニFrancesco Furini(c. 1600 (or 1603) – August 19, 1646) フィレンチェで活躍したバロック期の画家。官能的なまでのスフマート技法で有名。
訳注4 ロレンツォ・リッピ(Lorenzo Lippi、1606年5月3日 - 1665年4月15日)は、イタリアの画家、詩人。フィレンチェ生まれ。
訳注5 C.J. Holmes バーリントン・マガジンの当時の編集長

第8通

8, Lung'Arno Archibusieri, Florence
1906年4月19日

フライ様
 あのヤコポ・ベッリーニの絵は実見するべきですよ。その美は色彩や描法にあります。写真ではわかりません、彼の弱点である素描力の面しかわかりません。貴方がGiambonoを見つけたと聞いて喜んでいます(訳注1)。素描については、貴方はロンドンで独自にやってらっしゃるようです。当方はボッテチェルリ本にかまけていて、今年はロンドンには戻れそうもありません。
 その上、私は、最近、かなり買い物をしていますので、もうお金がありません。2,3週前、、
デシデリオ(セッタニーニョ)のレリーフ

で買い物は終わりにしました。バルゲッロ美術館の青石のもののオリジナルだと思います。これは40リラでした。B.B.(バーナード・ベレンソン)でさえ、この時代では最高の買い物だといってくれました。もともと現代のコピーとして家具商で売っていたものです。
 住宅については、あまり幸運とはいえない状態です。この冬はイタリー外にいました。住宅でよさそうなものがありましたが無茶な価格でしたので。
 あの肖像画(訳注2)の写真を送ってもらえませんか。貴殿がドメニコ・ヴェネチアーノと推測したがっていた、あの肖像画についてB.B.(訳注 バーバード・ベレンソン)はウッチェルロだといっているのをご存じですか?
また、シャノンとリケットのもとにある、ピエロ・ダ・コシモの2枚の家具装飾絵画の写真を送っていただけないでしょうか?
私はその主題が何かわかると思います。

マディソン街288番 ホワイト・キャノン氏と、貴方が会っていないのではないかと案じております。貴方の美術館にも相当寄付されている方です。私にも友情をもってくださっています。また、ヴィッラを複数所有されています。フィエゾーレの 修道院です。たいへん寛大で、美術方面の援助に熱心な方です。
 ところで、私はある英国貴族の相談をうけました。その方は相続のために、レンブラントの自画像を売る許可をえるようにしているそうです。許可が得られたとして、貴殿の美術館やアメリカのご存じの収集家が興味ないでしようか? 私は実見していないのですが、第一級のものだという話です。この話は秘密に願います。貴殿はこういう絵画について真剣に検討される立場の方だと思っております。

私はウンブリアの丘を散歩しております。

敬具
Herbert P. Horne
追伸::
上のことを書いたあとで、キャノン氏とあいました。ウオール ストリート10番に名刺を送ってほしいそうです。アポイントメントをとれると思います。そして、貴方との交流を歓迎すると思います。

*****************
訳注1
悲しみの人 メトロポリタン美術館
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436498
訳注2 
この肖像画は現在ロンドン・ナショナル・ギャラリーにあるBaldovinetti作のもの。Baldovinettiという画家名決定はフライの業績(1911)。ref. Martin Davies,The Earlier Italian Schools, London, 1986増補改訂再版,42-43P

#フィレンチェ #英国人 #美術商 #1900年代 #ホーン美術館 #ハーバート・ホーン #ロジャー・フライ #ブルームズベリー・グループ #イタリア・ルネッサンス #ベル・エポック #ホーン美術館

いいなと思ったら応援しよう!