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フィレンチェに住んだ英国人美術商の手紙 6
第9通
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8, Lung'Arno Archibusieri, Florence
1906年5月14日、
フライ 様
この件は我々だけの極秘にしておいてください。
今日イルセスター卿夫妻と昼食をとりました。夫妻は、Holland House Melbury&C. を継承されたようです。相続税のためにあのレンブラントを売りたいのはイルセスター伯爵です。
このレンブラントの自画像(訳注1)は、ドイツの大きなレンブラントの本、並びにそのほかの本にも写真がでている作品です。私は実見しておりませんが、有名な権威者が質の高い作品だと私に語っておりました。
ハーバート・クックはこの件は断ったそうですが、クックの父親は一つの絵に大金を使うことを許さなかったようです。
卿はアグニュー(訳注2)や他の画商にも相談しています。貴方はこの件で動くおつもりはありませんか?もしそうなら。私は卿に紹介し、貴方が絵を観ることができるように計らいます。卿がロンドンに帰ったあとでいいとおもいます。
イルセスター卿は満足のいく価格でなければ、手放す気はないようです。アグニューの手に落ちるよりは、あなたなら直接、もしくはあなたの代理人で有利に交渉できると思います。
お返事いただければ、来週末にイルセスター卿がフィレンチェを発つ前に、この件を手配します。
敬具
Herbert P. Horne
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訳注1:現在:ニューヨーク:フリック・コレクション所蔵
https://collections.frick.org/objects/238/selfportrait
訳注2:ロンドンの老舗画廊
第10通
8, Lung'Arno Archibusieri, Florence
1906年5月21日
フライ様
イルチェスター卿夫妻はフィエンチェに滞在されており、私は良い取引をさせていただいております。今日、イルチェスター卿は、レンブラントを急いで売る気はないこと、もし、フライ氏が購入目的で絵を観にくるのなら、6月に英国にもどったときに、こちらから指示をしますとのことでした。
卿と話したところでは、現在のところでは、彼はアグニュー(訳注)に売る気はないのではないかと、私は思っております。しかし、もちろんハーバート・クック(Herbert Cook)のような個人ディーラーが手を出すかもしれません。
あなたがフィレンチェに来られることを考えるとうれしくなります。しかし、キーランKieran夫人と彼女のやり方には注意しないといけません。
もし、ニューヨークにいったとしたら、私はいままできいたこともない大きな取引の責任を押しつけられるかもしれませんが、別に怖れておりません。しかし、ここフィレンチェではキーラン夫人には悩まされています。
書くには長すぎる話になるのですが、とにかくここフィレンチェに来て以来、ずっと関わってきたことです。あのデルドラゴ Del Drago大公家と毒虫のF.サヴェリオ・ドナティ弁護士を遙かに超えるのです。キーラン夫人は、そいつらを混ぜ合わせたような悪漢です。
私の家には1室しか来客用寝室は1つしかありません。2部屋は家具と絵画で満員になっており、とても生活できる部屋ではありません。貴方がおひとりで来られたら部屋を提供できますが、ご夫婦で来られられたら無理です。お話すること、お見せするものは限りなくあります。来られることを願っております。
敬具
Herbert P. Horne
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訳注:ロンドンの老舗画廊
第11通
8, Lung'Arno Archibusieri, Florence
1906年6月26日
フライ様
私のキーラン夫人にたいする懸念のせいで、貴方のイタリア訪問が妨げられているのではないかと思っています。
あるいは、貴方はKann コレクションの購入交渉で忙殺されていらっしゃるのでしょうか?
ロンドンにいつ行かれるのかご教示ください。あなたがレンブラントを観ることができるように、イルチェスター卿に伝えます。
しかし、貴方はフィレンチェに来られないでしょうか?
現在、フィレンチェはとても暑いので、私は短期間、高原地帯にいくつもりです。
ご多幸をお祈りします。
Herbert P. Horne
追伸:
貴方の手紙の1週間後、キーラン夫人と会ったDe Drago家のくせ者が貴殿の訪問を待ちかまえていることを知りました。もっとも、キーラン夫人は、たいしたコレクションを貴方にみせることはできないようです。
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