オンライン教育による学力低下の実態
2020年度から全国の大学教育がオンライン主体となった。このことは感染症対策の目的もあり、一概に全てを否定することはできないし、我々教員側も与えられた環境下で最善を尽くしてきたことも確かである。しかし2021年度も折り返し地点にきた現在、そろそろオンライン教育のメリット・デメリットについて冷静な検討を開始しなければならない時期が来たのではないかと感じている。
残念ながらこの問題に関する大学教員側の動きは鈍いようである。まずは現場の教員どうしで客観的なデータを蓄積していくといった地道な作業が必須だが、ネットで見回してもあまり見つからないようである。以下の記事は、ごくカジュアルな形式でも良いので、様々な知見が集積されていく事を期待して書いた一試論である。
いうまでもなく特定の対象を批判することを目的とした記事ではない。そのため、知人から頂いたデータであるが、具体的な大学名は伏せさせて頂く。あくまでも全国の大学生が陥っている困難の一端について、筆者の個人的な見解を述べたものに過ぎない。
追記:アメリカにおける大規模調査の結果が公表されている。数学に関するデータを見ると、本記事の結果と極めて整合性のあるデータが得られている。比較可能なデータが得られたことは興味深い。学力とは別に、こちらの調査では、オンライン教育によって対人スキルも大幅に低下したと指摘されている。オンライン教育に関する調査ではアンケート調査などが中心で、こうした正確なデータを集めないままで終わっているのが残念である。
対面出席率と成績の関係
本記事で取り上げる大学では、2020年度はほぼ完全なオンライン教育が実施され、また以下で取り上げる2021年度の講義はハイブリッド型(対面受講とオンライン受講を学生が任意に選択する方式)で実施されている。2021年度に実施された3年生が中心の科目Aについて、期末試験の成績と対面出席率との関係を分析すると、以下のようになった。
表1. 3年生の科目A(2021年度)の対面出席率と期末試験平均点の関係
対面講義に熱心に出席している学生の方が成績が良く、平均点で2.5倍近い差が付いている。
ただし対面受講とオンライン受講では理解のしやすさに差がある可能性もあるので、別のデータも参照することにしよう。ここでは2年生が中心の科目Bで実施された、数式処理ソフトウェアを用いた自由課題についてのデータを紹介する。これは対面教育時代から、オンラインで資料を配付し、各自で学習した後に課題を作成し、オンラインで提出する形を取っている。従って対面受講者でもオンライン受講者でも全く同等の条件で取り組むことができる。以下のように、この場合も対面出席率と成績の間に顕著な相関が見られた。
表2. 2年生の科目B(2021年度)の対面出席率と課題高評価者割合の関係
このことから、講義の実施形態とは無関係に、対面出席率が成績に大きく影響していると結論して良いと思われる。筆者の体験からしても、教室に行けば同じ勉強をしている沢山の同級生がいるので、勉強する大きな動機付けとなることは良く理解できる。単に教室へふらりと足を向けるだけでも勉強の足しになるとは、実に良くできたシステムであると感心させられる。
対面教育時代からの学力低下の実態
2021年度は、特に希望する学生を除き、原則として対面での試験が実施された。2年生が中心の科目Bでは、対面教育時代の2019年度とほぼ同じ問題が出題されたので、それらの比較を行った。結果として、平均点(50点満点)は2019年度の23.3点から2021年度の19.7点へと、15%程度の大幅な低下が見られた。
この場合も対面出席率と成績の関係を分析した。2019年度のデータは以下の通り。
表3. 2年生の科目B(2019年度)の対面出席率と期末試験平均点の関係
一方2021年度のデータは以下の通り。
表4. 2年生の科目B(2021年度)の対面出席率と期末試験平均点の関係
両者のデータを比較すると、対面教育時代は、対面講義に参加するという行為そのものによって学力の大幅な底上げが達成されていたことが確認できる。
同じ2021年度に実施された講義でも、3年生が中心の科目Aでは対面出席率がかなり回復している。大学入学後の1年間をオンライン教育で過ごした2年生は、講義に出席するという習慣が失われているようである。実は受験者の総数も2019年度の92人から2021年度の76人へと大きく減少しているが、これは履修はしていても受験していない学生が増加したことによる。2019年度であればそれなりの成績を収めていたはずの学生が、オンライン教育によって成績が悪化したり、そもそも試験を放棄するような状況に追い込まれてしまったことになる。もちろん様々な条件下で多様な結果が生じていると考えられるが、各大学の色々なデータを持ち寄って分析していくことが重要であると感じている。
本記事の内容についてご議論頂いた大学教員の方々に感謝申し上げます。
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