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12年前に現地の中国人すらバカにしていた自動車メーカーが日本に上陸した件

中国の電気自動車メーカー、BYD(比亜迪、ビーヤーディ)が日本で販売を始めたことがちょっとした話題になっています。

NHKの夜9時のニュースやテレビ朝日の報道ステーションで詳しく報道されていましたが、如何せんBYDは日本ではほとんど知られていないので「未知の中国メーカーが日本上陸」というノリで伝えていました。
(BYDのロゴも「3Y⊃」に見えるので、街中のインタビューではそもそも読み方もわからない人もいました)

BYDの電気自動車が日本で売れるかどうかはさておき、個人的には12年前に中国の深センにあるBYDの本社を訪れたときの思い出があります。

あの時は新入社員の海外派遣研修の一環で日本の某大手化学メーカーの新人を連れて中国に行っていましたが、途中で現地の企業を見学する機会があり、その時に手配された訪問先がBYDでした。

当時のBYDは自動車事業に参入してまだ10年足らずの新興メーカーであり、私も次のようなことしか知りませんでした。

  • 元々電池メーカーであったこと

  • かのウォーレン・バフェットが出資していること

  • 世界初のプラグインハイブリッドカーを発売したこと(あまり売れなかった)

そんなわけで日本人の新人だけではなく、私自身も「どんな企業だろう?」と興味津々でした。

そこでBYDの本社に向かう道中のバスの中で現地人のガイドさん(中国人のおじさんです)に「BYDって中国人から見てどうですか?」と尋ねたところ、ガイドさんから衝撃の答えが返ってきたのです。

「BYDなんてダサくて乗りたくないよ」

「オレだったらタダで貰ってもいらないね」


そう、当時の中国では車がステータスシンボルであり、金持ちはこぞって「外車」に乗っていましたので、中国の国産車なんて言葉は悪いのですが「貧乏人が乗る安かろう悪かろうな車」というイメージだったのです。

そしてメンツを重視する中国人にとってBYDは「人に自慢できる車」ではないため、自分を「中流」だと思っている人にとっては「ダサくて乗りたくない車」という位置づけでした。

ちなみにガイドのおじさんも別にお金持ちでも何でもないのですが、BYDではバカにされるのでせめてフォルクスワーゲンぐらいは欲しいと仰っていました。
(フォルクスワーゲンも”中国製”ですが)

おじさんからの意外な答えに驚きつつバスは走り続け、ようやくBYDの本社に到着してショールームに案内されたところ、更なる衝撃が待っていました。

本社きれいなショールームがあったのですが、そこに並んでいたのは「どこかで見たことがある車」ばかりだったのです。

もちろんその場では声を大にして言えなかったのですが、日本人の新人たちも小さい声で「これって〇〇〇のパクリじゃね?」と話すほど、デザインは日本のメーカーの車種にそっくりでした。

これだけを見るとBYDは自動車メーカーとしては「取るに足らない存在」に思えるかもしれません。ただ実際に本社の見学してどうしても気になったことが3つありました。

  • 案内してくれたエンジニアの方が「自分たちは後発メーカーでまだまだ世界の一流メーカーには及ばない」と謙虚に認めていたこと
    (デザイン力もないのでパクリになったことも素直に認めていた)

  • 当時はガソリン車がメインでしたが、元々電池メーカーだった技術を活かし、既に電気自動車の研究開発に着手していたこと

  • ショボくてもいいからとにかく新しい製品を早く発売していたこと

そしてあれから12年経ち、世界の自動車メーカーでいち早くガソリン車の生産を止めてハイブリッドカーと電気自動車に切り替え、今ではあのテスラに次ぐ世界第2位の電気自動車メーカーに成長したのです。

もちろん電気自動車を普及させようとする中国政府の強力なバックアップもあったのですが、今思えば2011年の時点でBYDは目先のことではなく、既にかなり先の未来を見ていたということでしょう。

あの時は現地の中国人にすら見向きもされなかったメーカーが12年後にここまで成長するのは感慨深いものがありますが、いくら失敗しようがバカにされようが「まずやってみる」という姿勢が大事だと改めて思いました。

日本の名だたるメーカーも最初はこのような姿勢だったのかもしれませんが・・・

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