いくら言っても「できない人」は、どうすればよいか③
「簡単なこと」なのに、なぜできないのか
ここまで「できない人」には「できない理由」があり、それを見つけないと始まらないという話をしてきました。
とはいえ、肝心なのはやはり「どうやったらできるようになるのか」になると思いますので、今回は「できるようになるための方法」について考えてみたいと思います。
さて、「できない理由」はそれこそ人によって千差万別ですが、大きく2つのタイプに分けられると思います。
1.能力的な問題で、どうしてもうまくできない
2.内面の問題で、どうしてもやりたくない(やれない)
あるいは、1と2の両方を含んでいるケースもあります。
1.については、基本的にはやり方次第で一定のレベルまでは向上させることが可能です。一方で2.については本人の内面に踏み込むことになるので、かなり難易度が上がります。
というわけで、まずは1.の能力的な問題について見ていきます。
仕事での事例に入る前に、大変僭越ながら私のお恥ずかしい経験についてお話ししようと思います。私はいわゆる「極度の運動音痴」であり、小中学生のころは他の子供が普通にできることが全くできませんでした。
例えばキャッチボールの遊びで飛んできたゴムボールを素手で取るのですが、みんな軽々とキャッチできるのに、私はいつも弾いて落としてしまいます。そうなると子供同士なので「ヘタクソ!」といった罵声が飛ぶのですが、中には親切な子もいて「ボールをよく見て取るんだよ」と教えてくれます。
しかし、「ボールをよく見ろ」と言われても、やっぱり取れません・・・
ボールは飛んでくるタイミングと、捕球動作に入るタイミングがどうしても合わないのです。センスの問題と言えばそれまでですが、少なくとも「ボールをよく見ろ」という教えは私の助けにはなりませんでした。
中学生までは苦労しましたが、不思議な事に大人になるにつれ、ある程度は取れるようになりました。別に誰かに教わったのではなく、たまたまタイミングが合っただけだと思います。
他にも運動に関しての「できない」エピソードが山ほどありますが、さすがにお恥ずかしいのでこれぐらいでやめようと思いますが、この経験を大人になって振り返ったとき、次のように考えました。
・「できる人」にとって「簡単なこと」がうまくできない人がいる
・「できない人」はその「簡単なこと」に躓いているので前に進まない
・簡単ゆえに「できる人」にとって教えるのが難しい
仕事の場面で考えると、例えばこんな事例です。
Dさんは電話の応対が苦手であり、先輩との練習では話せても、いざ実際に電話に出てると何も話せなくなってしまいます。
そんなとき、先輩がこのように指導しました。
「緊張しなくていいよ、電話が鳴ったら落ち着いて出ればいいよ」
しかし、Dさんはその「落ち着いて出る」ということがどうしてもできないので、おそらくこのままではできるようになりません。
それよりも、最初に話す言葉を書いたメモを電話の前に置き、「電話が3回鳴ったら受話器を取って、ここに書いてあることを読み上げてみよう」と指導したほうが、Dさんは緊張したままでも話せる可能性があります。
ここでのポイントは次の2点です。
・簡単なことができないという前提に立つ
(落ち着いて出られなくてもいい)
・やるべきことを細かく分解し、できそうなことを探す
(緊張した状態でも、メモの棒読みはできるかもしれない)
すなわち、できる人にとって練習の必要すらないレベルの簡単なことを、更に簡単にして練習させたほうが、上達の可能性があるということです。
Dさんも最初は棒読みでもよいので、実際に電話で話すという経験を積んでいるうちに慣れてくるかもしれません。しかし。最初からそれを求めてしまうと却っていつまでもできないという可能性があります。
このことから、教える側の人にとって次のような心構えが大切ではないかと思います。
「自分にとって簡単なことは、相手にとっても簡単とは限らない」
例えば、人に挨拶する、メモを取る、スケジュールを立てる、といった職場での基本行動から、毎日決まった時間に起きる、時計を見て行動する、といった日常的なことまでも、人によってはうまくできない可能性があるので、まずはそこを理解してあげることから始めるのが必要かもしれません。
「できない人」は第1歩で躓くケースが多いので、それこそ1歩を0.1歩まで分解し、ほんの少しでも前に進めさせてあげれば、「できない人」にとっては大きな前進になると思います。
今回はここまでにして、次回は「やりたくない」について考えていきたいと思います。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。