いくら言っても「できない人」は、どうすればよいか②
「できない理由」をなぜ教えてくれないのか
前回いくら言ってもできない人には「できない理由」があり、それがわからないと結局できるようにならない、という話をしました。
さて、「できない理由」をどう見つけるかの前に、
• 「できない人」の面倒を見る必要がそもそもあるのか
• 「できない人」に構っている時間がもったいないのではないか
ということについて考える必要があります。
いくら言ってもできない人が居た場合、取りうる選択肢は3つになります。
1.辞めていただく(もしくは違う仕事をしていただく)
2.放っておく
3.何とかできるようにする
1.については優秀な人材がいくらでも採用できるような超人気企業なら可能ですが、辞めさせると替わりがいない人手不足の業界はそもそも無理です。
(日本はそもそも簡単に人を辞めさせられない)
2.については仕事ができない人が「やらかす」ことがないよう窓際に追いやっても雇い続ける余裕がある企業なら可能ですが、そんな体力のない企業は無理です。
(結局いつまでも「できない人」に悩まされ続ける羽目になる)
となると、現実問題として多くの企業にとって3.の選択肢が最善となります。
余談ですが、私が20年前に新宿のマクドナルドで店長をしていたころ、都心の店はどこもアルバイトの確保が難しく、人手不足が深刻でした。
(今はかなり状況が変わっていると思いますが)
そのため、人を選べるような余裕はもちろんなく、アルバイトの応募に来た方は余程のことが無い限りどんな方でも採用していました。
もちろん中には仕事の覚えが悪い方もおりましたが、猫の手も借りたいぐらいの状況でしたので、全部の仕事ができなくても多少できることがあれば店としては貴重な戦力でした。
ここで言いたいのは、人を選べるような状況なら「できない人」をわざわざ手間をかけて育てなくてもいいのですが、そうでない場合(能力を理由に辞めさせられない場合も含め)は「何とかできるようにするしかない」ということです。
ただし、「できる」の基準は必ずしも全員が同じである必要はなく、例えばマクドナルドの店の場合、全員が100の仕事ができなくても、30でも40でも仕事ができるようになれば十分戦力としてご活躍いただけるので、最初はできることが「0」であっても、10、20、30と増やしていけると良いかと思います。
さて、余談が長くなりましたが、本題である「できない理由」をどう見つけるかに戻りたいと思います。
人材育成のセオリーでは、教える側のトレーナーは、教わる側の新人とまず信頼関係を構築することから始まります。
信頼関係が無ければトレーナーの言うことを聞かないうえに、自分の悩みも相談しないというのが理由です。
では、信頼関係があるからといって、「できない理由」を教えてくれるのでしょうか?
ここで一つの事例を紹介したいと思います。
若手社員のCくんは職場の上司とは良好な関係を築いており、コロナ禍の前ではよく仕事の後に自分から上司を飲みに誘うほどでした。
居酒屋では仕事のことからプライベートなことまで、Cくんは何でも上司に相談していたので、上司も「Cくんは自分に心を開いている」と信じていました。
しかし、Cくんは上司が依頼した業務を忘れてしまうことが度々あり、その都度上司が指導したり注意したりするものの一向に改善されず、あるとき顧客に重要な資料を送付するのを完全に忘れてしまって顧客から苦情が入るということがありました。
このとき、上司は「これだけ言っても忘れてしまうのは何か理由があるはずだ」と思い、Cくんに「やるべきことを忘れてしまうのはなぜだと思う?」とやさしく尋ねました。
ところが、Cくんは「申し訳ございません、スケジュール帳にも記入して気をつけているつもりですが…、次は気をつけます」と答えるばかりで、肝心な「忘れる理由」を教えてくれません。そのため、上司は「自分のことを信頼していないのでは…」と悩んでしまいました。
実はこのときCくんは上司のことを信頼していなかったわけではなく、「言えなかった」というのが真相でした。
Cくんはいわゆる発達障害の傾向があり、小学生の頃から宿題を忘れて注意されたり、友人との約束を忘れたりしていましたが、本人はそれが自分の特性とは知らず、「約束を忘れる自分はダメな人」という劣等感を抱いていました。
そのため、いくら信頼している上司でも「忘れた自分が悪い」と思うばかりで、「なぜ自分が忘れてしまうのか」に目が向かなかったのです。
仮にCくんが自分は発達障害であることを自覚していたとしても、「私は発達障害ですので…」とは言えなかったと思います。
では、上司はどう言えばよかったのか?
絶対の正解はありませんが、例えばこんなやり取りならできない理由にたどり着いたのかもしれません。
上司:「新しい仕事の予定が入ったとき、どうしていましたか?」
Cくん:「とりあえずスケジュール帳に記入します」
上司:「記入したあとは、どうしていましたか?」
Cくん:「うーん、書いたこと自体忘れてしまうので、結局読み返していません」
上司:「なるほど、そうしましたら、毎日私がスケジュール帳を読むよう声をかけます」
Cくん:「ありがとうございます。自分では覚えられないので助かります」
ここでのポイントは、
• 「忘れる」という行為と、「悪いこと」として扱わなかったこと
• 「できる人」の基準(普通は忘れないよね、という言い方)で話をしなかったこと
の2つです。
「できない」ことを「悪い」と扱ってしまうと、相手は「自分ができない理由」ではなく「自分という人間の良し悪し」に意識が向いてしまいます。
また、「できる人」の基準で話をしてしまうと、相手はやはり「できない自分が悪い」と捉えてしまい、理由ではなく人としての良し悪しになってしまいます。
本当の「できない理由」は
• 自分でも自覚していない
• 自分では自覚しているが、人に言いづらい
ことが多いので、教える側の人はそれを理解してあげたうえで、一緒に探すという姿勢で接すると良いかと思います。
長くなりましたので今回は一旦ここまでにして、次回は「どうやったらできるようになるのか」について考えていきたいと思います。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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