「ルールを守ってくれない人」に対してどうするか?
オリンピックが始まってから毎日アスリートの皆さんのご活躍を楽しみにしておりますが、やはり世界中から様々な国の人が集まるイベントなので、色々な問題も目にするようになりました。
・本当は声を出してはいけないのに、関係者が大声で声援を送っていた
・勝手に選手村を抜け出して東京タワー見物に出かけた
・無観客が原則なのに、某横綱が柔道の会場に現れた
このようにルールを守ってもらえないケースが続発しており、おそらく関係者も頭を抱えているかと思います。
ここまで大げさなことでなくでも、実は似たようなことが職場でも起きており、働く人が多様化すればするほど、職場のルールを徹底させることが難しくなっていきます。
そこで、様々な考え方の人がいる中でどうやってルールを守らせるかについて考えてみたいと思います。
「ルールだから守れ」は通用しない
ルールを守ってくれない人が居たとき、よくある対応が「ルールを守るのはあたりまえ」「ルールを守らないなんてありえない」といった、「ルールを破るのは悪」という前提で相手の行動を糾弾する(場合によっては何らかのペナルティを与える)というものです。
しかし、それで相手の行動が変わるかというと、残念ながら変わらないことのほうが多いというのが現実です。
というもの、「ルールだから守れ」といってルールを守る人は、おそらく最初からルールを破りません。むしろ「こんなルールはどうでもいい」と思っているからこそ、平気でルールに反する行動を取ってしまうというのが根底にあります。
ルールを無条件で守るべきものとして絶対視する人にとっては許しがたいことかもしれませんが、下図のようにルールに対する認識も人によって異なり、この世には「意味があれば守ったほうがいい」という人もいれば、「実害がなければ守る必要がない」という認識の人もいます。
東京タワーを無断で訪れた某国の選手にとって、ルールを破ったことによる実害は選手村から追い出されるだけで(もう国に帰るので意味はない)、別にメダルをはく奪されるわけではないので痛くもかゆくもありません。
いくら「がっかりだ」「残念だ」「ルールをちゃんと守ろう」と言ったところで、相手はおそらく1ミリも心に響きません。そもそも文化が違えば価値観も異なり、善悪の判断基準自体が異なるので、こちらが「絶対的に悪い」と思っていても、相手にとっては「どうでもいいもの」であったりします。
(まあSNS上での罵り合いは仕方ないと思いますが)
では、認識が異なる相手にルールを守ってもらうためにはどうすればよいか?
少なくとも、相手の内面の価値観を変えるのは現実的ではない(むしろ不毛)ので、少なくとも外面の行動のみに変えてもらうことをゴールに置いたほうがよいと思います。
具体的には
・必ずやってほしいことを相手に実行していただく
・絶対やってほしくないことを相手に止めていただく
の2点です。
相手がその行動をやろう(やめよう)と思う動機を見つける
ここで一つの事例を紹介したいと思います。
今から10年ほど前に中国からの視察団を日本に案内したことがあり、地方の国有企業や民営企業の幹部や経営者(そこそこ偉い人たち)に日本のものづくりを学んでいただくことが目的でした。
愛知県でトヨタ自動車の工場などを見学してから新幹線で東京に移動することになっていましたが、その際に懸念したことは以下のことでした。
・新幹線の中で大声で騒ぎだす
・座席に座ったまま大声で携帯電話で話す
というもの、中国では新幹線の中で大声で会話することはごく普通のことであり、彼らにとっては悪いことでも何でもありません。
また、視察団には人生で初めて外国に行ったという人が多かったため、異なる価値観に接するという体験自体が初めてでした。
そのため、単に「日本では新幹線の車内で大声を出すのはマナー違反です」と言っても、相手は全くピンと来ません。
そこで、私は新幹線に乗る前に全員を集めて以下のような言い方で皆さんに伝えました。
「日本では新幹線の車内で大声で騒ぐ人を見ると、品のない人として見られることがあります。特に外国人が車内で騒ぐと、その国の人を“文明的でない”と見てしまいます」
※「文明的でない」は中国語の表現で、野蛮で下品というニュアンスです
すなわち、騒ぐと「中国人の恥」になってしまいますよということを彼らに伝えたのです。
見ず知らずの日本人に白い目で見られても何とも思いませんが、面子を重んじる彼らにとって視察団の同じ中国人から「こいつは国の恥だ」と見られることは絶対に避けたいことなので、この言い方が見事に刺さりました。
おかげさまで名古屋から乗車して東京駅に着くまで全員静かに過ごしていただくことができました。
このときに私が考えたのは、「この人たちが騒ぐのをやめようと思う動機は何だろう」ということでしたが、自分の目線ではなく相手の目線で考えることによって、行動をする(もしくは行動を控える)要因を見つけ出すことができます。
このときに重要なことは自分の価値観で相手の行動の良し悪しを決めつけるのではなく、自分とは違う相手の価値観で物事を見るということです。
自分たちにとって許せないことでも相手にとっては何の問題もないことかもしれないし、その逆もありますので、「ルールを守ってくれない人」が悪いのではなく、「ルールを守っていただく」ための言い方を工夫したほうがお互いにとって幸せな結果になると思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。