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母は強い人なんじゃなくて、私のためならいくらでも強くなれてしまえるのだと知る。
家がなかった時期がある。
キャンピングカーで暮らしていた、とかそういう
楽しさありきの生活とかじゃなくて。
私が小学生だった頃。両親には色々と大変な時期があって。結果的に帰る家がない中で、母と兄と3人で生きていた時期がある。
その時、数週間の知り合いの家にお世話になったり、数ヶ月間ホテルで仮住まいをしていた。
けれど、不思議と悲しくはなかった。
お腹が空いていた記憶もないし、経済的な面で将来への不安を感じていた記憶もない。でもそれは、とんでもなくすごいことだったと知る。
大学を卒業して社会という大地を一歩ずつ歩いて、1人暮らしをして。
自分で自分を賄うことすらままならない今の私と違い、当時の母は3人分の生活を全て1人で背負っていたのだから。
離れて暮らして。
自分の世話の大半を自分でするようになって。
今更ながら、やっと知る。
母は、強いと。
大学1年生で、人生で初めてお付き合いをした相手と別れた時のこと。
夜の間中泣き続ける私の横で「大丈夫、大丈夫だから」とずっと寄り添い続けてくれた。
今考えたらなんてことない別れだけれど、当時の私からしたらもうそれはそれは大変な出来事で。
2日間何も食べられなかった。
3日目にお蕎麦を1口食べたのは、流石にしびれを切らした母の「あら、まだ泣いているの?食べないと死んじゃうよ」の言葉に、それは嫌だわ、とその瞬間すんなり思えたからだった。
母は強い。
小学生の時、マラソン大会だか、リレーだかで私が2位で走っていた時のこと。
1位の子の母親もいる中。
私の母からの激励は「頑張れー!」でも「あとちょっとーー!」でもなく。「抜かせえええええええええええ!!!!!!!」の叫びだった。
そしてきっと白い目で見られただろうに、
母はそんなこと気にもせずにいた。
結局1位にはなれなかったけれど、
思わず吹き出しながら、娘としてはなんだか嬉しかったのだ。
母は強い。
けれど.....母は本当に強いのだろうか?
実家に帰った際のこと。
「ねえねえこれ見て!」
とはしゃぎながら見せてくれたのはメルカリで買ったという小学生の女の子が集めそうなおもちゃの指輪だった。
何やら可愛いものを集めているんだ、と自慢げに見せてくれた。
家電を購入するはずのビックカメラは母にとってはシルバニアを買う場所。しかもそのコレクションは割とシルバニア“ファミリー”と化している。
ちいかわが好きだで、Twitter(X)で可愛い画像があると保存している。(しかも画像保存の方法が分からず、常にスクショ)
酔っ払うとリモコンはマイク代わりだし、
怖い怖いと言うくせにホラー映画や怖い本を読んでやけに勧めてくる。
実家に行くと、もうなんだか幼い子供のような一面を見せる母を見て思った。思った、というか知った。
母は強い人ではない。
いや、強い。強いのだけれど。
私を守るためなら、いくらでも強くなれてしまうのだ、と。
その気持ちと私の心の方向性が違ってすれ違うことも多々あるけれど。
正義の反対は悪ではなく別の正義だ、とあくまで私は思っているから2人の大切にしたい正義がぶつかってしまうことがあるけれど。
母なりに私を守ろうと踏ん張って踏ん張って踏ん張っていたのだと。そして今もこの先もそうなのだと、知る。
そんな母に母の日にかこつけてちらし寿司と、厚揚げの煮物やら塩麻婆豆腐やらを作った。
ウキウキして作っている間からお酒を飲んで1人0次会をしていたのが、嬉しくて心地よかった。
美味しい美味しいとパクパク食べてくれた。
強くて、強くなくて。
厳しくて優しくて。
強いだけじゃない母を
今更だけど、知れてよかったと思う。
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何より嬉しかったです。