防衛の最前線


転換点-2022年CDU党首選-

差別化の欠如はまさに前回の大連立政権の問題だった。
人々はもはやCDU/CSUとSPDの違いが何なのかを知らなかった。

CDU幹事長カーステン・リンネマン

2022年12月、約20年に渡って無視され、端に追いやられていたCDU右派が遂に復権を果たした。左派のメルケルは自身の政権下において右派を端に追いやり、2009年には完全に排除していた。2009年はライプツィヒ決議を順守しないメルケルへの反転攻勢をメルツが仕掛けた年だが、この攻勢はSPD・緑の党の協力により挫折した。それ以来、右派は端に追いやられていたのだ。メルケルの退陣まで遂には右派の声が聞き入れられることはなかった。その後、その後継者カレンバウアーや左派党員アルミン・ラシェットが党首となったが、その失敗は明確だった。スキャンダルやすでに失敗した路線の固持。これらはCDU左派が失敗したという印象を決定的に人々に抱かせた。
そして、とうとう転機が訪れた。スキャンダルと連邦議会選挙の敗北によってラシェットが退陣すると、CDU党内で党首選が行われたが、ここでラシェットをCDU右派の代表者フリードリヒ・メルツが打ち破り、党首に就任した。メルツはコール体制後のCDU右派の代表であるヴォルフガング・ショイブレの後継者であり、党内右派の声の代弁者であった。メルツはメルケル政権によって間違った方向に視点が向けられたことを批判し、それを正そうとしている。メルケルは債務危機やウクライナ危機が発生してもなお移民に焦点を当て続けた。その「寛容すぎる」政策は国内で大きな反発を招き、AfDの結党を招いた。そして、SPDとの違いも曖昧になり、とうとうCDUの下野を招いた。メルケル政権への反発として生まれたAfDの毒は徐々にドイツへ回っていくこととなるのである。

そして、今-2025年連邦議会選挙-

信号機の故障

2024年11月、SPDと対立を深めていたFDPは、連立政権内での予算会議を決裂させた。ショルツは財相のFDP党首リントナーを解任し、リントナーは他FDP閣僚とともに辞任し、ショルツ政権は崩壊した。12月17日にはショルツの信任投票が行われ、事実上の連邦議会選挙が開幕した。12月27日にはフランク・ヴァルター=シュタインマイヤー大統領が連邦議会を20年振りに解散し、正式に総選挙が開幕したのであった。

AfDの躍進

極右政党AfDは支持率を倍増させた。メルケル政権・信号機連立政権への不満の結果だろう。AfDは嘗ての反メルケル政権の路線を転換させ、反移民・反ユーロ・親ロシアを主な主張とした。社会政策に関しては若干右寄りであったものの、もともと経済政策においてはCDU党内右派に近かったこの党は、完全に極右ポピュリズム政党に堕した。2025年2月に党首ヴァイデルは、以前ナチス礼賛が取り沙汰され党追放が検討されたビョルン・ヘッケを擁護・賞賛した。しかし、その過激な姿勢はTikTokで人気を博し、「頭脳的低空飛行」の政治活動を展開した。AfDは人々を熱狂の中に巻き込み、扇動している。だが、忘れてはならない。この政党がどれだけ移民排斥・反西側を唱えようが、この根源にあるのは経済格差と不完全燃焼となっていた東西包括への不満だ。

各地域の最も支持されている政党

これを見ていただければ分かると思うが、AfDが支持されているのは旧東独地域である。これは、AfD台頭の根源的な原因を如実に表しているだろう。移民問題も、結局は経済格差の延長線上にあるのである。
メルケルは問題の本質を分かっていなかった。それにより、AfDの結党・過激化そして、問題の複雑化を招いたのだ。問題の本質を見抜いていたのはCDU右派だった。

CDUの復権

経済がすべてではないが、経済がなければすべては無に等しい。

CDU党首フリードリヒ・メルツ

CDUはメルツの指導の下、低所得者と中所得者層に救済を提供することを約束した。CDUは逸らした視点を再び経済に戻したのだ。CDUは社会的自由経済を再び機能させるべく、中小企業の負担を軽減しようとしている。また、エネルギー価格の是正、規制緩和、債務ブレーキの改革と保持、官僚主義の打倒により、格差を打倒し、公平な土台を作ることで社会的自由経済を再び有効にしようとしているのだ。移民問題に対しては、厳格な姿勢を取り、2025年1月31日の移民動議では、AfDが動議に賛成したことでCDUは批判されたが、一部では妥協の姿勢も見られる。

メルツ氏は現在、シリアやアフガニスタンなどの国からの脅威として公式に知られている約500人を拘留し、国外追放することだけを要求している。これは、国外退去を要求される他の人には完全には適用されない。

2025年2月20日午前11時13分 「DER SPIEGEL」より

このように、厳格な姿勢を求める一方、妥協の姿勢も見せている。これには、移民問題の根本的な解決には経済問題の解決が必要だと見ているのであろう。「何のために」「何がしたくて」首相になるのか、与党になるのか、そして明確に「何をもたらすことが出来るのか」が不明瞭な党には任せられない。AfDとCDUはそこで根本的に異なっている。CDUの羅針盤は定まり、方向は明確であり、フリードリヒ・メルツとCDUはドイツに対して責任を負う準備ができているだろう。

第37回CDU党大会

移民動議でCDUに批判が浴びせられたが、メルツはメルケルの主張を受け入れる一方で、攻撃の主体となっていた緑の党への激しい口撃、そして、AfDへの協力の否定と、AfDの非難を表明し、すかさず攻勢に転じた。CDUは2月4日に党大会を開催し、反撃の度合いを強めた。31日の失敗にも関わらず、党内では「今が重要だ」という考えが主流であり、リベラル派で、副党首のひとりでもあったカーリン・プリーンもメルツ支持へ回った。

AfDは今回の選挙戦で最も重要な挑戦である!
それは、私たちの党が過去数年、数十年にわたってドイツで築き上げてきたすべてのものに反するものである!だからこそ、私たちはこの選挙運動で、この政党を再び可能な限り小さくするために全力を尽くしたいと思っている!この政党に対する協力も寛容もなく、少数派政権も存在しない!

CDU党首フリードリヒ・メルツ

AfDには大きな敵が1つ居る、それはCDUだ。

ザクセン州首相ミヒャエル・クレッチマー

我々は何度も何度も、はっきりと、曖昧さなく言おう。AfDとのいかなる協力にもノー、ノー、ノーだ。我々は全力で彼らと戦うつもりだ。

CSU党首マルクス・ゼーダー

このように、CDUは反過激派を堅持する構えを示し、2月17日には連立相手の選択肢はSPDか緑の党だけだと明言した。そして、世論もCDU/CSUとSPDの連立を支持し、CDU・SPD・緑の党・AfDの各党党首によるテレビ討論でも勝者だという印象を視聴者に与えた。

テレビ討論会の勝者は誰か
各党支持率

メルツに流れは向いているのだ。ミュンヘンではアメリカ副大統領J・D・ヴァンスが、非常に「押し付けがましい」持論をぶつけたが、この主張は容易に退けられることであろう。

おわりに

CDUは現在、大きな課題に直面している。この課題を解決できなければ、あるのはファイアウォールの決壊だろう。社会的自由経済の復活と保守主義の実行はドイツを活気づけることになるだろう。確実にドイツには節目が到来している。今がターニングポイントだろう。今まさにCDUは自由主義の防衛の最前線に立っているのだ。

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