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【NEWS】そのエレベーターは止まる階によって違う世界の謎へ導く。『MR. ELEVATOR』が2025年の春に発売を予定。新たな謎解きADVのジャンルを切り開く。

ギフトテンインダストリ株式会社は、2025年春に発売を予定している『MR. ELEVATOR』の公式ホームページを公開した。このゲームは同じエレベーターに乗り合わせた男女5人の奇妙な旅路を描く、音をテーマにしたパズルアドベンチャーゲームだ。

カセットテープを使った謎解きゲーム、展示会用のムービー制作、アナログゲームを用いた謎解きの作成…とこのゲームの開発には様々な紆余曲折があった。この記事では『MR.ELEVATOR』の概要と開発ストーリーを紹介する。

構成 / 葛西祝
執筆 / 両目洞窟人間


『MR. ELEVATOR』の始まりはこうだ。プレイヤーはエレベーターに乗るものの、当初はまったく動かない状態から幕を開ける。エレベーターの内部は、レトロ調のものから未知の機械で埋め尽くされたものまで、様々だ。プレイヤーはステージを探索し、手がかりを見つけ、エレベーターのボタンや装置を特定の順序で操作することで、エレベーターを動かし、次のステージへ進むことができる…というのが一連の流れになる。

『MR.ELEVATOR』では、エレベーターは記憶をたどるシンボルとして機能している。エレベーターの扉が開くと、そこには果てしなく長い廊下や広大な砂漠など、不思議な光景が広がる。これらの光景は、誰かの記憶を表しているようだ。プレイヤーはさまざまなデザインのエレベーターを乗り継ぎながら、記憶の「深層階」にたどり着き、物語の真実を明らかにしていく。

『MR.ELEVATOR』は一人称視点ゲームで、プレイヤーはコントローラーのR・ZRキーで
右手を、L・ZLキーに左手、それらを文字通り「伸ばして」ボタンを押し、アイテムを拾い、持ち物を組み合わせることができる。この腕を伸ばすことは「のびーるハンドシステム」と呼ばれている。プレイヤーはそれらのアクションを駆使し、様々な音を聴き、謎を解いていく。


このゲームでは、プレイヤー以外のキャラクターは登場しない。代わりに、落ちているオブジェクトや断片的な音声から、キャラクターの見た目や隠されたストーリーをプレイヤーは想像し、補完していくことになる。


紆余曲折があった『ミスターエレベーター』の開発


ギフトインダストリによれば、『MR.ELEVATOR』のプロジェクトは2021年の秋から始まり、様々な紆余曲折があったと公式サイトで説明している。制作者は会社の最初のプロジェクトが視覚障害者向けのボードゲームであったこともあり、音をテーマにしたゲームに興味を持ち、いくつか制作してきた。

『MR.ELEVATOR』は当初『カセットテープ探偵』という企画からスタートした。このゲームは2018年のデンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』に影響を受けたものだった。この映画は全編、警察の「緊急通報指令室」の「電話」の音声のみで展開する映画だ。

映像はほぼオペレーターの顔を映すのみで、具体的な事件の映像は一切ない中、音声だけで頭の中でリアルな情景が浮かび上がるという体験から、制作者はいつかこのようなゲームを作りたいと思うようになり『カセットテープ探偵』の企画書が生まれた。これは過去の録音を収めた証言テープを聴き比べて真相を解き明かすという内容だった。

しかし企画書は生まれたものの、実際の短いゲーム体験ができるプロトタイプを作ることはなかなかまとまらなかった。その中で利用したのが「ゲームマーケット」を締め切りにつかうことだった。


制作者はこのイベントで本物のカセットテープを一つの作品として販売することを考えた。
こうして生まれたのが『ミステリーオデッセイ』というカセットテープの謎解きゲームだ。

舞台は宇宙船。カセットテープに録音された「先輩」の声を聞き、宇宙船の各所にいる仲間と電話をして連絡を取り合い、宇宙船の危機を救うという完結した物語だ。この『ミステリーオデッセイ』では『カセットテープ探偵』の企画書で挙げた「音を使った謎解き」を全て含むことができ、そして面白さの検証を行うことができた。また制作者は『THE GUILTY/ギルティ』観たときに感じた「リアルな情景が浮かび上がる」体験を実現したことに手応えを感じた。


制作者は『ミステリーオデッセイ』に手応えを感じ、『MR.ELEVATOR』のプロジェクトを開始した。制作者は東京ゲームショウ(以下、TGS)に応募しようとしたが、そこで問題になったのが、”見た目”だった。

TGSでは動くゲームの提出は求められず、ムービーのみで審査される。制作者は「昨今のインディーゲーム業界を見てみるとビジュアルイメージが斬新なものが目立つ傾向があり、実際、私達も東京ゲームショーに応募しようとしても、遊び重視のシンプルな見た目の試作で何度も落選してきました」と語る。

展示会用の素敵なムービーを作るために、ゲーム開発とは切り離した世界観を作るチームを結成した。メンバーは映像作家のゆはらかずき氏やテクニカルアーティストなどが加入した。

『ミステリーオデッセイ』をベースにどのような魅力的な見た目が作れるのか色々と検討していくことになった。当初、ゲームの主人公は宇宙船に乗っている設定であったが、その宇宙船がエレベーターに似ているのではないか?という話をきっかけに表現の幅が格段に広がった。エレベーターを操作し、様々な世界と繋がるというアイデアから、コンセプトムービーが完成し、TGSの審査を通過することができた。

しかし次はTGSまでに動くゲーム本体を作らなければいけなくなった。

制作者はコンセプトムービーの世界観をゲームで表現するために、様々な見え方を検討した。影をつけたり、リッチな方向に発展させるのではなく、もともと大事にしてきたコンセプトである「プレイヤーが見た目を想像する」から、極力シンプルに、初期のWindowsのペイントで描いたようなくらいシンプルな画作りで制作が進められた。

プログラムを使わずに、ゲームの遊びを検討する手法を「物理プロトタイプ」という。『MR. ELEVATOR』ではエレベーターを出てからの遊びを検討するために、2人1組でプレイする、TRPG風のカードゲームが作成された。その結果、様々な道具を使った謎解きのアイディアを検討することが可能となった。

様々な実験的な取り組みをしてきた、この『MR. ELEVATOR』も開発もやっとゴールが見えてきた。発売予定は2025年春。プラットフォームはNintendo Switch, Steam。
またカセットテープ謎解きゲーム『ミステリーオデッセイ』は公式サイトで販売中だ。



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