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▼日常▼仕事のために生き急ぐな。ゆっくりした歩みから見える景色もある。『Gradually|じょじょに』【月の裏側のビデオゲーム】
【月の裏側のビデオゲーム】とは、メインストリームと外れた場所で、ビデオゲームの可能性を追求するタイトルを特集するものです。
▼シーズンテーマ『日常』に参加しているテキストです
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ランゲームの形式を用いたミニマルな体験を通じて、クリアまでの間にあるプレイの潜在的な豊かさを照らす『Gradually|じょじょに』。目標へ向かって急ぐことに焦りや不安を感じる、そんな人たちに「立ち止まってもいいんだよ」と温かく寄り添う短編ゲームです。
itch.ioの公式ページより、PCのブラウザでプレイできます。クリアまでおよそ5分程度ですが、そこには豊穣な体験に満ちています。
執筆 / ドラゴンワサビポテト
編集 / 葛西祝
本記事は無料で最後までお読みいただけます。購入後には感謝の言葉が記されています。
ウェブブラウザでプレイ可能な本作において、必要とする操作はわずか2種類。スペースキーを押して減速するか離して加速するか、たったそれだけの非常にシンプルなゲーム性となっています。
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起動するとスーツ姿にゼッケンをつけた人物が、カバンを片手にどこかへと歩き始めていきます。一直線の道のりを前へ前へ進むにつれ、しだいに歩くペースが速くなっていき、汗をかきながら苦しそうな表情を浮かべて視界は色を失い暗転。操作方法の説明が具体的に提示されていないこともあり、よく分からないうちにクレジットが現れ「どうやらゴールに到着したらしい…」と初回のプレイでは戸惑うかたも多いでしょう。ここまで最短で25秒ほど。
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これもまたゲームクリアのひとつの解ではあるのですが、ストアページに寄せられたテキストに触れることで本作の全体像が露わになります。それはゴールにたどり着くまでの過程でスピードを落とし(または足を止めて)、流れゆく背景に意識を向ける時間こそが本質的な体験としてプレイヤーに委ねられているというもの。
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せわしなく走る道中で見落としていたのは、道ばたの花へ群がる蝶たちや風に舞う木の葉のはかない美しさ。遠くに漂う雲がどこか動物に似ている小さな偶然にだって気づくかもしれません。ベンチに腰かけたおばあちゃんをクリックして挨拶を交わせば、優しい笑顔と一緒にクッキーのおすそ分けがいただけるボーナスも。
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個人的な話になりますが、この作品と出会ったのはメンタルの不調が原因で半年近く休職をしていたタイミングでした。復職をするかどうかで悩み神経をすり減らしていた当時の自分にとって、一般的な社会のレールから外れた日々を肯定するような穏やかなメッセージに強く励まされたのを覚えています。
「このスローな時間にも意味がある」と認めてもらえたようで、沈んだ気持ちが少し軽くなったのも忘れがたい思い出。こんなゲームが世界に存在する事実を広く伝えたいと、YouTubeチャンネルを立ち上げてしまうぐらいに心を動かされました。本作の紹介動画を観て、同じく休職中だったかたが「勇気づけられた」と言葉をかけてくれたのもうれしかったです。
『Gradually|じょじょに』の制作で中心的な役割を担ったのは、ゲームデザイナーのXingyao Wu氏。Shira Wuの名義でも活動する同氏が籍を置く南カリフォルニア大学の学生(Nickey Olson氏)と、東京藝術大学の有志(和泉 はるな氏、スィウランポン チャンヤ氏、楊 芸妮氏)のコラボによる共同プロジェクトとなっています。
プログラミング技術を駆使したインスタレーション作品も複数手がけているWu氏からは、メディアアーティスト的な作家性も感じられます。そんな同氏の関心は「スクリーンの外部でプレイが形成するもの」の探求にあると言い、言語を介さずとも多くの人々の感情とつながり得るインタラクティブなメディアとしての側面に注目しているとのこと。
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なお本作に登場する歩行のモチーフは、ごく単純なビジュアルで音響効果によるストーリーテリングを重視したランアクションゲーム『Blind Run|夜逃』にも共通して現れます。あわせて触れていただくと、余白を活かしたゲームデザインでプレイの概念をやわらかく解きほぐすWu氏が描く世界に、より深く迫れるのではないかと思います。
ドラゴンワサビポテト
YouTubeチャンネル「ねこかにクラブ」でインディーゲームの紹介などをしています。ゲームライターとしても活動。
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