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秘密
上京し入社したホテル、
同期は、4人が女子で、3人が男子。
そのうち、女子2人と仲が良くなり、
そして、1人を好きになった。
仕事が終わり、帰宅し、テレフォンカードを
持って寮を抜け出し、近くの公衆電話へ。
疲れを癒していたのは、彼女との長電話。
同い年で元陸上部で、明るくて内面の良さが
容姿にでている、女の子だった。
長く付き合ってた彼氏とは、喧嘩から、
酷い事を言われ、耐えきれなくなって別れたと
言っていた。
仕事の帰りに公園で話したり、
少し遠かった彼女の家まで送ったり、
近所のデパートへ買物に行ったり、
カラオケで交互に歌い、
「俺の方が上手いだろ」
「全然私だよ」と、張り合ったり、
俺の部屋に忍び込んで布団の中に隠れてたり、
風邪を引いた時に看病してくれたり。
彼女は、
「この路を通って高校に通っていたんだよ」
「今度、駅前の雑貨屋へ行こうよ」
「給料入ったら服買いに行こうね」
って、楽しげに言っていた。
次第に、
「ねぇ、いつになったら行くの?」
「また、パチンコ?」
「今日は帰ろうかな」
その頃、俺って、本当に子供で、
彼女に強がったり、自慢したり、
格好つけたり、すぐに否定するし、
常に自分を第一に考えていて、
思いやりも持たずに、
いつまでも俺の事、好きでいてくれると
思っていて。
「別れよう」
少しずつ心が離れていったの
やっぱりそうだったんだ。
いつまでも後悔したし、
忘れたくても忘れられないし、
毎日苦しくて
この頃の気持ちはミスチル「CANDY」
そのものだった。
しばらく経って、久しぶりにご飯行く事になって
嬉しくて、楽しみで、
でも、
「結婚するの」
「相手は本多さん」
同じホテルの先輩だった。
そっか、そうだったのか。
そういえば本多さんの話し
よくしていたな。
俺と別れた後、すぐに付き合い始めたらしい。
数年経って、娘が生まれて、いまは
スーパーでパートしてると便りがあった。
彼女の仕事が終わり、ホテルから自宅へ
送る時にカーステレオでよく流していた
「慕情」を聴くと
後悔とほんの少しだけ甘く感じてきた
苦い思い出が蘇る。
いまでも思いだす事、
妻には言っていない。
秘密のひとつくらい
あってもいいだろう。