![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/157611775/rectangle_large_type_2_4564a2809f438e0082127dcda977fa24.png?width=1200)
英国 PhD 留学記 ①入学
こんばんは。
イギリスに来てから 1 か月、博士課程のプログラムが始まってから 2 週間が経ちました。今朝のイギリスの気温は 3 ℃と、もうすぐ冬がそこに来ているのを感じます。
この留学記では、英国の PhD 留学の中で経験したことや考えたこと、思ったこと等を適当に書いていきたいと思います(飽き性のためいつまで続けられるかは不明です笑)。あくまで、1 大学の 1 プログラムの 1 個人の経験や意見、感想となりますので、「そんな人もいるのか~」くらいに読んでいただけますと幸いです。
ラボメンバーとの対面
イギリスでは多くのプログラムが 9 月末あるいは 10 月のあたまから始まるかと思いますが、筆者の PhD program も例にもれず、10 月から開始のものでした。しかし、これまた多くの大学と同様、筆者の大学でも 9 月の中頃から orientation week というものが開催されており、どうやらこの時期が友人を作るためには大切らしいというということで、できるだけイベントにも参加するようにしていました。
ですがこの orientation week、薄々感じてはいたのですが、参加しているのはほとんどが学部生(ほとんどが 1 年間の交換留学生で、たまに正規課程の方がいるという印象でした)か修士の学生。PhD student はどこを探しても見当たりません。もちろん、international student が少しでも馴染めるように、と意図されたイベントでもあったため、様々な国からの留学生と関わることができたのは良いことでしたし、アジア系の学生が多いことにも安心しました。実際、日本人の方も珍しくはありませんでした。しかし、やはり博士学生。たとえ連絡先を交換したところで、話すことがないのです…(私だけかもしれないです笑)。これはあるあるだとは思うのですが、基本、研究のことしか考えていないので、研究の話以外することがないのです。同じ日本人同士でも共通点が全くない(寮のタイプやイギリスに住む期間、使えるお金の金額、空き時間の有無などすべてが違いました)というのも理由の一つだったかもしれません。
そして 10 月になりいよいよラボメンバーとご対面。画面越しにしか会ったことのなかった教授とついにご対面です!
と思ったら、約束の 1 時間前に、「子どもが熱を出したからいけないかも」とのメールが。ずっこけそうになりながらも、work life balance が整えられているからこそそういうこともあるのだな、とある意味感心。
とにかく教授はいなくても、ラボの先輩がラボを案内してくれるとのことだったので、予定通りラボに向かうことになりました。どんな先輩が待っているのだろうか、とドキドキしながら待っていると、なんとキラキラした女性の先輩方が目の前に!日本の博士課程を悪く言いたいわけではないのですが、PhD student に対して持っていたイメージとかけ離れていて、少々驚いてしまいました。また、筆者が日本で所属していたラボでは、学生が 10 人ほどと比較的多かったのに対し、こちらは筆者を含めて 4 人しかいないという小規模であったことにも、カルチャーの違いを感じました(これは国の違いというものではないと思いますが)。
そしてなんだかよくわかりませんが、そのまま welcome party ということで、先輩方が筆者をパブへ連れて行ってくださることへ。ありがたいなぁと思っていると、まさかの注文は自費(涙)。ウェルカムパーティーとは…?と思ったのですが、教授が不在だったので仕方ありません…。忙しい中でも時間を取っていただいたことと、美味しい料理に感謝しつつ、さてここで困ったことが。
「英語が分からない。」
幸か不幸か、留学生は一人もいないラボで、ほぼ全員が生粋のイギリス人という環境。文字通り、全然皆さんが何を言っているかがわからないのです!これはその前の留学生であふれかえっていた orientation week では全く体験しなかった気持ち…。改めて、非ネイティブとネイティブの違いをまざまざと見せつけられました…。話していた内容と言えば、星占いの話とか(単語が特殊過ぎてわからない)、飼い猫の話とか、カウボーイの話とかでしょうか。さっっっっっっっぱりわからないのです(聞き取れない+聞き取れたとしても知らない単語)。もうお願いだから私には話しかけないでほしい、と思いながらずっとひたすら空気を読んでいると、「やあ、ここの街はどうだい?」とポスドクの方が。「あ~伝統的な建物が多くて、美しいですね」というと、「Don't pretend!」と言われ、(いやいやそもそもあなた初対面だし pretend するやろ…)と大困惑。「ここに来る前にロンドンにも行ったけど、ロンドンもよかった」と言うと、「ロンドンなんて行ったのか?あんなXXXなところに」と到底ここでは書けないようなことをさらに言われ、もう筆者はたじたじ…。「イギリス人は politeness を大切にするからね」と orientation week では習ったはずなのに…人によるのでしょうか…。
そしてその後、なんとか教授もパブで合流。ものすごく背が高く、いかにも British な先生で、厳しそうでもあり、でもおちゃめなところもあり、ラボのメンバーから愛されていることがよく伝わる先生でした。ただこれまた典型的な British accent で、筆者は教授に聞かれた「Where are you living?」という質問すら聞き取れず「When did you arrive?」と聞き間違え、頓珍漢な返答をしてしまい大失態…。教授も唖然としていました。本当に、散々な一日でした。
大量の induction
その後は、学科、学部、奨学金をいただいているプログラムとありとあらゆるところによる induction(オリエンテーション)を受けました。induction とは、学生を集めて「博士学生として期待されること」や「規則」、「困ったときのサポート」等、色々な情報を induct するイベントのことのようです。これは、イギリスならではかもしれません。少なくとも私の通っていた日本の大学では、入学手続きの書類をざっと配られるだけで、このような機会はありませんでした。
induction が充実していることのメリットは、新入生同士で交流ができることです。筆者がここで驚いたのは、体感、7~8 割の学生が女子学生であるということ。日本の博士課程では見なかった光景です。また、イギリスの PhD では、ほとんどの学生がどこかから funding(授業料+生活費)を受けているのですが、international student がこの funding を取るのはかなり厳しく(授業料が高いため、採択率が低いらしいです)、実際、多くの学生がイギリス国内から PhD に進学しているようでした。もちろん、他の国からも一定数は留学生が来ていましたが、圧倒的にヨーロッパからの学生さんが多く、あんなに溢れかえっていたアジア人は何処へ…と疎外感を感じざるを得ませんでした…。実際、たまにアジア系の学生さん(インドを除く)と会うと、彼らはすごくうれしそうに(多分…)筆者に話しかけてくれます。きっと、みんな同じ気持ちなのだと思います…。辛い。
induction の中には、絶対に見なければいけないビデオというものが含まれており、「火災が起きたときの対処法」から「差別撲滅」、「well being」とその内容は多岐にわたっていました。中には、「PC で作業をするときの環境整備の方法や簡単にできる体操」、「高いものを取るときの注意点」など、「え、そんなことも必要?」という内容まで、全部生真面目に動画化されていたのですが、すべて視聴とその後のテストまでが義務付けられており、致し方なくやらざるを得ませんでした。また、ビデオ以外にも、例えば研究室では SDS-PAGE や IFA のような実験の一つ一つに関して、安全チェックシートにその危険性等が書かれており、すべてに目を通してサインをしなければ実験を始められない、という規則になっていました。非常に面倒ではあったのですが、研究者として必ず知っておかなければならないことですので、ここで知ることができたことは良かったと思うことにします。
イギリス人との socialization
そもそも Socialisation なのか socialization なのか。イギリス英語に馴染みがある方ならこの議論もおなじみかもしれませんが、筆者はどういうときに z を s にするのか、まだよくわかっていないため、ここは z で行くとしましょう。
さて、イギリスのラボに入って、思ったことはとにかく socialization の機会が多いということ。ラボに入って 1 週間も経たずに、教授を含めたラボ全員で、大雨の中ハイキングに行ったり(もう二度と行きたくないです笑)、他のラボの人たちと時間を揃えてランチをしたり(なんと 1 時間~ 1時間半もランチに費やすことがざらです)、毎週コーヒーセッションがあって近所のラボの人がふらっと立ち寄って色々おしゃべりをしたり、複数グループでラボミーティングを行う際には誰かがケーキを持って来て、それをみんなで食べたり、と、どう頑張っても人と関わらずに PhD を過ごすことはほぼ不可能な環境です(筆者のラボの方々がたまたま全員こういうのが好きなだけかもしれませんが)。
もともと筆者は、MBTI でも Extravert な人間であるため、socialization そのものが苦手というわけではないのですが、ここで深刻な問題点。そう、英語が分からない。こういう socialization に参加しているのは、ほぼ全員イギリス人あるいはイギリスで 3 年以上過ごしている方々たちであり、話についていけていないのは筆者しかいません。本当にこの socialization は苦痛そのものです。British accent も聞いていれば慣れる、といいますし、確かに 1 対 1 で話す分には少しマシになってきたかもしれません。しかし、ネイティブ同士が会話してるところに、入るのは不可能そのもの。この「英語が分からない」という問題、筆者が思うに、アクセントの問題だけではなく、ベースとなる背景が共有できないこと(ゲームや映画の話など)、単語や言い回しを知らないこと、土地の名前などの固有名詞を知らないこと、人々が話すのが速すぎること、等、様々な問題が隠れているように思います。もちろん、英語力は伸ばしたいですし、留学に来た目的の一つがそれですので、努力することは嫌ではありませんが、道のりは長いなとつくづく感じます。
今のところ、コミュニケーションにおいて唯一、困っていないのは研究の話だけです。これは、日本のラボでも研究室内の公用語が英語であり、また研究面においてはお互いの文化を知る必要がないからかと思うのですが、つくづく、自分には研究があってよかった、と思う日々です。
ネガティブな印象お与えたいわけではないのですが、正直、今のところ、イギリス PhD 留学は、よほど英語に自信がある方か、よほど研究に自信がある方か、どちらかにしかお勧めできないなと思っています(自分は研究に自信があるわけではないですが、これまでの経験が活かせる分野だったため助かっています。一から新しいことを始めるのは、かなり厳しいと感じます)。もちろんイギリス人ばかりのラボでなければ、また違うかもしれませんが。ただ、誤解しないで頂きたいことは、イギリスの方々はものすごく親切でフレンドリーで明るく、研究を心底楽しんでいます。この点においては、本当にここのラボで良かったと思っています。
さて次の記事では、研究にフォーカスを置いてイギリスと日本を比べてみたいと思います。次の記事を書き上げる頃には、もう少し英語が何とかなっていることを切に望むばかりです。では。