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英国 PhD 留学記 ③先行論文研究と初めてのプレゼン

ご無沙汰しております、気づけば 2 月も中旬になり、イギリスに来てはや 5 ヶ月目となりました。曇天が続く日々ですが、少しずつ日照時間が長くなり、春の訪れを感じています。
筆者は、この 1 ヶ月の内に、博士課程の学生を待ち受ける第一関門(?)である「先行研究及び研究計画」の提出をはじめとした、諸々の stressful なイベントを経験しました。
本記事では、それらを通して感じたことをポツポツと書ければと思います。


「先行論文研究及び研究計画」の提出

筆者の所属する研究科では、博士課程の開始から 4 ヶ月以内(10 月から始めた場合は 1 月末)に、「literature review and initial research proposal」、すなわち、「選考論文研究及び研究計画」を提出することが義務付けられています。これは「自分の研究分野における先行研究を探してきて、これまでの研究から何が明らかにされてきたのか、そして何が明らかでないのか、を明確にし、自身の研究の立ち位置と目的、手法をまとめる」というものです。なお「選考論文研究及び研究計画」の提出は、博士課程の開始から 9 ヶ月目(10 月から始めた場合は 6 月末)に行われる confirmation review と呼ばれる博士課程を続けるための審査のようなものの一部として、位置付けられています。

さて、改めて考えると、こうした細やかな博士課程の学生に対するマネジメント(「〜月目までに〜をする」ということを義務付けるシステム)というのは、実にイギリスらしいなぁと思う点の一つです。実際、筆者が所属していた日本の大学院ではこうしたマネジメントのようなものは特になく、中間発表や博論発表以外は各々の学生に任せられていました(強いていうなら、日本では学振やその他研究費への申請書が、その部分を担っていたのかもしれません)。

兎にも角にも、筆者にとっては「まともに英語で文章を書いて、それを PI に添削してもらって、直してまた PI に見てもらって…」という作業は博士課程初の一大イベントでした。実は 10 月末頃から、「実験が本格化する前に論文を読んで準備しておいた方がいいよ」とラボの先輩方には言われていたのですが、締め切りが近づかないとやる気を起こすことは難しく、結局筆者が取り掛かり始めたのは、12 月の中頃でした…。中でも苦労したのは、何をどこまで含めるか、という点です。ダラダラと周辺情報を入れるのは嫌なので、シンプルに書き上げたいという気持ちがあったのですが、「分野外の人が読んでもわかるように」というのが前提としてあったため、どこまで説明するべきか、非常に悩みました。また、これまで日本人の指導教官や教授に見てもらっていたことを考えると、ネイティブに見られるという点で、英語に対する不安もありました。結局、PI は特に私の英語を酷評することなく終わったので良かったのですが、the とかの修正に関しては相変わらず意味がわかりませんでした…笑。

scientific advisor とのミーティング

「選考論文研究及び研究計画」の提出後に控えているのが、scientific advisor と呼ばれる「直接の指導教官ではないけれど、近くの分野からアドバイスをする存在」とのミーティングです。なお、この scientific advisor は、confirmation review の時の審査員にもなります。

scientific advisor とは基本的に半年に一度はミーティングをすることが義務付けられているのですが、scientific advisor の主な役割は「第三者として、意見を言うこと」であり、「もし学生と指導教官の間に問題があった時には手助けをする」という役割も持っています。大学院の研究室では、基本的に指導教官との関係性が全てとなってしまうため、こうしたシステムは素晴らしい理念ですが、正直にいうと、「〜をしなければいけない」という義務が多すぎて、面倒です(学生側だけでなく、教員側もそう思っているはずです)。また、指導教官と advisor の間で意見が対立した場合、学生は板挟みになってしまうため、結構 tricky なシステムでもあります。まあ、一言で言うと、「イギリスらしい」と言ったところでしょうか。

さて scientific advisor とのミーティングでは、「先行研究及び研究計画」で書いた内容をプレゼンにし、1 対 1 でのプレゼンを行いました。筆者の advisor は、厳格なオーラを発しているため実はかなり緊張していたのですが、蓋を開けてみるとものすごく親切で、「面白いプロジェクトだね」と言ってくださったので、すごくありがたかったです。

研究室内部での進捗報告会

そうしてなんだかんだしているうちに、2 月になり、遂に研究室内部での進捗報告会(とはいえ、データはまだあまりないため、主に自分の研究の背景と目的を発表する会)が筆者にも回ってきました。普通は、新しくラボに入ったら、前のラボで行っていた研究を自己紹介がてら発表すると思うのですが、なぜか筆者にはその機会がなく、文字通りこれが初めてのプレゼンとなりました。

元々、プレゼンが得意でない筆者にとっては、本当にこの進捗報告会がストレスでした。特に、ネイティブスピーカーしかいない前で、非ネイティブが英語を話すことのストレスは大きく、みんなに馬鹿にされたらどうしようと本気で思っていました笑。質問の意図が分からなかったらどうしようという不安もありました。また、これまで数多くの発表を見てきた中で、西洋の方々はプレゼンが上手いというのもわかっていたため、彼らに匹敵しなければいけないというのもプレッシャーでした。

しかし、実際にプレゼンをしてみたところ、そうした不安はすぐに吹き飛びました。もちろん筆者の英語は、彼らにとっては聞くに耐えないものだと思うのですが、それでも一生懸命私の発表を聞いてくれ、「いい発表だったよ」と学生からポスドクまでみんなが言ってくれたのです涙。こうした物言いは、イギリスならではの「表面的なもの」なのかもしれませんが、それでも本当に救われました。また、ポスドクの方には「君の発表はすごく良かった。でも、一つ付け加えるならこうした方が良い」みたいなアドバイスをいただくこともでき、「こういう環境にいられる今が本当に幸せだな」と感じました。もちろん、筆者は日本のありとあらゆる研究室事情を知っているわけではないので一概には言えませんが、日本ではあまり「学生の努力を讃え、その上で建設的なアドバイスをする」という文化は、なかなか定着していないのではないでしょうか。こうした機会に触れることができるのは、留学の良さだと改めて思います。

複数研究室合同の進捗報告会

研究室内での進捗発表会が終わった直後には、複数の研究室が合同で行う進捗報告会での発表が待っていました。この複数の研究室というのは、普段は別々の研究をしているわけですが、興味関心分野が近いため、このように合同で進捗報告会を行なっています。これは、指導教官以外からの意見を受けるという意味でも、ありがたい場です。今回は、基本的に「研究室内で行った発表を、いただいたアドバイスをもとに改良して発表する」という姿勢で臨んだ筆者ですが、ふと準備にあたって気づいたことが一つ。それは、「自分の発表は真面目すぎてジョークが足りない」ということでした。イギリスに限った話ではないと思うのですが、結構、他の学生やポスドク、PI に至るまで、みなさん、ジョークを交えて面白く話すのが上手なんですよね。というわけで、筆者も渾身のジョークを交えてスライドを準備することに。

結果は、まあうまくいったという感じでした笑。またもやネイティブの前で、非ネイティブがジョークを交えるなんて、、と不安な気持ちもありましたが、なんとか笑いを取りたいところで、みなさん笑ってくれて、肝心の研究部分にも関心を持って話を聞いてくれたように思います。また、研究室内ではいただけなかった質問をいただいたり、褒めていただいたり、有意義なものとすることができました。今後も、適宜笑いを取りながら、発表ができるように努めていきたいと思います(頑張るところはそこなのか?)。

ケーキ当番

さて、怒涛の日々の極め付けは、「ケーキ当番」でした。上記で述べた、複数研究室合同の進捗報告会は、毎週行われるのですが、ここでは実は、毎週誰かが「ケーキ当番」としてケーキを持っていかなければいけないのです(どの研究室もこういうことをしているわけではないので安心してください笑)。なお、ここでいうケーキとは、ホールケーキからドーナツ、クッキーなど、それぞれの当番の方の個性でいろいろなものが出されます。参加する側としては、ケーキを食べ、コーヒーを飲みながら他の方の発表が聞けるので楽しいのですが、いざ自分がケーキ当番になると重圧が。。。

Baking が大好きな方にとっては、こうした当番もある程度は楽しめるのでしょうし、実際ほとんどの方が手作りを持ってくるのですが、お菓子作りなんてしたことのない筆者にとっては苦痛そのもの。vegan やらその他諸々の背景を持つ方がいることなどを考えると余計面倒に感じてしまいます。というわけで、迷った挙句、最後は結局、近場のスーパーでエクレアとクッキーとカップケーキを購入しました。25 人分ほどを用意したので出費は 5000 円ほど。うーん、痛い。でも、エクレアが特に大人気で、「nice choice」といろんな方に言っていただけたので、まあ良かったということにしましょう。こういうふうに、既製品を持っていっても、ポジティブな言葉がけをしてくれる人たちは本当にありがたい存在です。

最後に

さてさて、最近の筆者の生活はこのような感じの怒涛の日々でした。これらが終わった今、ようやく実験に本腰を入れられるかな、という感じです。

ところで、こういう記事は、PhD 留学を迷われている方の後押しになれば、という思いで書いているのですが、最近、ふと自分の過去の記事を振り返って、「この時はこう感じていたんだな」と思うことも増えました。過ぎ去る日々の中で、その場その場で思ったことを書き留めておくことがいかに大切か、痛感する日々です。

どうかこの記事を読んでくださった皆様の日々も、かけがえのない素敵なものでありますように。

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