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【西瓜の夏】友達のお姉ちゃんの、だらしない色気にやられて


「ほれ、食え、食え」
 大皿に四切れの西瓜を乗せて、勇吉がちゃぶ台まで戻ってきた。千鶴さんはまだ台所で後片付けをしている。並べられた西瓜は、果肉が真っ赤で、汗をかいたように光っていた。勇吉と陽太が競うように西瓜をつかんで、豪快にかじりついた。ぼくは汁が垂れないように気をつけながら、お行儀よくかじった。炎天下を歩いてきたせいか、それともミステリアスなお姉さんを見てドキドキしていたせいか、だいぶ喉が渇いていたようだ。ジュワッと口の中に甘い汁が広がり、喉の奥が心地良さに震えた。お世辞ではなく「ああ、美味しい」と口に出した。
「そうやろ!?」
 勇吉が西瓜の汁をこぼしながら言った。陽太も同じようにウンウンと相槌を打ってきた。男三人で西瓜を貪っていると、千鶴さんも茶の間に戻ってきた。座れそうな場所はなかったが、
「どいて」
 勇吉の肩を掴んで軽く押しのけると、当たり前のようにぼくの隣に割り込んできた。千鶴さんはぼくと勇吉のあいだに、ぺたんと足を崩して座った。スリップの裾からパンティが見えそうで、見えなかった。千鶴さんの二の腕がぼくに当たっていた。わずかに触れているだけなのに大福のように柔らかかった。並んで座ると、千鶴さんはぼくよりも十センチほど小柄であることがわかった。千鶴さんが皿の上に残っていた、最後の西瓜に手を伸ばす。ほんのりと、バニラのような甘い匂いが鼻腔をくすぐった。香水だろうか、シャンプーの残り香だろうか、それとも千鶴さんの汗の匂いだろうか。風通しの悪い部屋は蒸し暑かった。横目で伺うと、千鶴さんの首筋はわずかに汗ばんでいた。そのまま視線を落とすと、スリップの胸元も覗けた。ブラジャーもつけていないんだ……。Dカップはありそうな双乳の谷間もしっとりと汗ばんでいた。けっこう汗かき体質なのかもしれない。そういえば、勇吉も汗の量が多い。ぼくの視線など気にする様子もなく、千鶴さんは弟たちと同じように西瓜を食べ始めた。ガッと豪快にかじりついて、じゅるる、と汁も啜る。口元が汁で濡れると、手の甲で拭っていた。これまで会ったことのないタイプの女性だった。ひとことでいえば、だらしない。ぼくはお上品で、優等生的な女子が好きなのだ。一度も付き合ったことはないけど……。ましてや、美桜のあんな姿を見たばかりなのだ。
 それなのに、なんなんだ、これは……。
 胸がトクトクと高鳴って、甘酸っぱいものがこみ上げてくる。
 だらしないのに色っぽい。いや、だらしないから色っぽい。
 自然とぼくはそう思っていた。それどころか、体も反応していた。
 どうしよう……。初めて遊びに来た友達の家で、勃起していた。ぼくは背中を丸めた。さらに、千鶴さんから少しでも体を離そうと、肩もすぼめた。肩身狭そうに身を縮めて、西瓜を食べることだけに集中した。台所からポタッ、ポタッと水滴の落ちる音がしていた。千鶴さんはちゃんと蛇口も閉めてこなかったみたいだ。
「ふーん」
 突然、千鶴さんが声を漏らした。ぼくは西瓜をかじったまま、止まった。千鶴さんの視線を感じたからだ。ぼくは恐る恐るといった感じで、千鶴さんを見た。千鶴さんは西瓜を手にぼくの顔をまじまじと眺めていた。
「な、なんですか……」ぼくは怯えたように言った。すると、千鶴さんはぷいっと顔を背けて、「あんたが友達を連れてくるというから、ろくでもない奴やと思っていたけど……」勇吉に向かって言った。「ああ?」西瓜を食べることに夢中な勇吉は、適当に返事をした。
「お姉ちゃん、潤さんは京都市からきたんやで。いまは夏休みやから、おばあちゃんの家に帰ってきているんや」
 陽太が手の甲で口元を拭いながら言った。すかさず勇吉も身を乗り出すようにして、「おい、姉ちゃん、言っておくけど、潤はすごい奴やぞ。いざというとき、すごく頼りになる男や。俺はこの世で一番、尊敬しているんや」と怒鳴るように言った。
「へえー。そうなんや」
 千鶴さんはどうでも良さそうに呟きながら、ふたたびぼくの顔をのぞき込むように、ぐいっと体を寄せてきた。その拍子に、右肩のスリップの紐がはずれた。ぼくの眼下に、さっきよりも露わになった胸の谷間が迫る。数秒──いや一、二秒だったかもしれない。千鶴さんはその体勢のまま、ぼくをじっと見つめてきた。
「あんた、寂しそうやな……」
 西瓜の汁で濡れた唇がそう動いた。
「え?」
「だけど、私……あんたみたいな子、好きやわ」
 右肩の紐を直しながら、千鶴さんは言った。ぼくは西瓜を手にしたまま、呆気にとられた。生まれて初めてだった。女の人から「好き」なんて言われたのは。信じられなかった。むしろ、寂しそうやな、と言われたことのほうが、すんなりと受け入れられた。とにかく恥ずかしくてぼくは俯いてしまったから、勇吉と陽太がそのとき、どんな顔をしていたのかはわからない。やがて千鶴さんは西瓜を食べ終えると、
「ほな、お姉ちゃん、そろそろ出かけるからね。あんたら、ちゃんとお皿洗っておいてや」
 何事もなかったかのように、すくっと立ち上がった。ふわっとバニラのような甘い香りも巻き上がった。つられて見上げると、肉感的な太ももが目の前にあった。それだけではない。スリップの奥まで見えた。縮れた恥毛が数本、黒いパンティの脇からはみだしていた。


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