ソフトバンク孫社長が語るスーパーインテリジェンス(ASI)の未来像-私たちへの影響は?
はじめに:シンギュラリティの先にある世界
2024年10月3日と4日の2日間にわたり開催されたソフトバンクワールドで、孫正義社長は人工知能(AI)の未来、特に今後10年以内に「スーパーインテリジェンス」(ASI: Artificial Superintelligence)が進化するというビジョンを熱く語りました。
シンギュラリティ…技術的特異点という概念は、AIが人間の知能を超える時点を指します。ASIはその先にある大変革の未来を示唆しています。
今回は、人間の認知能力をはるかに超えたASIがもたらす未来像と、私たちの生活への具体的な影響について、少し掘り下げてご紹介します。
スーパーインテリジェンス(ASI)とは? 5つのAGIとASI
孫社長はよく話題になる「AGI」(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)ではなく、「ASI」(Artificial Superintelligence)について話されています。
AGIは人間と同等か、人間を超える能力を持つAIです。ASIはAGIよりさらに進化したものとして位置づけられています。
AGIからASIへは上の図のような段階があるとのこと。下のレベル1から順に、どのようなものか見ていきます。
レベル1:限定的なAGI: 1対1で人間と同じように会話ができる。
たとえば、Open AIのChatGPT-4.0はアメリカの医学部や法学部の試験に合格できるレベル。レベル2:複数分野AGI: ありとあらゆる分野で博士号レベルの知能を持っている。
レベル3:エージェントAGI: 人間の代わりにいろいろなことをやってくれるエージェント。
レベル4:発明AGI: 発明できるエージェント。
レベル5:組織的な活動をするAGI:1対1ではなく組織的な活動を群れで行う。
ASIは、AGIを1万倍ほど超えた、人間の知能をはるかに超える存在です。最終的には、社会規模の問題解決や組織的な協調を自律的に行うマルチエージェントAIシステムのイメージが語られていました。このエージェントについては、後述します。
AI推論の革新:O1モデルの登場とその可能性
ASIへの道筋の途中段階である、すでにあるAIとして注目されていたのがOpenAIのo1モデルです。AIの推論能力における飛躍的な進歩の象徴として取り上げられていました。
従来のAIモデルは、膨大なデータによる事前学習が不可欠でした。o1モデルは、思考の連鎖(Chain of Thought Reasoning)を用いることで、多段階の問題を人間のように独立して思考し、分析、演繹、そして解決策の導出を行うことができます。
o1モデルの革新性は、すでに具体的な成果として現れています。数学、コーディング、そして科学研究といった高度な知的作業を必要とする分野で、o1モデルはすでに人間の専門家を凌駕する能力を示しているのです。
たとえば、科学的問題解決で78%、数学的推論で83%、コーディングタスクでは89%という驚異的な成功率を達成しています。従来のAIでは解けなかった複雑な数学の問題を、o1モデルは数式を段階的に展開し、論理的に正しい解を導き出すことができます。
o1の登場は、AIが知識の習得だけでなく、真の意味での「思考」へと近づいていることを示す重要なマイルストーンと言えるでしょう。
報酬ベースの学習メカニズム - 強化学習
強化学習は、AIが試行錯誤を通じて学習する手法です。AIは特定の行動をとった結果に応じて報酬または罰を受け取り、報酬を最大化するように学習します。
ASIの開発においては、安全で倫理的な行動に対して報酬を与え、危険な行動に対して罰を与えることで、ASIが人間にとって望ましい行動をとるように誘導します。
たとえば、自動運転AIの場合、「安全に目的地に到着する」という行動に正の報酬を与え、「交通ルール違反」や「事故を起こす」といった行動に負の報酬を与えることで、AIが安全運転を学習するように設計するイメージです。
そのようにして開発されてきたAIですが、Open AIのo1では、これまでの「理解する」という段階を超えて、「考える」、「発明する」の段階にきているというのです。
数千ものエージェントが数十億回試行錯誤してくれるだけでも想像を超えています。さらに、これまで誰も考えていなかったことをAIが「発明」できるということになると、人間の仕事が変わってきます。この講演で話されているようなニュースを知っているかどうかは自分や子どもの今後のキャリアを考える上で差になると感じます。
ASIのパーソナルAIエージェントは私たちの生活をどう変えるか?
孫社長は、ASIが私たちの生活に具体的にどのように関わるのかについても言及されていました。
24時間いつも寄り添ってくれる自分専用の「パーソナルAIエージェント」として、私たちの生活に深く溶け込み、個々の好みやニーズにパーソナライズされた、リアルタイムのサポートを提供してくれるものです。
たとえば次のようなものです。
自分や家族の健康状態を把握していて、こどもが夜中に発熱したときには、応急処置を教えてくれたり、病院に連絡してくれる。
A to A(エージェントとエージェントがやりとりする)
他の人のエージェントと自律的にやりとりするイメージも話されていました。
たとえば寝ている間に、自分と相手のエージェントが会話して、特定の日の予定について、スケジュール調整するのです。
人間のエージェントだけではなく、冷蔵庫、エアコンなどのエージェントと会話することもできます。家に帰る前にお風呂を入れてもらえるなど。
こうなれば、まるで専属の秘書やコンサルタントのように私たちの生活のあらゆる側面を支えてくれる存在となるでしょう。
「パーソナルAIエージェント」は高度な知能があるだけではなく、感情まで理解するものです。
感情が高まるイベント…たとえば子どもの誕生日パーティーには自動的に録画するという例が挙げられていました。
具体的にどのような場面で役に立つのかを想像しやすくするため、想定されるパーソナルAIエージェントの具体的な活用例をいくつかご紹介します。
ヘルスケア: パーソナルAIエージェントは、ウェアラブルデバイス等から得られるバイタルデータや健康診断の結果、過去の病歴などを統合的に分析し、健康状態を24時間体制でモニタリングします。緊急時には迅速に医療機関への連絡や家族への通知を行い、日常的には健康増進のためのアドバイスを提供します。一人ひとりの体質や生活習慣に合わせた個別最適化された健康管理が実現するでしょう。
資産管理: AIエージェントは、世界中の市場動向や経済指標、ユーザーの資産状況、リスク許容度、そして将来の目標などを考慮し、最適な投資ポートフォリオを提案・運用します。市場の変化にも瞬時に対応し、リスクを最小限に抑えながら資産を最大化するための戦略を立案・実行します。
教育と自己啓発: 個人の学習進捗や理解度に合わせて、最適な学習プランを作成し、教材を提供します。苦手な分野は重点的に復習し、得意な分野はさらに深堀りするなど、パーソナライズされた学習体験を提供することで、学習効率を最大化します。また、キャリアアップに必要なスキルや資格取得のためのサポートも行います。
家事管理とEコマース: 食料品の購入、レシピ提案、在庫管理、公共料金の支払い、宅配便の受け取りなど、煩雑な家事を自動化します。過去の購買履歴や行動パターンを学習し、ユーザーのニーズを予測することで、より快適で効率的な生活を実現します。
ソーシャルメディアとコミュニケーション: SNSへの投稿、メッセージへの返信、オンライン上での情報収集などを代行します。ユーザーのプライバシーを守りつつ、円滑なコミュニケーションを支援します。
超知性を持つAGIのある未来のビジョン
最終的には自己意識を持ち、安全面についても考慮してくれるパーソナルメンターのようなものになるのではないかと予測されていました。
感情を理解し、思いやり・倫理観なども持つ、人間の生活に不可欠なパートナーとなる未来のビジョンです。
超「知能」だけではなく超「知性」を合わせ持ち、人間や社会の幸せを目指すASI。これがあると、人間の能力を拡張して生活の質を向上させ、社会の課題解決に貢献してくれそうです。
まとめ
ASIの進化は、単なる技術革新にとどまらず、社会全体、そして私たち一人ひとりの生活に大きな変革をもたらすと感じる内容でした。今後10年間で、私たちの生活はどのように変化していくのか、AIの進化から目が離せませんね。
孫社長の特別講演「超知性が10年以内に実現する」のフルバージョンはこちらで公開されています。
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