岡崎京子の漫画で育った私が観た映画『チワワちゃん』の感想
こないだたまたまWOWOWでやっていた岡崎京子原作の映画『チワワちゃん』を見た。
岡崎京子さんの漫画はまさに私の思春期と青春を支えたものだから、妙に思い入れが強すぎて、映像化されてつまらなかったら余計がっかりしちゃう…みたいなところがあった。(原作ファンのあるある)
岡崎京子さん原作の映画は今まで2本あって、1本目は人気フォトグラファー蜷川実花さんがメガフォンをとった『ヘルタースケルター』。
とにかく映像がきれいで、ファッション性も高く、岡崎京子さん原作っていうよりも、蜷川ワールドを楽しむための1本という感じ。別の意味で完成されている気がした。
でも2本目の『リバーズ・エッジ』(監督 行定勲)は、なんていうか……知らぬ間に指が早送りボタンを押していて、記憶に残っているのはセックスのシーンくらい。なんてことだ……。なんであんな難しい作品を映画化したのだろうと疑問しか残らない。
そして「チワワちゃん」。結論から言えば、なかなかよかった。最高ってわけじゃないけど、でもやっぱりいい、なんかいい。
この感じ、何に近いかっていうと『恋する惑星』を見た時の感情に近いのかも。クオリティが同じくらい高いってことじゃなくて、なんていうかこれはあくまで私の感じ方。なつかしい青春を勝手に感じちゃうというか……べつにそんなイケてる青春を送っていたわけでもないけれど、私の脳が錯覚する。高校2年生だった私はオールナイトショーで深夜に『恋する惑星』を見たとき、きらびやかな都会の夜を駆け抜けたり、さまよったり、そんな時間をいつか私も送りたい、送るんだって、10代の私は勝手に思い込んだ。
だから青春の妄想という意味で、この2作品は私のなかで妙にかぶるのだ。
……と、私の思い入れはさておき、岡崎京子さんが描く、若者特有の危うさ、音楽と酒に浸る夜の高揚感、時代の空気感、どれも完璧に描かれている。映像化が難しいこの世界観をエンタメ要素を加えつつ、観る側をひきつけ、核心をしっかり描けているというのが、感動。
****
後先考えずバカみたいなことして、なのにその後でものすごい後悔したり……
自分が何をしたいのか、どんな人間なのか、知りたくても全然わからなくて…
楽しいことをしてるはずなのに、なんとなく虚しくて…
そんな不安定な青春がそこにあるって感じ。
一寸先は闇。若さにかまけてどこまでも落ちていってしまいそうな危うさが漫画と同様に映像のなかにちゃんと捉えられていて、青春時代ってこうだったよなって懐かしさと胸の高まりがおさえられなくなる。
「なんか気持ちよくて、どうでもいい」みたいな感情に支配されながら、夜の街が持つ熱気に惹きつけられ、昼間の常識と反転するあの瞬間こそが大人の世界なんだと勘違いしていた学生時代の自分。
ただ大人になりたくて、ほかの同級生よりも特別な自分になりたくて、足をつっこんだ先にどんな危険があるかなんて想像もしない。そんな青春の危うさに酔いしれていた時代をどこか思い出す作品。『チワワちゃん』を見ると、若かった自分が「大人」だと憧れていたモノやコトがどれほど薄っぺらくて、怪しくて、刹那的なものだったかと思い知らされる。でもきっとこれが私なりの青春だったんだなと、この作品を見てあらためて知らされた感があった。
あれから20年近くたって、考え方も生き方も随分変わったけれど、それでも『チワワちゃん』を見るたびに未熟で不完全な若者の姿をどこかで美しいとさえ思ってしまう自分がいる。