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読書日記〜カム・ギャザー・ラウンド・ピープル〜
朧気ながらも女優になるという大層な目標に近づく為、組み立てていた予定が白紙に戻り私は焦ら立つ。昨今のコロナ禍の為だということは十分分かっていて誰が悪い訳でもないからこそ余計歯痒い。くそ。何が悪かった。畜生。誰にも向けられない苛々は私の中でぐつぐつマグマのような音を立て、煮える。私も大人。表面上は問題ない。通常運転。澄ました顔で粋な受け答えが可能。何時もなら気にしない些細なことで突然怒りの導火線が着火。ボウッと燃え出す。何時も良くしてくれる編集者に爆発が降りかかり暴言に近い言葉を吐く始末。何だか全て私に対して歯向かってくるように思えて仕方ない。
沸き上がる苛々をどうにか飼い慣らし問題ない顔に戻ろうと躍起になる時ふとある言葉が頭を過ぎる。あれ何だったっけこの言葉。
心に引っかかった言葉を探しに本棚を探す。1冊の小説が目につく。小説『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル/高山羽根子』物語は私の過去の記憶を辿ることから開始。祖母の背中がエロいこと。JS時代、知らないおじさんにお腹を舐められたこと。JK時代、西田という友達がいたこと。主人公は渋谷の街で示威運動長になっていた西田と再会。彼が舞台から主人公を見つけた途端、主人公は突然その場から逃げ出す。
友人から貰った本作を初めて読んだ時は丁寧に書かれた空白を読むようで正直良く分からなかったと思い出しながら100P位の中編を読み進める。
物語中盤部分に目当ての1節。示威運動長の西田をよく知る女性との会話がきっかけで主人公は自分の過去を振り返る。幼少期から人生の節々で他人との違和感を感じながらもそれを押し殺してきた自分への半ば諦めのような形で主人公から吐き出された台詞。
「私みたいに何の問題もありません。みたいな顔をして仕事している。実際なんの問題もない。」
物語中にはヘルメット、祖母のエロい背中など幾つかの鍵になるものが散りばめられている。1つは雪虫。冬、初雪前にふっと湧く蜚の1種。主人公は「高解像度のデジタル記録には写らない。この街にも沢山漂う。花、羽虫かも分からない。心霊写真だと片付けられてしまうもやもやした何か」と言う。西田、祖母の周りにも舞う。改めて物語を読み終え考える。もしかすると私の周りにも雪虫が舞う。雪虫とは他人との間に起こるズレ。笑うポイントのズレ、言葉の使う雰囲気のズレ、物事の好き嫌いのズレ。他人だからずれていて当たり前。普段ならなんら気にならないもの。先の見えない閉塞感中、誰しもが雪虫の存在に普段以上に気になりつつ何とかやりすごす。そう。問題ないと平然とした顔をしていても私、編集者との間に飛ぶ何時もだったら触り吸い込んだって気にしない雪虫に過敏反応。小さなズレが気になる。彼もきっと。そう。思うと色んな人が雪虫と上手く共存し折り合いをつける中、私は自分に都合よく雪虫を燃やし消そうとしていることがとても恥ずかしい。
問題ない顔を作っていても人との間に漂う雪虫は色んな人の心を引っ掻く。物語を読んだ翌日、編集者に送る連絡メール、請求書に私は謝罪、今までの感謝の言葉をつけた。我ながらとても安直で現金な方法で笑う。短絡的な感情の上下で今までの信頼関係をなかったものにはしたくない。何より独り善がりな人ではいたくない。未来が詰まった今こそ「ごめんね」「有難う」で相手を慮れる人でいたい。
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