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付喪神目覚める その弐「付喪神の恩人」
手元にあった甘い香りのお香を炊くと、おばあさんは大人しくなり、じっと着物を見詰めていました。
付喪神さんであろうことは理解出来るものの、なぜ一体今。
化学薬品的なものを帯にかけたのが原因だとしても、随分と長い間眠っておられたんだなぁ、と思いながら私は尋ねた。
「あなたはこの帯の付喪神さんですか?」
そもそも、私はこの帯がどこからどう我が家にやってきたのかを知らなかった。
付喪神さんは、私の家の家紋を愛おしそうに撫でている。この帯の出処が祖母ならば、祖母方の家紋だろう。
そう思い、亡き祖父の写真を付喪神さんに見せてみた。
「あぁ………」
一言そう声をあげ、付喪神さんは涙を流し始めた。ということは、この帯は祖父が買い求めたものなのだろうか。
いや、祖父にはそういった趣味はなく、祖母に贈り物をするようなこともしない人であった。
あ、とひとつ、出処が思い浮かんだ。
「もしかして、おじいちゃんの、実家から来たんですか?」
そう問うと、付喪神さんはポツポツと縁について話し始めて下さった。
この帯が質に入れられてしまうところを、祖父が助けたとのこと。
それにより祖父はこの付喪神さんの恩人となったとのこと。
戦時中、そして戦後、着物や帯や骨董品などを米と替えて欲しいという人がよく訪れたという話は聞いたことがある。
祖父の実家はそこそこ大きな農家で、祖母と駆け落ちで家を飛び出すまで、食べる物には不自由はしなかったと聞いていた。
「つまり、そういった経緯で祖父の実家に来たところ、質に入れられてしまうのを祖父が止めたということ?」
付喪神さんは答えず、祖父の写真を見詰めながら、ただ、はらはらと涙を零していた。
ともかく、カビの臭い取りは一旦諦め、着物を畳みながら付喪神さんの様子を伺っていたが、これ以上何かを話して下さる気配はなさそうだ。
珍しいこともあったものだ、と私は思っていた。祖父は、祖母と違い着る物には無頓着であったし、ましてや女物の帯など気にも掛けなさそうであったからだ。
それでもこの、どこか異国情緒漂う帯に、祖父は魅入られたのかも知れない。何しろ、三世代に渡って「これだけは絶対に捨てられない」と思わせた帯である。
続く