最適解が出る前に(1)

プロロオグ

 梅雨の雨が降っている。いつにも増して激しい雨の音。ザーザーと鳴り響く。嫌な予感がする。夏の蒸し暑さなのか、嫌な未来を予感してか、頬を汗が伝う。汗が落ちたと同時に、戸を叩く音がした。

 戸を叩く相手は、無言だった。僕が雨の音に消え入りそうな戸の音を捉えられたのには、理由があった。最近、ある人が僕の家によく訪れるのだ(家と言っても、田舎に住む祖父母宅なのだが)。

 僕は、相手が誰かを確信していたので、迷わずに戸を開けた。戸を叩いていたのは、勿論よく訪ねてくる彼、萌(苗字は知らない)で、彼は雨に打たれて、びしょ濡れだった。

 「どうしたの?」と訊くと彼は「なんでもない。」と応えた。言いたくないのか、と思い取り敢えず、家の中に招くと「家には、入らない。」と応えた。彼は少し不思議な奴で、僕も何が何やら分からなかった。

「僕ね、この村を出ようと思う。」

 二人、玄関に突っ立って十分とか十五分とか経ったあたりだったと思う。いや、突っ立って暇だったから、もっと短かったのかもしれない。突然、彼は言った。

 よく見れば、彼は少し震えていて、何かがあったことは、すぐに分かった。それに、雨のせいにするには、顔が青ざめ過ぎだったんだ。雨粒が彼の頬から落ちる。

「急になんで? 何かあったんでしょ?」

 やっぱり、気になって訊く。又、彼は黙っていた。悩んでいたとも言える。

 彼が言うには、自分は変な子なのだと。『変わっている』のだと。僕はそうは思わないが。いつだって、味方が居ない。自分が苦しんでいても、誰の手も目の前には無い。心配だってされない。居ても、居なくても、どうでもいい存在なのだそうだ。

 変わっているに関して言えば、確かに彼は変わっていた。だが、僕だって負けたものでは無かった。

 だから、言ったんだ。

「僕も着いていくよ。」と。

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