【どっちが動かしやすい?】古武術から学ぶ姿勢制御・身体図式 ー理学療法士が考えてみるー
まず、二つの写真を見比べてみて下さい。
相手の手を押し返すとき、
どちらが力を入れやすいと思いますか?
答えは下側です💮
今回は、感覚情報が
姿勢制御へ与える影響について考えていきます!
古武術の稽古にて
手首を押されたとき、
ただ単に押し返すのではなく
ウル◯ラマンの必殺技『スペ◯ウム光線』
のような姿勢を取った方が相手を押し返しやすくなることを教えてもらいました。
(ウルト◯マンの中でも『7』のポーズです)
以下では単に押し返す姿勢を「ツッコミ姿勢」、
必殺技の様な姿勢を「スペ姿勢」と表現します。
それでは、なぜ、
スペ姿勢で押し返す力が強くなるのか…
それについて今回は、
リハビリテーションを考える上でも重要となる
『予測的姿勢制御』
『身体図式(body schema)』
を中心に考えていきます。
予測的姿勢制御
何らかの原因で姿勢が崩れそうになったとき、
姿勢を崩した後に転ばないよう安定させるため、先行して筋活動が生じます。
これを、予測的姿勢制御といいます。
予測をするためには
事前にどのような動作が起こるのかを把握し、
それに基づいて運動をプログラムすることが重要
となります。
運動プログラム
運動プログラムは
補足運動野と運動前野から生成されます。
運動プログラムの保存
また、生成された運動プログラムはコピーされ、運動により生じるフィードバック情報と照らし
合わせるため一次体性感覚野や側頭-頭頂皮質にも
投射されます。
各感覚情報の統合
側頭-頭頂皮質では、
すべての感覚情報が収束するとされています。
特に上頭頂小葉では今回の記事の解釈にて重要な
身体図式が生成されます。
身体図式(body schema)
簡単に言うと、
触覚や視覚、聴覚などの感覚より自分の
カラダの姿勢や動きが無意識で制御されること
をいいます。
これでもまだ分かりづらいので例を挙げますね。
文献より、分かりやすい例を見つけましたので
引用します📃
引用した例を解説すると、
(聴覚)発車する音が鳴っているからギリギリだ(視覚)ドアが閉まってそのままじゃ挟まれる
などの感覚より導かれた結果、
無意識に上半身を捻って挟まれないよう対応している。と考えることができます。
このように身体図式は、
姿勢の維持や運動の調整において
入力された感覚により無意識下で作用します。
また、習慣化された動作のように特別な注意が
不要な場面でより滑らかに機能するとされます。
身体図式より得られる作用
『いま』の身体情報、つまり、
「運動プログラムを生成する初期条件
(カラダの傾き・身体各部位の位置関係など)」
を補足運動野・運動前野へ伝達します。
すなわち、運動を行う際は、
上頭頂小葉にて形成されている身体図式の情報をもとに補足運動野・前運動野にて運動プログラムが生成され、一次運動野より運動が発現します。
総合的に考える
上記をまとめると、
何らかの原因で姿勢が崩れそうになったときには
これまでの経験や触覚・視覚・聴覚などの感覚情報より身体図式が形成される
身体図式より①補足運動野・②運動前野へ運動プログラムを生成する初期条件が提供される
①②にて運動プログラムを生成される
生成されたプログラムより筋活動が生じる
(=予測的姿勢制御)
以上の作用より、転倒を防ぐと考えられます。
古武術に当てはめて考える
さて、最後に、
古武術に当てはめて締めくくりとしましょう。
ツッコミ姿勢
(身体図式)
触覚:相手の手が手の甲に触れている
視覚:触れているところ、つまり、手に注意する
聴覚:先生「負けないで押し返してきて」
(運動プログラム)
「手の触れてるところで押し返してやろう。
負けないように手の方に力を入れよう。」
(実行)
相手が押してきた手を自分の肩・肘・手のみで押し返す単純な力技となる(上肢のみの運動)。
その結果、脇が開き、余計押し返しづらくなる。
スペ姿勢
(身体図式)
触覚:相手の手が手の甲に触れている
反対の自分の手が肘に触れている
視覚:この姿勢が崩れないか注意する
聴覚:先生「この姿勢が崩れないように
負けないで押し返してきて」
(運動プログラム)
「この必殺技みたいな姿勢を崩さず押し返すには
腰からカラダを回したら良いかな。そのためには、脚から力を入れないと。」
(実行)
相手が押してきた手を脚から腰、上半身、腕へと連動した大きな力で押し返すことができる。
その結果、ツッコミ姿勢と比べ相手を押し返しやすくなる。
運動プログラムのところは鉤括弧で表記していますが、これは無意識下で起こっていることです。
実際、私が体験した際はこのようなことは考えておらず、先生に言われてから、
「そういえば、そんな気持ちでしていたかも。」
と言った程度の認識レベルでした。
このように、顔を洗う、車を運転する、皿洗いをするなど日常生活の大半は無意識に行われています。
身体図式は無意識下での姿勢制御のため、自己の認識との一致が高いほど安定した姿勢を取ることが可能になります。
立位姿勢でカラダが左右のどちらかに傾いている高齢者の方を例に挙げると「これが真っ直ぐだと思っていた。」などリハビリの際、認識のズレを感じる場面に出くわすことは珍しくありません。
最後に
実はもう一つ、先生に
スペ姿勢を取る際、教わることがありました。
それは、
指をピンと伸ばしておくこと
です。
指に力が入ったときと入っていないときでは、
スペ姿勢でも前者で押し返しやすさを実感しました。
上記文献はいずれも『触れている』課題ですが、
手指から得られる感覚情報より、
より適切な身体図式が形成され姿勢制御が活性化されるということが理解されます。
先生の発言にこういった意図が含まれていたのかは分かりませんが、指を伸ばすことで、
筋肉や皮膚が伸びている感じなどの固有感覚が
賦活され、押し返しやすさを実感したのではないかと考えます。
以上を踏まえると、
感覚情報の賦活より姿勢制御は活性化される。
これが、今回学んだ古武術の裏テーマであったと考えています。
今回は以上になります🙌🏻
記事を読んでいただきありがとうございました。
おもしろい・興味があると感じていただいた方はスキしてくれると励みになります!
分かりにくい点は適宜質問して下さい🙇🏻♂️