新曲"Borderline"と次のアルバムについて語ります。
初めまして、regulusです。作曲をしています(雑)
本日投稿しました、"Borderline"という曲について色々とお話をしたいのですが、その前に前置き的な話をさせてください。
実は本来、僕は文章を書くということが好きなのですが、Twitterなどでは定期的に発信するという行為が苦手で、横の繋がりが一向に増えない悲しい人間です。
ではなぜ今回このような文章を書き始めたかというと、自分の作品に対して並々ならぬ想いを抱えていつつも、それを聴いてくださる皆さんに発信する場が少ない(Twitterだと文字数とかの関係で全然足りない)と常々思っていたからです。
ただ、僕はよく色んな人に話しているのですが、「解釈の幅」というものをとても大切にしていて、ある作品に触れた人ひとりひとりが全く違う解釈をしたとしても、その全てが間違いではないし、その人にとっての一番の受け取り方だと考えているのです。こちらから押し付けるような、「正解の押し売り」というものに僕は否定的なのです。
しかしながら、ある意味今回そのような行動を取ろうとしているのには理由があり、それを説明するためには次のアルバム"Absolute Zero"の話をしなければなりません。
自身7枚目となるアルバム"Absolute Zero"は、ご存知の方もいらっしゃるかも知れないですが、雪ミク2020のコンピレーションアルバム"Planet Traveler"にご提供させていただいた楽曲を同題としたものとなっており、当該曲が表題曲となります。そして今回のこのアルバムは、一貫したひとつの物語を設定しており、それに基づいて楽曲を作っています。
先ほどの「解釈の幅」というのは変わらず大切にしたいのですが、同時にひとつのエンターテイメントとしても成り立つような作品にしたいと考えているので、どういう物語を設定しているのかとか、何を考えてもらいたくて問いかけているのかとか、そういったことは説明する必要があるなと感じているから、このように文章を書いている次第でございます。
前置きが長くなりました。では今回の新曲"Borderline"の歌詞を見ていただきながら、全体の話を少しさせて貰えればと思います。(繰り返し部分は省略します)
以下、歌詞(日本語は和訳)
One word remains to be said
ある言葉は、まだ言われていない
Or more, I wanna tell you
あるいは他にも、貴方に伝えたいことがある
My heart will still be with you
この心は貴方と共にあるだろう
You are my borderline
貴方は私の境界線
I feel it's inside myself
それが私の中に居るのを感じる
Not me, the black nightmare
私ではない、黒い悪夢
Calling to break humanity
人間性を壊そうと呼んでいる
And slowly...
そしてゆっくりと…
You are the only thing I need
貴方は私が唯一必要とするもの
More than oxygen
酸素よりも
More than anything
他の何よりも
Oh, you are the only thing I need
ああ、私には貴方だけが必要だ
More than memories
記憶よりも
More than anything
他の何よりも
Can you remember the feeling
その感覚を憶えている?
When you were touching me?
貴方が私に触れた時のこと
I might be vanishing in here
私はここで消えていくかもしれない
You are my borderline
貴方は私の境界線
Grow up and black out myself
やがて大きくなり、私自身を黒く塗りつぶす
To hind a sense of guilt
罪悪感を隠すために
I seem to be a monster
私は人ならざるもののようだ
And slowly...
そしてゆっくりと…
※
(So let me know, let me know, where do you go?)
教えて、何処へ行くの?
(So let me know, let me know, I wanna find you)
ねえ教えて、貴方を見つけたい
以上が歌詞の内容となります。
※部分のみ、オーディオサンプルを使用しているため僕自身が作詞した部分ではありません。
かなり直訳気味ですが、あまり意訳しすぎると「正解の押し売り」になってしまいかねないので、誰が読んでも概ねそうなるように、なるべく表記通り訳すことを心がけました。
さて、説明していきましょう。
まず大前提となる"Absolute Zero"全体の物語ですが、大きなテーマのひとつに「罪」という言葉があります。小説程度の物語本文をそのうち公開しますが、めっちゃざっくり言ってしまえば「トロッコ問題」の話です。
多くを救うために少数を犠牲にできるか、ですね。
そして僕の言う「罪」とは、その逆を選択することを指します。
つまり、少数を救うために多くを犠牲にして良いのか。
その「少数」に、自分や大切な人が含まれるのなら?
それは「罪」だろうか? 誰が「罪」と定めるだろうか?
この物語は、主人公の女の子と、その子に非常に近しい存在の男の子の二人をメインに展開されます。そして主人公の女の子はある事件に巻き込まれ、それを起因として人の容姿をしていながらも人ならざる能力を身につけてしまい、存在しているだけで周囲に危害を及ぼす存在となります。危害を及ぼすというのは、容易く命を奪うレベルだと考えてください。
女の子は、自分がいなければ誰も不幸にならないと考えますが、男の子の存在がそれを阻止します。互いに強く求め合う気持ちと、ただ存在するということすら諦めなければならない理不尽と、己の中に生まれる罪悪感と、それらの葛藤の中で客観的に正しいと言える選択を迫られる。この「客観的」というのが厄介で、結局のところ誰から見た正しさを優先すべきなのかを考えてほしいのです。その結果、独善的と言われる選択になったとして、それを「罪」と呼ぶのでしょうか? 誰が「罪」だと裁くのでしょうか?
"Borderline"とは、人と人ならざるものの間を揺れ動く主人公の境界線であり、もはや人ではないと自覚したなら、人の裁く「罪」と向き合う道理もありません。
歌詞では、貴方を「境界線」と呼んでいますが、それがどちら側からその境目を見て、その「境界線」がどちら側へと引き留めようとしているものなのかをぜひ考えてみてもらいたいです。片側から片側へと流すまいとする「壁」と捉えてもいいでしょう。
この物語で最も独善的であるのは、ある意味男の子の方であり、女の子に対して人であれと望む傍ら、人に仇なすことを強要することの「罪」。特に男の子の方は、立場的に人側に立っているのは確かなわけですから、その「罪」と向き合う必要性は大きくなるでしょう。
いわゆる「トロッコ問題」では、単純に人数の差のみを考慮し、その質を問いません。しかし僕が問いかけている状況では、少数の大切な存在のために多数の無関係な存在を犠牲にすることが罪か、ということです。
主観的に物事を判断するなら、その主観者によって選択される命は、等価ではなくなるということを意味します。ではその「命の価値」と呼ぶべきものは数値化できるでしょうか? 他人を100人救おうが100だが、女の子にとって男の子を救えば1000になる、と言えるのでしょうか?
作品を作っている僕自身の意見はともかく、歌詞には主人公の出した答えはほぼ表れていると言ってもいいですけどね…笑
Grow up and black out myself
To hind a sense of guilt
この部分、はちゃめちゃに大事です。
ということで、この曲やアルバムのバックグラウンドとしてはこのような感じでございます。雪ミクCDに収録されている"Absolute Zero"の方も、当然同じテーマとバックグラウンドを持つのでぜひ聴いてみていただけると嬉しいです。
興味のある方は、「トロッコ問題」「緊急避難」「功利主義」など、近しいキーワードをチェックしてみると、色々と面白いかと思います。
2020.02.22 regulus
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