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貸家というコップが大きくなった話

23区の東にあるターミナル駅に築●年になる小さな貸家を持っている。購入したのは2年と少し前、ちょうど世の中がコロナとの共生を強いられている時だ。
その時の僕は運よく社命で東京から遠く離れた場所で働いていた。そして他の他の勤め人と同じように出勤と自宅でのテレワークを行ったり来たりしていた。なので、他の不動産投資家(一応僕のこともここではそう呼ぼう)と同じように休憩時間にポータルサイトの定期巡回をしていた。ただ、日に何度何度も同じ条件で検索するので表題を見るだけで
「墨田区立花3丁目住宅用地」
あぁ借地のやつね
「品川区中延2丁目」
旗竿で2m切っているやつだな
といった具合で中身がわかってしまう。ちょっとした百人一首をしている感覚だ。そんな毎日を繰り返していると、ある日突然僥倖がやってきた。
東のターミナル駅から徒歩10分、築古狭小で値段は安くもないけど、立地を考えれば高くもない、だけど思うことがあったんだと思う。そう思った瞬間にはもう電話をしていた。そして、結局そのまま電話を切らずに現金ノールックで買い付けを入れた。
あとで聞いたら、仲介はその日休日で、たまたま留守電が設定されておらず、そして物件の担当がたまたま休日出勤していたらしい。
仲介はブツモトさんで、物件もグリップしているようで、一番手を約束するから現物をみて決めてくれていいと言ってくれた。まだまだ不動産業界も温かい人がいるな、その時はそう思った。

画像はイメージです(借地じゃないし)

2週間後に現地に行った。そして2Fの窓からは広がる墓ビュー。まぁそういうことだよね、つぶやきながら、翌日は持ち回りながら売買契約の予定だったけど、時間をもらって再検討することになった。

結局、更地渡しを現況渡しで解体費分を割り引いてもらって、そこから墓ビューだって更に1割くらい引いてもらって購入を決定した。
だから今でも賃貸募集の案内文には僕が仲介さんに熱弁した言葉がそのまま載っている。

購入してからは借りて貰うまでに、実は少し時間があいた。遠方にいたこと、コロナ禍で職人さんのスケジュールがあわなかったこと、現金で追われるものがなかったこと、どうしたら地域最高値の家賃になるか、リノベプランには十分に時間をかけた。ときどき煮詰まって、Xランドのご意見番達にもアドバイスを求めたりして、寝不足になりながら充実した時間を過ごした。

ただ、一番の理由は隣地のおばちゃんと揉めたからだ。リフォーム屋さんが勝手に隣地に入ったからだ。おかげで遠方から何度もお詫びにいった。玄関の前に重たい菓子折りをもって立ち尽くし、気が付いたら手の甲に汗が流れていた、その暑い夏は忘れられない。でも、そのまま解消せず、心が折れて、しばらく放置しておいた。現金で買っておいてよかった。

結局、リフォーム途中となっていたその部屋はDIYで貸し出すことにした。清潔感のある2LDK50㎡を作り上げ、地域活性化に寄与するとともに次なる投資につながるチャレンジ価格で貸し出そうと思っていた目論見は砕け散り、DIYオッケーのリフォームやりかけで地域ほぼ最安値で募集することになった。とはいえ、そんな状態で借り手がつくとも思えず、80万かけてユニットバスを入れ替えたところで、入居が決まった。
なんでも全面的にリノベしてcafe&gallery開くらしい。もちろんユニットバスは使わない。仲介さんにユニットバスだけはDIY不可をお願いした。

その後、どこをどのようにDIYするか、教えてくださいねと伝えておいた入居者から送られてきたDIYは案はデザイン事務所が作り上げた想像をはるかに超えるものだった。もうDIYじゃないよね。

残念ながら予算の関係で実現しなかった玄関プラン


ここまでが1年半くらい前の話。
そして明日、退去に伴いカギを返却してもらう。
退去の連絡メールには、3か月前通知だが2か月後に退去したい、エアコン2台の買取もお願いしたい、副業ではじめたcafe&galleryは肉体的にも経済的にも想像以上に大変だったらしい。もちろん、応諾した。まだ若い夫婦だしきっとやり直しがきくと思う。聞けばリノベプランから工務店に発注するとすごい金額になってしまうので、かなり友人たちとDIYで作り上げたらしい。体力の限界まで頑張って、寝袋で何度も寝泊まりしたそうだ。僕が新しくしたユニットバスも役にたったみたいでほっこりした。


さて、1年半ぶりに出戻りしてきた借家は見違えていた。今度はチャレンジ価格で出そうとも思ったけれど、エリアの仲介さんから出てきた普通の価格で貸し出すことにした。理由はないけど、それでも十分のような気がしたからだ。

大家の唯一の収入といってもいい、お家賃。昔、伊丹十三監督のマルサの女で、脱税しているお金持ちの人(山崎努)に対して税務署の人が「どうやったら、あんたみたいに金がつくれるのか?」ときいた。
「あんた、今、ポタポタ落ちてくる水の下にコップ置いて、水を貯めてるとするわね。あんた、喉が渇いたからってまだ半分しかたまってないのに飲んじゃうだろ? これ最低だね。なみなみいっぱいになるのを待って、それでも飲んじゃダメだよ。いっぱいになって、溢れて、たれてくるやつ……。これを舐めて我慢するの。そうすりゃコップいっぱいの水は……」
というセリフがある。でも僕はコップからあふれた水をなめる代わりに、もっと大きなコップに移し替えて、もっと水を貯めることにした。

退去1か月前から募集をしていたこの物件は内見が8件予定している。お家賃は上げたはずなのに、1年半で相場はもっと上がっていたらしい。8件中7件は民泊、1件は同じカフェを検討しているらしい。とりあえずどんな改装をするのか確認して、もっと大きなコップにしてくれる人に借りてほしい。

今は23区の北の玄関口に土地から新築を仕込んでいる。家賃保証なしなら9%、ありなら8.4%の妄想利回りだ。最近は友人たちの見学会にお誘い頂くばっかりだったので、たまには自分からもお誘いしたい。この話も満室になったらnoteに書こうと思う。だって、最近は保有物件の減価償却とともに記憶が薄れ、物忘れが激しくなってきたから。このnoteも自分のコップが大きくなる過程を忘れそうだから。何より若い夫婦の努力への感謝を記録したい。

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