見出し画像

越境して学び合う。「現場」と「研究」の世界をつなぐ挑戦 ~ミライ研 客員研究員 自己紹介 Vol.1(伊藤将人さん)

こんにちは!ミライ研編集部です。

ミライ研では、サステナブルな地域づくりや地域の新たな価値創造に関する調査研究をさらに充実させるべく、2024年12月から新たに客員研究員の仕組みを導入し、7名の素晴らしいメンバーをお迎えしました。

今回は、客員研究員である伊藤将人さんから自己紹介をいただきましたので紹介します!
伊藤さんとは、これまでも、ミライ研が行ってきた関係人口や教育移住、ワーケーションなどの取り組みについて意見交換等をさせていただく中で、ミライ研の取り組みに共感いただき、現在は共同プロジェクトとして「地域とミライをつくるゼミ〜 Palette」の企画、運営などをご一緒しています。
是非ご覧ください!

伊藤将人氏 自己紹介

はじめまして、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)で講師・研究員をしている伊藤将人と申します。社会学と政策学という学問分野を専門に、学術の世界と、実践の世界を行ったり来たりしながら、研究に勤しんでいます。

伊藤 将人 / itou masato
所属:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師・研究員

地域とは何か

いきなりですが、皆さんは「地域」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?

下町の風景、農作物を育てている風景、おじいちゃんおばあちゃんがいる風景など、人によって浮かべる景色はさまざまだと思います。それは、私たちは一人ひとり育ってきた地域も、訪れてきた地域も、関わりのある地域も違うからです。私にとっての地域があり、あなたにとっての地域があるというわけです。
でも不思議なことに、「地域」と聞いて、なんとなく共通して思い浮かべられることもあります。たとえば上記のイメージは、比較的多くの方が「あぁ、それ地域っぽい」と思うのではないでしょうか。つまり、地域という言葉と考え方には、社会的に構築された人々の共通認識、共同幻想とでも呼べるものがあるのです。

私が生まれ育った地域は、長野県の池田町という人口1万人弱の地域です。人生の3分の2はこの地で暮らしてきました。

地元の風景

池田町で暮らす中で、2010年代半ばから地域をより良くするためのさまざまな取り組みを仲間や地域の方々と行いました。
ローカルフリーペーパーを発行したり、産官学連携の地域課題解決プロジェクトをやったり、若者の投票率向上のための運動をしたり、中高の授業に大学生を呼んできて一緒に地域や人生のことを考えたり。
 大学進学と地方創生が同じタイミングではじまった私は、「地方創生世代」と言えるかもしれません。そして同時に、1996年生まれという年齢は、ときには「Z世代」の最初期世代に括られることもあります。
昨今、「Z世代は地域や社会への貢献意識が相対的に高い」、なんて言われたりもしますが、それは、生まれてから今日まで経済が停滞し、物心ついたときにはすでに人口減少社会、阪神・淡路大震災をきっかけにボランティアやNPOといった市民の取り組みが当たり前となり、教育にも地域学習や地方創生の流れが入ってきた。そんな時代に生きてきたからだと思います。

実践者から研究者へ:キーワードは「地域」と「移動」

前置きが長くなりましたが、こんなバックグラウンドをもつ私は、「地域」と「移動」の研究をしています。
10代の頃から地域に関わる中で、「そもそも、なぜ地域を元気にする必要があるのだろう?」「課題解決が大切と言うけれど、本当に大切なのはそれだけなのか?」「地域活性化って、なんだろう?」という地域をめぐるWhyが浮かび、それを明らかにしたいという思いで地域研究者になりました。
また、地域の研究をはじめると、移住者や観光客、関係人口、交通機関を使う人といった、さまざまな移動する人によって地域が形づくられていることが見えてきました。思っているほど地域は「固定的」ではなく、「流動的」な存在であると。そこで、「地域や社会は移動でできている」をテーマに、最近は社会における「移動」が持つ意味について考えています。

常識や通説を疑ってみる

最近、『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』という本を出しました。地方移住という都市からそれ以外の地域への移住をめぐる、社会的、政策的動向を読み解いてみようという本です。

『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』

本の中で書いた興味深い話をひとつ紹介します。よくある通説として、「地方移住は最近のブーム」というものがあります。地方創生と新型コロナで人々が関心を向け始めたんだ、と語られることが多いですが、実は歴史的に紐解いてみると、1980年代、90年代から常に地方移住は社会的に関心を向けられてきたことがわかりました。

読売新聞における地方移住関連記事の推移

上の図は、新聞で地方移住に関する言及があった記事数の増減ですが、これを見ると、2010年代にグラフはピークを迎えているものの、それ以前から波を打ちながら社会的関心が高まってきたことがわかります。つまり、急に関心が高まったのではないということです。
このように、人々が地域や移動をめぐりなんとなく思っていることや、なんとなく共通理解が得られていることに対して、「それって本当かな?」「なぜ、人々はそう思うのだろう?」「実際はどうなのだろう?」と問い明らかにすることで、社会の常識を裏返したり、モヤモヤを晴らしたりすることが、私の仕事であり、趣味です。その際には、歴史的な分析や量的な分析、インタビュー調査などを駆使して問いに挑んでいます。

ミライ研と一緒にやりたい2つのこと

これまでも、ミライ研の皆さんとは関係人口や教育移住、ワーケーションなどに関するディスカッションや意見交換を行ってきました。ディスカッションで得られる気付きは刺激的で、越境して研究することの意味や意義をいつも実感しています。
これからミライ研と一緒にやりたいことは、大きく2つあります。
1つは、企業や自治体、研究者、地域団体などの人たちが越境して、一つのキャンバスに絵を描いていけるような、一緒に地域のことを考え学びあえるような場をつくっていくことです。少しずつ動き始めているこのプロジェクトがどうなっていくのか、いまからとても楽しみです。
2つ目は、ミライ研の皆さんを通してNTT東日本で働く人たちを対象にした、共同研究をしてみたいです。コロナ禍以降のテレワーク導入から現在の状況や、地方に根づき働く地域エヴァンジェリストといった制度は、一つの会社を超えて、社会的にも興味深い事象です。調査し紐解くことで、これからの時代のライフスタイルやワークスタイルを考えるためのヒントが見えてくると思っています。
これからの時代には、地域や社会をフィールドに「現場」と「研究」の世界をつなぐ翻訳者がもっともっと必要です。そして、私もそういう人間になりたいと日々思いながら研究と実践をしています。なので、今回のNTT地域循環型ミライ研究所 客員研究員への着任は、とてもワクワクするお誘いでした。
ぜひ、そんなワクワクする取り組みに皆さんも参加してみてください。会って、議論して、一緒に地域や社会のミライを考えられることを楽しみにしています。また、地域や移動に関して一緒にやりたいことがある人、まずは一度話してみたいという人はぜひご連絡ください。

【伊藤将人氏プロフィール】
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員・講師。2019年長野大学環境ツーリズム学部卒業、2024年に一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程を修了。博士(社会学)。立命館大学人文科学研究所 客員協力研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所 客員研究員。地方移住や関係人口、観光インバウンドなど地域を超える人の移動(モビリティ)に関する研究や、様々な地域で持続可能なまちづくりのための研究・実践に携わる。主な著書に『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(2024、学芸出版社)などがある。