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【記念日掌編】答え合わせ
「だから、ここはこう解くんだってば!」
イラついた声が響く。私のすぐ隣で、あいつがノートに赤ペンを走らせながら、わかりやすく説明してくる。数学の問題を解いていると、いつもこうなる。自分ではかなりできていると思ったのに、あいつは間違いを見つけ出しては、それを指摘してくる。
「これが合ってるって、本気で思ってた?」
あいつが私の答案を見ながら、どや顔で言ってくる。
「むかつく。自分だって完璧じゃないくせに」私は小声でぼやく。
「じゃあ、ここは?」
今度は私が問題を指して反撃する番だ。お互いに解答を見せ合って、ミスを見つけたほうが勝ちという、私たちの間で暗黙の了解になっているゲームだ。これを始めると、いつも私は勝てない。今日だって、もう何回目だろう。
「あー、ここか。まぁ、仕方ないな。正解率で見れば俺のほうがまだ上だし」
自信満々な顔で、あいつはケラケラ笑う。
「ほんとムカつく」
私はペンを置いて、ため息をつく。負けた感が強すぎて、勉強どころじゃない。
「何、拗ねてんの? まだまだこれからじゃん」
そう言いながら、あいつが私の肩を軽く叩いた。
結局、私は勉強を放り出して、スマホをいじり始める。もうこれ以上あいつに付き合うのは無理だ。
「なんでずっと成績トップでいられるの?」
私はふと、スマホにメッセージを打ち込んで送る。意地になっている自分に気づきつつも、どうしてもこの質問を投げかけたかった。
送信して数秒後、返事が来る。
「わからない?」
まるで私が問題を間違えた時みたいな聞き方をしてくる。
分かるわけないのに。分かるはずないのに。
「わたしと同じ理由?」
わかるはずない問題を出して応戦したくてメッセージを送り返す。
「じゃあ答え合わせしてみるか」
その一言で、心臓が跳ねた。
「合格したらね」
平然を装ったすまし顔で、私はメッセージを返した。
三年間、結局ずっと同じクラスだった。おかげで、一度も一位の座を奪えずにいた。テストのたびに点数を見せ合って、あいつの得意げな顔にイライラして、言い返すこともできずに終わる。それが私たちの関係だった。
今回も例外ではない。最後の試験も、やっぱり負けた。
合格発表の日、掲示板に自分の番号を見つけた瞬間、喜びよりも悔しさが先に立つ。結局、あいつとのこの競争が終わらないことが確定してしまったからだ。志望校も同じ。まさか、大学に行ってもこの関係が続くなんて。
あいつが向こうからやってきて、例のあのどや顔で「合格おめでとう」と一言。これが今までで一番腹立たしい。
「なんでそんなにお勉強できるの?」
言ってからすぐに後悔する。なんて聞き方だ。まるで悔しさをぶつけたように見える。でも、返事はすぐに返ってきた。
「わからない?」
また、あの挑発的な感じ。イラっとした。
「わたしと同じ理由?」
「じゃあ答え合わせしてみるか」
答え合わせの場所としてあいつが提案してきたのは、学校の近くの小さなカフェだった。少し緊張しながら、私はカフェの扉を押す。
彼がそこに座っている。あのいつものどや顔じゃなくて、どこか柔らかい笑みを浮かべて。
「さて、答え合わせの時間だな」と彼は言う。
私たちは視線を合わせたまま、ゆっくりとその「答え」を口にしようとしている。ずっとすれ違っていたように感じたけど、もしかしたら最初から、お互い同じ場所を目指していたのかもしれない。
【桃井】