西郷とアイパーと竹ぼうきと襟足#1
こんにちは。
金城です。
これはとある物件の販売の時に起きた出来事である。
この物件は程よい状態で預かった築浅のRC戸建て。
室内の使用状況も良好で申し分ない。
売主さんの売却理由は海外転勤が決まってしまい、一旦賃貸に出す事も考えたが不在中に賃貸で貸して第三者がどのように使ったか分からない物件に再び住むのはどうだろう?と奥さんと話し合った結果、売却をしようという結論に至ったという感じ。
とても丁寧に住んでいた事が伝わるくらいに室内には目立った傷もなく、ハウスクリーニングをしたら新築同様と言っても過言ではない物件。
幸いな事にここ数年は土地の値段も建築単価も上昇しているので、建築当初に売主さんが投下した価格ではとてもじゃないが建てられるような代物じゃない。
簡単に言うと「買った時よりも高く売れますよ」案件だ。
立地もいいので手数料を払っても数百万のおつりがくるくらい強気の価格設定で攻めてもいいとアドバイス。
しかし、転勤前に早くスッキリしたいというご意向もあり、残債+手数料くらいの価格設定で早々に売り出す事になった。
状態がいいので住みながらでも売れると踏んでいたが、「どうせ売るから」という理由で早々に引っ越しを済ませた売主夫妻。
大まかな荷物が無くなり、あとは細々したものが少しだけ残っている。案内する分には全く支障がないくらいのほぼ空っぽの状態。
細かいものは後日空いた時間を見つけて取りに来てくれるらしい。
空き家になれば随時案内ができるから成約率が高くなる。
なにからなにまでありがたい人達だ。
しかし、価格を抑えた築浅RCの平屋という事で売り出ししてすぐに案内希望の電話が鳴りやまぬ事態に。
ネット掲載開始からわずか一時間で10件以上の問い合わせがあったため、とりあえずネットの掲載をストップ。
翌日に全員まとめて案内をするという形で対応する。
翌日に来れない人は運よく残っていたら案内しますと言って断った。
翌日。
朝から順番に30分区切りで案内を組んだタイトなスケジュール。
予約の名前と来客順をリストで確認しながらの内覧。
だが、「どうしても先に見たい」「他に取られたくない」という気持ちが先走った人もいて、予約時間を前倒しで来る人が後を絶たず、いつでも見れます!って謳うオープンハウスさながらの状況に。
予約時間前に来てしまった人を帰すわけにはいかない。
だけど時間を守ってくる人の事も保護しないといけない。
しゃあないので銀行の事前審査を通過した人と、現金ですぐに買える人を最優先という方向で説明をすると、朝一で案内をした数組はすぐに銀行に行くといって動いてくれた。
また、別件で事前審査を通したという人にも公平を期すために
「この物件の概要書を銀行に持って行って、この物件で事前承認を取るように」
と案内し、
「私が先に問い合わせた!」
「俺が先に見学した!」
というお決まりの何の根拠もない主張を全てぶった切る事にした。
そんなお祭り状態の中でやってきたとあるご家族。
この物語の主役は彼らである。
前置きが長くなりましたがここから本編をご賞味あれ。
午前中から一人では捌ききれない数の案内でごった返す室内。
そんな中お昼前に訪れた一組の夫婦。とその父親。
「お名前伺ってもいいですか?」
「木村」
旦那さんはアイロンパーマ&襟足長め。
横にいる年配の親父さんは角刈り&剃り込みの作業服を着た現場職人という感じ、人相の悪い西郷隆盛を想像して欲しい。
奥さんは髪の毛の根本から5センチくらいまでが黒くてその先は竹ぼうきみたいなヘアスタイルになっているドンキに売られているキティちゃんのスリッパやジャージが似合う感じの人と言えば伝わるだろうか。
奥さんの袖口からはわずかに和彫りの肉体アートがチラついている。
旦那さんも寒くは無いのにロングのスパッツを履いているし、肉体お絵描きがてんこ盛りなのが予想できる。
なんか一言で言うと映画ビーバップハイスクールの卒業生たち。
そんな風体のご家族だ。
昨日の電話で受け付けた来場予定と時間を一覧にしたメモを見る。
木村という名前は見当たらない。
ネットも落としたし、現地看板も付けていない。
昨日の一時間で予約を受けた人以外がこの物件を知る術はないはずだか。。。
恐らく通りがかって人がたくさん見ているからという理由で勝手に入ってきたのだろう。
案内用のスリッパももう全て他の来客で使用されていて用意が無い。
それも気にせず素足で入ってくるご一家。
というか「予約していないんだけど見ていいですか?」の一言の断りもない。
予約必須と伝える事もできなくもないが、他のお客様の対応もあって断るタイミングを逸してしまった。
フラッと入ってきた興味本位の一見さんだし、勝手に見て勝手に帰るだろう。その時はそう思って受け流した。
だが。。。
家具が無い広い室内にテンションが上がってる子供が二匹・・・二人。
茶髪に染めた前髪と襟足が伸びたお揃いの髪型をした7歳と5歳くらいのお子様は、汚い素足でベタベタとフローリングに足跡を付けるわ、バタンバタンとドアを強く開け閉めしてはしゃぐわ、鬼ごっこを始めて走り回るわ。。。
白で清潔感のある床とクロスが売りなのに、彼らが動いて触ったところには足跡と手垢がべったりと黒ずんでしまっている。
やんちゃ坊主はたった数分で綺麗に住んでくれていた売主夫婦の物件を汚してくれた。クソが、まじで〇すぞこの餓k。。。。
それを見ても何も注意をしないご両親とその父親。
彼らは他にも内覧中のご家族から訝しげな眼で見られる事を何とも思わない鉄の心臓の持ち主らしい。
そもそも予約もせずに急に来て断りもなく飛び込みで入ってきた招かれざる客。
こんなに忙しい中でアポなしでズカズカ入ってこられて接客もできない。
というか接客する気はゼロだ。
もういいから適当に見てさっさと帰ってくれ。
ひっきりなしに入場してくるお客さんの相手をしながらチラッと木村夫婦を見る。
奥さんは物件に興味がないらしくすぐにスマホをいじっている。
アイパーの父親とその父親も周りで暴れまくる餓・・・子供に目もくれず、慇懃無礼な態度で室内を見て回る。
ドンドン!!
「この壁の素材安いヤツだな」
ガンガン!!
「この梁で構造持つのか?」
ドスドス!!
「この材質ならうちのヤツがいいか」
「このドアはしょぼいヤツだから取り換えるとして」
「キッチンはウチの在庫のヤツと交換できるっしょ」
「ここから電気を引っ張ってきて・・・」
「この壁は抜けるだろ?そしたら狭いリビングが広くなるな・・・」
「床も変えるか?ちょっとこの材質はしょぼいだろ」
ガンガンガン!ドンドン!
壁や床、その他の建具をガンガン叩きながら会話をする親子。
親子は大工さんなのか内装の職人さんなのか会話の感じで自身で内装の仕事ができるという事が読み取れる。会話から察するにどうやら一緒の職場で働いているようだ。
壁や床を鳴らしながらちょくちょくダメ出しをして、俺と周りにいるお客様を不快にさせる。お願いだから買わないなら何も言わずに何もせずに出て行ってくれ。
バタバタ!!!バタン!!ドタドタ!!
キャッキャキャッキャ♪
バタン!バタン!!ドンドン!
ゴン!!!
「うわ~ン!お兄ちゃんが叩いた~」
「違うし!お前が悪いし!!!」
鬼ごっこに熱中してたのに喧嘩して泣き出す子供。
スマホをガン見して一切関心を向けない奥さん。
車のトランクにのこぎりとロープと大きめの麻袋あったっけな?
ハンマーとバールは常備しているな。うん。
大きめのビニール袋と手袋とカッパは近くのホームセンターで買うか。
あ、あのA埠頭の廃業した倉庫なら作業できるかな?
あそこならドラム缶もあったよな。
魚のえさになるくらい小さくしないといけないからちょっと一人だとしんどい作業になりそうだ・・・。
暗くなると作業に支障をきたすはずだからA埠頭に最短ルートで行くにはナビが必要だな。
不意にそんなことを考えてしまう自分がいる。
ダメだダメだ違う違う。俺はまだ娑婆の世界で生きていたいんだ。
頼むから帰ってくれ。
「パパ~この家買って~」
襟足ミニヤンキーがスーパーでお菓子を欲しがるような軽い感じでおねだりをする。
完全な偏見で申し訳ないが君のパパはどう考えても銀行の事前審査とかを受けていないだろ?見てみろよ。たくさんの人がこの物件を欲しがって来場している。この物件の勢いならその君のパパの審査の間に別の人の買い付けが入るはずだよ。なんなら君のパパのスパッツアイパー君は事前審査に通る可能性も低そうだ。
残念だな襟足君。君たちのパパはきっとこの家を買えない。
それが現実なんだ。
そう思って襟足君のおねだりを聞き流して別の人の接客をしていたところ・・・
ジャーーーー・・・
ん?トイレの音?
トイレの方向を見ると、中からは竹ぼうきが出てくる。
え?え?え?
勝手にトイレ使ったの?
確かに売主さんが家具は引き払ったとは言えトイレットペーパーを残していた。
でもね、販売中とは言え売主様の大事な住まい。
つまり他人の家だよね?わかる?
物件の案内中にもよおしてくるお子様が居るからそういう時は仕方なしにトイレを貸し出す事はある。そのために今回もトイレットペーパーを撤収しなかった。俺の判断ミスだ。畜生。
でもあんた大人だよ?竹ぼうきさん。
少なくとも一言「お手洗い借りていいですか」って言うのが大人じゃない?
スマホばっかり見てないでさ。
そんなこちらの冷たい目線に気もくれず、濡れた手を振り振り水滴をたくさんフローリングに散水し、再びスマホをガン見する竹ぼうき。
バターーーーーン!
大きな音がしたと思ってみると襟足の弟がリビングと和室を仕切る襖を倒した。
「こら~。ちゃんと直せよ」
怒りもせずその一言だけ注意して西郷とスパッツはダメ出し&内装談義に戻る。
竹ぼうきも子供たちの無礼を謝りもせずスマホをいじいじ・・・。
マジかよこの家族・・・。
俺の手は無意識の中、A埠頭のナビをスマホにセッティングした。。。
売主夫妻に申し訳ない。
折角綺麗に使っていただいた大切な住居をこんなにして。
「金城さんならいい買主さんを見つけてくれると思ったので」
という嬉しい言葉を踏みにじってしまうような人を室内に招いてしまった。。。
不可抗力とは言え完全にこっちの落ち度だ。
来客の波が切れたら全体を拭き上げ清掃しよう。
ウチの負担でルームクリーニングもやろう。
そして塩を撒いて二度とこんな輩が入ってこれないように何か魔よけのグッズを買ってきて祈祷しよう。
はぁ、、、早く帰れ。
頼むから帰ってくれ。現実に俺がスマホのナビ通りにA埠頭に行かなくてもいいように。。。
そんなことを考えながら来客対応に追われていると・・・・
「おう。兄ちゃん。これ買うから、何をすればいい?」
????
タバコ臭い息を吐きながら西郷が横暴に話しかけてくる。
兄ちゃん?
はて?
え?
もしかして俺に話しかけてる?
んで買う?
何を?誰が?
ん?
え?もしかしてお前が?
もしかしてこの家を??
一瞬何のことかわからずパニクる頭。
「やったー!じぃじが買ってくれるって♪」
「よかったね~」
スマホを触りながら襟足の頭をなでる竹ぼうき。
いや、まてまて。
冷静になれ俺。
「あ、すみません。見ての通りたくさんのお客様が同時にいらしているので、銀行の事前審査を通った方か現金で買える方を優先しているんですよ」
フ。。。決まった。
これで親子三代にわたって躾という観念が無い輩は黙るしかないだろう。
よかった。
これで俺はまだ娑婆の空気を吸って生きていられそうだ。
「現金で買うから」
・・・・・・。
はい?
長くなったのでこの辺で。
続きは次回。
では~