リゾート物件を売りたい人#1
こんにちは。
㈱REGATEの金城です。
本日はとあるリゾート物件のお話。
プライドの高いお客様。
DIYと不動産の価値をごっちゃにしているお客様。
不動産仲介をしていればあるあるの内容です。
いつもよりもマイルドな仕上がりを心がけています。
ではど〜ぞ〜
◆県内屈指のリゾート地
ピコ〜ン♪
査定依頼のメールだ。どれどれ。
△村の別荘がたくさんあるエリアの物件か。
築10年RC造。
依頼者の年齢は65歳。
海が見えたら最高だな。
ストリートビューは、、、と。
お♪場所はいいね。
海も目の前。
確かこの歩いて行けるビーチは行政に管理されていないから夜まで遊べるって有名な場所じゃん。ま、それによる弊害も有名だけど・・・
よし!売る理由は海が近い物件に惚れ込んで別荘で買ったけど使わなくなったとかありきたりの理由だろ。んで余生を過ごそうとしたらちょっと予想と違ってて夢のスローライフを諦めたとかだろうな。
(決めつけは良くない)
トゥルルルー・トゥルルルー・トゥルルルー・・・
「はい。平泉です」
渋めのバリトンボイス。
声には威圧感がある。
「先ほど不動産の査定依頼を頂いた㈱REGATEの金城と申します♪
早速ですが査定調査に入らさせていただきます。
査定書ができたらお持ちしますのでご希望のお時間などはありますか?」
「あ~。連絡早いね。さっきネットに入力したばかりなのに。今は定年して沖縄に居るからいつでもいいよ。」
定年。沖縄に居る。メモメモ
「では明日の午後13時はいかがですか?できれば物件の室内も拝見させていただきたいんですが」
「え?そんなに早くできるの?すごいな。では明日13時に物件でいいよ」
「ありがとうございます!では明日13時にお伺いいたします!」
『定年。沖縄に居る。』
この二つのワードでピンときた。
別荘生活が思ったよりもうまくいかないし、時間も持て余してDIYくらいしか暇つぶしがないという事なんだろう。
(決めつけは良くない)
この場所、海が見えて旅行とかのリゾート目的として泊まるには最高だけどいざここで生活をするとなるとスーパーもコンビニも遠くて不便だし、深夜までビーチで騒ぐ観光客は居るし、周辺の民泊物件に宿泊する若者たちは朝まで騒いで迷惑をかけるならず者ばかりだもんな。最近だと外人の宿泊者よりも日本人の若者の方がたちが悪いっていうし。
(決めつけは良くない)
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沖縄には観光で訪れて環境に惚れ込んで移住してくる人が後を絶たない。
だが実際に住んでみたら最悪の環境ということはよくある。
沖縄のリゾート物件に住んで悠々自適な生活を送れるなんて現実的にはかなり厳しい。
※本土のみなさん。沖縄で余生を過ごす予定なら覚悟してください。
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よし!謄本取って調査や!
公図は。。。特に問題ないかな。
土地建物の謄本は。。。
・・・・あれ?新築から10年の間に5人も名義変わってる。
苗字をみたら全員内地の苗字だ。
ほとんどの人が2年くらいで手放している?www
乙区も面白い。
最初の新築の人から倍々ゲームで抵当権設定額が上がっているw
平泉さんの取得の抵当権は安いけど定年退職金とか結構な金額を手出ししたのかな?それで奥さんと喧嘩したりしてww
(懲りずに決めつけ)
とりあえず履歴を見ると平泉さんが買うまではみんな買った時よりも高く手放すことに成功したのが読み取れる。
しかしこの不動産ババ抜き、流石にもう上限ギリギリだな。
最近このあたりのリゾート物件が軒並み暴落しているし。。。
平泉さんがどこまで損切りができるかが勝負かもな。
まだまだ高く売れるとか勘違いしていなければいいけど・・・
現地調査や役所調査での法令上の問題点は見当たらない。
一番の問題点はリゾート物件を高値で買ってしまった平泉さんの目線を一般的な住宅まで落とせるかだな。。。
◆違うそこじゃない。
約束の13時。
ピンポ〜ン♪
ガチャ。
中からは大きな猫を抱えたダンディなオールバックの白髪顎ひげのおじさまが出てきた。
「どうぞ。」
低めのバリトンボイスで入室を促す。
「先に中を見ますか?」
平泉さんはすぐに室内のエスコートを始める。
玄関口から猫屋敷特有のにおいが強い。
特殊清掃が必要かもな。
平泉さんはお気に入りの物件をどれだけよく見せるかが査定価格の決め手だと勘違いしている感じだ。
※実際のところ売主にどれだけ物件の良さをアピールされても私たち不動産屋が物件の評価を上げることはない。
「ここは沖縄でも海が一番綺麗な場所で〜」
いや、もっと綺麗な場所はある
「すぐそこのビーチはプライベートビーチみたいなもんだよ」
だからそれが問題なんだよな
「この物件の造りは頑丈なRCで造られていて〜」
RCは基本的に頑丈だ
「この吹き抜けのシャンデリアはこだわり抜いて輸入したんだ~」
いや、こんな狭い空間にシャンデリアはいらん。撤去かな
「このハンモックで夕日を見ながら飲む酒が最高で〜」
天井から吊るされてるお手製のハンモック。丁寧にアンカーで打ち込んでいる。撤去だな
「庭の木々は全て嫁がこだわり抜いて選んできたやつでね〜」
どうりで見たことがない植物で溢れているんだ。南国のジャングルみたいになっている。撤去だな。。。
「庭にある瓦葺きの休憩所は私の手作りで椅子もテーブルも全部作ったんだよ」
だからDIYの造作は要らんて。撤去
「屋根に乗っているシーサーもほら、私が土から練って焼いたやつなんだ」
手作りのシーサー?土から練った?要らんよ。撤去
平泉さんの物件プレゼンは止まらない。
『隅々までこだわった造作で物件の価値を高めた。どうだすごいだろ?』
と言わんばかりの勢いで喋る。
我々からすると素人のDIYで作った造作は基本的に大きなゴミである。
スラム街のシャッターに描かれたスプレーアートと同じくらい本人の自己満足のみで構成されていて、第三者にとってみれば何の価値もないものばかりだ。
愛想よく返事をしながら主要な梁や天井裏、外壁の塗装の状態など不動産の根幹に関わるところをチェック。
流石に築10年のRCだから雨漏りはなさそうだ。
柱や梁の至る所に細かい傷がある。
玄関の靴箱を見たらシロアリの形跡もある。
床の捲れ多々あり。
壁紙の損耗も激しい。
猫用トイレの砂も散らばっている。
猫は二匹以上いるかもな。
廊下の隅々には溜まった猫の毛の塊がある。。。
網戸が破れていたり、引き戸の滑車が潰れていたり。。。
シーサー焼いてる暇があればできることもっとあったでしょうに。。。
平泉さんの物件絶賛プレゼンは約1時間を超えた。
ことあるごとに「そこじゃないんだけどな」というところへのこだわりが強いことが窺えた・・・
ふぅ。
現実を見てくれるだろうか?
◆教頭じゃない
一通りのプレゼンを聞き終えリビングに通されて猫の毛だらけのソファに促される。
いきなり査定価格に触れて現実を突きつけるよりは心を開いてもらってから本質に迫る作戦でいこう。
ソファに座るとすぐに猫が寄ってきた。
人懐っこくて新調したばかりのスーツがあっという間に毛だらけになる。
笑顔で遠くに押し退けるが少し気を抜くとすぐにスリスリ。。。
入れ違いに何匹も寄ってきては抜け毛を擦り付けてくれる。。。
スーツの袖のボタンを齧るやつもいる。。。
横に置いたビジネスバッグの中に顔を突っ込むやつもいる。。。
嬉しくなるくらい擦り寄ってくる(嬉しくない)
遠くに追いやっても近づいてくる猫と一通りじゃれあって(?)雑談を交わすことにする。
猫好きの人は猫好きのふりをすればすぐに心を開く。単純だ。
(決めつけるな)
「猫ちゃんは何匹飼っているんですか?人懐っこいですね〜。こんなに擦り寄られたの初めてですよ〜」
「いや、一匹だけは人見知りでここにいないんだよね〜。呼びましょうか?お〜いベルちゃ〜ん。どこにいる〜??」
違う呼んでほしいわけじゃない。そんな人見知りの猫はしらんからとりあえずまとわりつくみんなをどこかに追いやってほしい。。。
物件プレゼンの時も感じていたが平泉さんは人との感受性が少し違うかもしれない。。。
猫は嫌いじゃないが好きでもない。
いや、今日で嫌いになるかも。。。
平泉さんが連れてきた人見知りのベルちゃんは私の手を引っ掻いてどこかに逃亡した。猫嫌い確定。
場も温まってきたし(?)もういっちょ雑談を
「定年とおっしゃっていましたが以前は何をされていたんですか?」
「ん?東京の方で中学校の先生をね」
でた、学校の先生。要警戒だ。だから感受性がおかしいんだ。
学校の先生を勤め上げた方は偏屈な人しかいない
(決めつけすぎ)
「へ〜!すごい!退職金でこの物件を購入されたんですか?」
「あ〜、うん。最初は嫁に反対されたんだけどね。沖縄に住むのが私の夢だったから」
「あ。奥様は今外出ですか?」
「いや、彼女は東京に住んでいる」
え??墓穴ほったかな?ちょっと声色が変わった・・・
「沖縄の気候が肌に合わないからって出ていっちゃったよ」
「あ〜・・・そうなんですね。失礼しました」
やべ、せっかく猫で温めた空気が。。。熟年離婚寸前か?
ありきたりの会話でヨイショして持ち直しにとりかかる
「でも先生を定年まで勤め上げるって大変ですよね〜」
「うん。最後は副校長まで上り詰めて色々大変だったな」
ん?副校長?教頭と一緒か?登り詰めた?副だから詰めてないじゃん・・・・
「へ〜。教頭先生までやられたんですね〜。たくさんの生徒と先生をまとめて大変な仕事ですよね〜」
「いや、『副校長』だから。」
あ、墓穴掘ったwww
なんだか声が変わったし、教頭って言われるのは嫌っぽいな。気をつけよう。。。副キャプテンと副部長みたいなもん?ようわからんw
ギリギリのところでハンドリングしながらニコニコと話を合わせながら頷く。
話していると段々と気持ち良くなったのか平泉さんは学校の愚痴や子供たち、モンスターペアレントの愚痴などに花を咲かす。
言葉の端々に
「副校長の私がやってあげた」
「副校長の立場として」
「副校長だから」
とやたら副校長を強調してくる。
DIYで物件の価値が高まっていると信じきっている副校長に登り「詰めた」プライドが高い人。。。
思ったよりもハードルが高そうだ・・・
そろそろ本題を切り出すか
◆豹変
副校長武勇伝を語り上機嫌の平泉さん。
ヨイショ作戦はまずまず成功かな。
「実際に私どもが近隣の市場価格から導き出した金額はこちらです」
過去の取引事例や現在の別荘やリゾート物件の下落率を見せながら説明をする。
顔色が変わった平泉さん。
「いや、金城さんあんた間違っているよ。だって私が3500万で買って1000万使ってリフォームして手をかけたのにこんなに安いわけないでしょ。」
「この物件は特別だって。さっきも散々見ただろ?細部までこだわり抜いた物件なんだよ。少なくとも私が購入してリフォームした分は価値が上がっているはずだ」
一般的な市場価値と需要と供給の話をしても伝わらない。
お手製のハンモックやDIYの休憩所とシーサー?あとシャンデリアなんて誰も評価しないということも伝わらない。
庭の植物ももはや観賞用ではなくただの荒れたジャングルになっていることも本人には見えていない。
猫を飼っていると大幅なイメージダウンになることも伝わらない。
※賃貸でペット可だけど犬よりも猫を禁止する物件が多いのが臭いの問題です
「もういい!あんたじゃ話にならん!こんな価格なら売らん方がマシだ!帰っていいよ」
豹変した平泉さんに追い出されるように猫の毛玉だらけになって副校長の武勇伝を聞かされただけの面談は唐突に終了した。。。
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後日、地場の仲介屋さんから5000万円で売り出されているのを見つけた。
いくら何でもあの物件で5000万はきついだろ。。。
1ヶ月が過ぎ4500万円。。。
2ヶ月が過ぎ4000万円。。。。
3ヶ月が過ぎ3700万円。。。。。
結構なスピードで値段が下がっているところを見ると問い合わせも全くないということが伺える。
もう少しで私が提示した査定価格まで下がることになるな。
最初からうちの査定価格で出しとけばもう決まっていたかもしれないのに。。。
そんな感じで物件を見ていると見知らぬ番号からの着信。
「あの〜平泉の家内ですが金城さんでよろしいでしょうか?
△村の物件の売却のことでお願いをしたいのですが」
私が置いていった査定書を見て電話をしたとのこと。
長くなったので続きは次回。
次回予告
・平泉さんのプライドは山より高い
・奥さん登場で急展開
・クリリンと18号が結婚?
こうご期待♪
では〜
HPでは不動産に関することとか沖縄の不動産あるあるについてのコラムを公開しています!
ご興味がある方はそちらもお読みください♪
沖縄不動産あるある→REGATEコラム
不動産テックのこととかそんな感じ→REGATEコラム