易経と古代中国史2 万物の創生
易経の理解に役立つ古代中国史のトピックをご紹介します。
前回は中国神話での世界の始まり、天地開闢[かいびゃく]のお話をご紹介しました。
本日は、天地が定まった後の話となります。
■万物の創生 ~ 盤古の死
天地が定まった後も、盤古は、天地の間に立ちはだかって天を支える苦しい仕事を何年も続けます。
天と地の構造が強固になり、天と地がもとどおり混沌となる心配をする必要がなくなったと思った瞬間、「ちょっと休みたいな」と盤古は思います。
そして、そのまま倒れて死んでしまいました。
盤古が臨終を迎えたとき、全身に大きな変化が起きます。
口から吐き出した息は風と雲に、声は雷鳴に、
左目は太陽、
右目は月に変わりました。
手足と身体は四方のはてと五つの山々になりました。
この山は五岳ともよばれ道教の聖地となっています。
泰山(山東省泰安市)、華山(陝西省華陰市)、衡山(湖南省衡陽市)、恒山(山西省渾源県)、崇山(河南省登封市)五つがこの五岳と呼ばれます。
また、血は河川、筋は道に、肉は田畑、髪と鬚は星に、皮膚と体毛は草木、歯と骨は金属が岩石、一番優れた髄は珠玉となりました。
そして身体に寄生した虫は、風に当たったため人類になった
と伝えられています。
易経でも、万物が生まれる様子を序卦伝で次のように表現しています(本田濟「易」75、632頁)。
天地有りて然る後に萬物生ず。天地の間に盈つる者は唯萬物なり。故に之を受くるに屯を以てす。屯とは盈つるなり。屯とは物の始めて生ずるなり。
天地があって万物が生じる。天地の間には万物が満ちる。水雷屯にいう「屯」とは、満つるの意味であり、万物の始りある。
この水雷屯とは、芽生え、盈ちる、生みの困難という意味があります。
■人類の誕生
さて、人類の誕生については、盤古の伝説では、身体に寄生した虫が、風に当り人類になったとされています。
しかし、祖先が寄生虫だったというのは古代人の尊厳を傷つけたのかもしれません。
我々現代人だって、先祖が猿だと聞かされなれていいますが
実は虫だったなどといわれるとがっかりしてしまいます。
別の伝説もあります。
女媧[じょか]という女神に人類は創られたというお話です。
女媧というのは、蛇身人首(龍身人首)と描写され、顔は人間、身体は蛇(=龍)の女神です。
はじめ女媧は、黄土をこねくり回して人間を作りました。
当初は丁寧に創っていたのですが、仕事が忙しく時間に余裕を持てません。
そこで、縄を泥の中につけて、「エイや!」と、縄を引き上げると、ボロボロボロと泥の塊が落ちます。このように手を抜きながら人を作るようにしました。
この泥からできた人間は貧乏人や愚か者となり、黄土をこねて作られた人間が優れたお金持ちとなったとのことです。
これはひどい話ですね。
この話は後漢の応劭という人の書いた「風俗通義」という本に書かれているのですが、著者の応劭も、「これは俗説です」とわざわざ断りを入れています。
さて、この女媧[じょか]という女神は、伏犠[ふっき]という神様と夫婦だったとか、兄妹だったといわれています。
この伏犠が、易を作ったとされています。
次回は伏犠のお話を紹介します
------------------------
<参考文献>
「中国の神話伝説 上」袁珂 / 鈴木博(訳)
「古代中国」貝塚茂樹、伊藤道治
下記動画「古代神话故事 盘古开天辟地」から引用させていただいております。ありがとうございました。
*なお、今まで紹介した易経に関する歴史の話、占例、小話の一覧をまとめたものを下記サイトにリスト化しています。一部アメブロの記事ですが広告が入ってしまいます。今後、少しずつnoteに移転しますのでしばらくお待ちください。
該当する本田濟先生の「易」のページも記載していますので、ご本を読む際にお役立てください。