見出し画像

「戦争を知らない子どもたち」だったのに

1868(明治元)年から154年経った2022(令和4)年2月24日、大方の予想に反した突然のロシアによるウクライナ侵攻は、世界中を震撼させ、われわれを得体のしれない不安と恐怖に陥れてしまった。

驚くことに、維新から第二次世界大戦の終戦までと、終戦後から現在までがそれぞれ77年で同じ長さなのである。終戦までを近・現代史の前半とするならば、この時期の尊い犠牲の上で、その後半に生まれたわれわれの世代が平和を享受できている事実を忘れてはならない。

◆ 「戦争を知らない子供たち」だったのに

♪ 戦争が終わって 僕らは生まれ
     戦争を知らずに  僕らは育った
     大人になって 歩き始める
    平和の歌を 口ずさみながら
    僕らの名前を 憶えてほしい
    戦争を知らない子供たちさ ♪

おそらくわが国の反戦歌(脚注1)として一番知られているこの歌(作詞:北山修、作曲:杉田二郎)が流行った1970(昭和45)年に、私は高校生になった。戦争を知らない世代のど真ん中である。

◆  紛争は絶え間なく

もっとも、第二次大戦後も世界各地で紛争は絶え間なく続いてきた。

1950年代の朝鮮動乱や1960年代のベトナム戦争は大規模でアジアの紛争であったものの、自分がまだ幼かったせいもあり、「白黒の映像」としてしか記憶に残っていない。

一方、1980年代のアフガニスタン侵攻や1990年代初めの湾岸戦争はカラー映像で伝えられたが、紛争地域と心理的な距離が遠かったので、脅威が迫っているという切迫感はさほど大きくなかった。

だが、今回は違う。テレビに映し出される生々しい映像の向こうに、確実に住む場所を失い、生命の危険に晒されている市民の有様が容易に想像できるので、この種のテレビ報道には辟易している。加えて、現地の民間人らがスマホなどからSNSに投稿し、リアルタイムで色々な画像が流れてくるが、フェイクニュースも少なからず含まれているようで、憂鬱な気分を一層助長させている。

2020(令和2)年に始まった新型コロナウィルス感染症は、人や物の交流を分断させ、孤立させたという点では戦争の疑似体験だったかもしれない。

ワクチン接種が進み治療薬も開発されてきたので、ようやくコロナ禍から脱出し、これから以前の生活に戻れるという「光」が見えてきた矢先で「ウクライナ侵攻」が始まったので、あらゆる意味で最悪のタイミングとしかいいようがない。

戦況は日々変わっているので、予断を許さないが、少なくとも日本人の「平和ボケ」を目覚めさせてくれたのではないか?自分の愛国心も増す一方である。この国を穢されてなるものか ― 為政者の皆さん、もっと「国防」に力を入れてください!

◆ 桜と、ひまわりと、平和への想い

桜ほど、日本人に好かれている花はない。北から南まで、日本各地でその土地の情景に溶け込んだ桜の名所が点在している。
ビルに囲まれて殺風景と思われている東京都内にも、桜の名所は少なからずある。「六義園の枝垂れ桜」もその一つで、この春、ようやく見ることができた。(写真1)

蕾から一、二週間足らずであっという間に満開となり静かに散っていく桜を、日本人は「国花」として殊の外に愛でている。桜が奏でる仲春の風景はいつまでも残っていて欲しいが、このような自然の素晴らしさを満喫できるのも、平和であってこそなのである。

写真1:六義園の枝垂れ桜

一方、ウクライナの「国花」はひまわりである。戦争(反戦)映画の名作として名高い「ひまわり」(脚注2、写真2)の舞台がウクライナであったことを思い出した。

写真2:映画「ひまわり」

キーウ(キエフ)は、京都の姉妹都市と聞く。おそらく、ウクライナ人にとっては、日本人にとっての京都のように心の故郷なのだろう。キーウも含め、国内のあちこちにある豊かな大自然が、無慈悲に破壊されている彼らの悲しみはいかばかりか想像するに余りある。

Where have all the flowers gone?

***

神田川の川面を流れていく桜の花筏を見ながら、
「……今の私に残っているのは、涙をこらえて歌うことだけさ」
(「戦争を知らない子供たち」の二番の歌詞)と、後追いしながら、この反戦歌を久しぶりに聞いている。

***

映画「ひまわり」を初めて見たのは、二十歳を過ぎたばかりの頃だった。(写真3)

写真3:大学生協の企画で催された
映画会のチケット(1975年)

こちらも平和だったからこそ完成した映画で、画面一杯を覆い尽くすひまわりと主人公の絶望が見事に対比されていたくらいの感想しか持ちえなかった。当時は、ひまわり畑の下には多くの戦死者が無数に眠っていたという事も知らなかったのである。

ウクライナが大変な思いをしている今だからこそ、もう一度見てみたい映画である。

脚注1:私が知る主な反戦歌 

「戦争は知らない」
  (1968年、
       ザ・フォーククルセダーズ)
「愛する人に歌わせないで」
  (1968年、森山良子)
「基地さ」(1970年、吉田拓郎)「翼をください」
  (1971年、赤い鳥)
「あの人の手紙」
  (1972年、かぐや姫)
「最後のニュース」
  (1989年、井上陽水)

参考:「Where have all the flowers gone?花はどこへ行った」は、おそらく世界で一番有名な反戦歌である。
(1962年、ピーター・ポール&マリー)~~

脚注2:映画「ひまわり」

1970年のイタリア映画で、主演はマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレン。結婚していた夫婦が、戦争によって引き裂かれ、終戦後苦労して探し当てたものの男は既に別の女性と結婚していた。その女性の許しを得て、今度は男が探しに行くが、彼女も別の男性と結婚していたという悲恋の物語である。

二年前の原稿を一部変更加筆した。

いいなと思ったら応援しよう!