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エッセイ|#1 フードコート只ひとつの掟

(読み終えるまでの目安:1分〜1分半)


少し前になるが、お盆休みに地元へ帰省したときの話。

地元の商店街に昔からある百貨店の地下にはフードコートがある。お店は2つしかない小規模なものだが、地元民からの人気はかなり根強い。
フードコート内にある中華料理屋のチャーハンが子供の頃から大好物で、帰省したときは必ず立ち寄ることにしている。

ここはいつ行っても大抵混んでいるのだが、今回はお盆期間ということもあって、家族連れでごった返していた。
うろうろと席を探していると、丁度もう少しで食べ終わりそうなご夫婦を見つけたので、席の後方やや離れたところで暫く待っていた。
ご夫婦が席を立ち上がろうとしたその刹那、視界の外やや左後方から斜めに走り込んできた中年の男性が一言。

「ここ、次いいですか」

やられた。見事なダイアゴナルランによって裏を取られた。ご夫婦が席を立ってから僅かコンマ数秒の出来事。唖然としながら、事前に汲んできたと思われる水を啜る中年男性を疎ましく眺めていると、ふと思い出した。

そうだ、フードコートは家族憩いの場などではなかったんだ。一瞬たりとも気を抜けない、いわばバトルフィールドだ。

以前、連休で混雑しているサービスエリアのフードコートにて、傘を椅子に引っ掛けて座席予約したつもりが、いきなり鞄をドーンと置かれて予約の上書きを許してしまったことがある。

某テーマパークのフードコートでも、ほぼ食べ終えているとはいえまだギリギリ食事中では?くらいの状態の人を押し除け、テーブルにお土産袋をぶちまけて席をもぎ取った猛き武人を目の当たりにしたこともある。

「食事中の人にプレッシャーをかけてしまったら申し訳ない‥」そんな気遣いは、このフィールドにおいては只の甘えであり、命取りとなる。
「自分の方が先に来て待っていたのに‥」そんなお利口な理屈など、一切通用しないのだ。
ここでの掟は只ひとつ。ほかの誰よりも先にテーブルにでっかい荷物を置き、領有権を主張することができた者こそ、勝者であり正義。

‥そんな教訓を胸に、フードコートの端の方にある競合が少なそうな席に座っておられた老夫婦を目標に定める。
席のすぐ近くに立つことで周囲を若干牽制しつつ、老夫婦が席を立つやいなや一瞬で距離を詰めて一言「ここ、次いいですか」
そして背負っていたリュックサックをテーブルにドーン。‥勝った。

フードコートに着いてからは小一時間ほど。無事にチャーハンにはありつけたが、何だかいつもよりほんの少しだけ美味しく感じなかった気がするのは何故だろう。


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