親とかいう謎の生き物【母】
母親が72歳になった。もういい年だけど、写真などを見てもらったら多分みんな驚くだろうと思うくらい私の両親は若々しい。今でも夫婦二人で山登りの趣味を楽しんでいるのが良いのか、腰も曲がっておらずシャキッと姿勢の良い二人。
特に母は何といってもユーモアセンスが素晴らしい。それに頭が柔らかくてデジタル関連の新しい事にも積極的に挑戦する。もう9年くらい前になるが、私が海外に出た後程なくして母親にFacebookアカウントを作ってあげた。私が頻繁に更新をしていたので、それを見ていてもらえれば個別に連絡をしなくても私が無事で元気にやっている事が分かるだろうと思ったから。最初のうちは私のポストをただ見るだけの母だったが、すぐに自分も山の写真をアップしたいと言い出した。写真をくれれば私がやってあげるよと言って数回は代わりにやってあげた。その後説明もしていないのに突然自分でアップロードをはじめ、今では私よりも更新頻度が高い。山で知り合った人なんかと繋がったりしてちゃんと交流にも使っているから驚く。結果的に私の安否確認ではなく母親の安否確認ツールになった。毎週キレイな山の風景や花の写真、元気そうな姿がアップされる。見守りポットより高機能だ。他にも、最近までパートで働いていたが、収入分の確定申告を自分でオンラインでやったらしい。
お誕生日おめでとうと連絡をしたら「先が見えてきたわー」と言われた。確かにもうそんな歳かもしれないけれども、まだくたばられるわけにはいかない。うちの両親は私が海外に出てから1度も私の住んでいる国へ訪ねて来てくれたことがない。上海からシンガポールに移住する合間に一緒に海外旅行へは行ったが、私の住む上海にもシンガポールにも来てくれていない。三途の向こうが見えてくる前に1度は私の住む国へ遊びに来てもらわないと私が浮かばれない。もうしばらく、コロナが終わって旅行ができるようになるまで、飛行機に乗って移動できるくらいは元気でいてもらわないと困る。
他人様の家庭事情はよくわからないけれども、娘が海外なんて出たらすぐにでも顔を見に行こうとしたりするものではないの?小さい頃から放任ではあったけれども度が過ぎていると感じる事もある。そういえば私の結婚離婚に関しても何か口を挟んできたことが殆ど無い。なんなら離婚の理由を聞かれた覚えもあまり無い。結婚相手に関して根掘り葉掘り聞かれたことももちろん無い。
私は学生の頃グレることは無かったものの、完全に心が宇宙へ飛び立って中々戻ってこない時期があった。朝家を出てもまっすぐ学校へ行かず外をフラついたりする学生だった。何となく乗り気せず、しょっちゅう学校を休んだり遅刻したりした。あの頃は自覚していなかったけれども、多分私は「不登校気味な生徒」だったのだろうと思う。本人はただ乗り気がしない時は行かなかっただけなのだけど。
この事に関して大人になってから気付いたのだが、よく学校をサボる私に母親が文句を言った覚えがない。なんなら母親も休みの日には「買い物行く?」と言って、車で少し遠くまで連れ出してくれていたような記憶がある。なので私は自分が若干不登校気味である事になんの負い目も引け目も感じず、ただ自分の中の宇宙を彷徨いそれと向き合うだけの時間を過ごしていた。高校も専門も出席日数が足りず卒業が危うかった時は、自分の行いのツケとして苦労する事にはなったけれども。
うちは比較的平和で幸せな家庭だったと思うのだけど、なんとなく母だけが怪我をしたり病気になったりしているような気がする。スピリチュアル的なことを言ってしまうと、私達家族に降りかかる災難やバチは全て母が受け止めているようにさえ感じる。だから母が大腸癌を患った時には母が癌になったのは自分のせいだと、自然と普段の自分の行いなんかを反省した。幸か不幸か母が病を患ったおかげで、元から予定されていたかもしれない時期よりも早くに「親を大切にしなければ」という気持ちが芽生えた気がする。あれから10年以上経っているけれども、私がかけてきた心配や迷惑の量を考えれば、まだまだ元気に生きて親孝行できるチャンスをくれないと本当に困る。
親孝行をしたいと私が意気込んではみても、親の方が全くこちらを頼るつもりがないのが少し悲しくもある。私と姉に迷惑はかけない、ボケたらすぐ施設にいれろ、勝手にやるからそっちも心配するような事を細かく報告して来なくていい、好きにやってろ、大丈夫だと信じてるから、と。
腹がすわってますねと言ったら「鍛えられたからね」と言われた。私にその苦悩は伝わってこなかった。伝わらないようにしてくれたのだろうけれども、両親の中ではやはりそれなりに苦しい時間を過ごしていたのだろうな。私を信じて、何度も裏切られただろうと思う。それでも信じて野に放し、遠くから見守り続けてくれた両親。放牧だけど困った時は呼び戻して必ず助けてくれた両親。自分は子供をもつことがあるか分からないけれども、自分が親になってこんな風にできるだろうかと考えてみれば答えはどうしてもノーとなってしまう。親とは本当に…なってみなければ理解できない生き物なのだろうなと最近よく思う。
迷惑をかけることが親孝行だとか、親は子供が元気なのが一番の幸せだとかよく聞くけれども、それでも。もう少し色々世話をやかせてもらえる時間がほしいから、まだくたばってくれるなよと本人にも言い聞かせておいた。身動き取れなくなってからの面倒だけではなく、一緒に動けて一緒に楽しめる間に、もっと色々してあげたいから。本当に、お願いしますよ。
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