見出し画像

マイスモールランド

マイスモールランド」を新宿の映画館で見た。その日には午前10時台一度きりの上映のせいもあってか満員で、出遅れた私は大画面迫る最前列で見ることになった。
 女子高校生のサーリャはクルド人で父マルムズと妹アーリン、小さな弟ロビンの4人家族。家族は祖国で父が迫害を受けて伝手を頼って日本にやって来た。そして難民申請しているのだった。
 サーリャの日常は普通の日本の高校生と全く同じ学校やバイトの暮しと、家に帰ってからのクルド人の暮しとが共存している。家では絨毯の上に車座で座りお祈りしてからみんなで手づかみで食事しているのだが、その料理が美味しそうで朝食抜きで来てしまった私にはたまらなかった。父マルムズはクルド人であることに誇りを持ち、日本にいるクルド人たちとの交流を大事にしているが、サーリャ達子ども世代は日本の生活に溶け込もうとしていてそこに溝が生じてしまっている。こういうことは他の民族の難民や移民の家族にも共通にある問題なんだろう。
 サーリャは毎朝自然とカールしている髪をヘアアイロンで伸ばしてから通学する。ヘアアイロンは日本の日常への、変身アイテムのように思えた。サーリャは学校では国を訊かれたら「ドイツ」と答え、級友たちもそれを信じている。クルド人はトルコやイラン、イラク、シリアに居住しているが第一次世界大戦後の中東の国境設定の際に考慮されず自らの国家を持つことが出来なかったのだ。彼女は日本では自らの出自も隠しドイツ人として振る舞う方が得策とした訳だが、この辺りに気楽に「国はどこ?」と訊いてしまう「我々の危うさ」を感じた。それを特に感じたのが、バイトしているコンビニのレジで高齢の女性が「どこから来たの、日本語お上手ね、いずれ帰るんでしょ。」とやさしく声を掛けるところだ。彼女は曖昧な笑みを浮かべるだけなのだが、少し考え込んでしまった。
 サーリャは学校では仲良しの友達もおり、バイト仲間の聡太とは互いに惹かれ合う仲でありと充実した毎日を送っている。聡太と河原でいつまでも話し込んでいる姿がなんとも微笑ましい。

画像2
©yoshiyuki mizuno

 そんな日常が難民申請が不認定になったことから一変する。それを伝える入管の職員の冷たい口調と在留カードを無効にするために穴をあける器具の音に息が詰まった。入管への収容は免れたものの、かわりに与えられた「仮放免」という状態には多くの非現実的とも言える規制がともなうのだ。就労してはいけない、居住する都道府県から入管に行くなど許された時以外には出てはいけないなど、どうやったら生きていけるのかという内容である。(付き添うものの積極的には動かない老人の弁護士を平泉成が好演。)
 しかし家族を養っていくためには働かざるを得ないマルムズはある朝職質され捕まり入管に収容されてしまうのだった。サーリャ達はどうなるのか。バイトは続けられるのか、今の家に住み続けられるのか、(人の良さそうな大家さんの小倉一郎がいい)、なにより日本にいられるのか。問題を抱えつつ聡太たちに見守られながら彼女の人生は続いていく。
 サーリャ役の嵐莉菜は日本・ドイツ・イラン・イラク・ロシアと複数のルーツをもち、彼女自身も「どこから来たの?」と訊かれたこともあるのだろう。これが初監督作品の川和田恵真も父がイギリス人で母が日本人で同じような経験があるかもしれない。今までに名前をあげた以外でも池脇千鶴や藤井隆それにサヘル・ローズなどの有名俳優もこのテーマの作品に出演していることがありがたい。それに、バンダイナムコアーツが配給、NHKが協力と大企業が参加していること、それに当日満員だったことに希望がもてる。
 仮放免で就労禁止などと生活出来ない法律は出来るだけ早く改めてもらわねば困るけれど、その現実を知ってもらうためにも是非とも見て欲しい映画だ。映画術も冴えてるし娯楽作品としても一級品であることの太鼓判を押しておこう。
 この映画を見た方、興味を持たれた方には6月4日(土)開催の「難民・移民フェス」に是非来ていただきたい。楽しいフェスになりそうな予感がしています。難民や移民の方々と盛り上がりましょう。

水野喜之(みずの・よしゆき)浪曲を唸り、「散歩堂」の屋号で一箱古本市出没中。本業はサラリーマン(らしい)。

***

難民・移民フェスを支援する窓口です。
運営は皆様のご寄付で成り立っています。サポートにご協力いただけましたら嬉しいです(noteからもサポート可能です)。

寄付






いいなと思ったら応援しよう!