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その3 アトゥトゥ ミャンマー支援共同代表 渡邊さゆりさん

難民・移民フェスに参加するひとたちに会いに行く熊崎敬さんの「難民・移民探訪記」。第3弾はアトゥトゥミャンマー支援共同代表の渡邊さゆりさんです。

左から二番目が共同代表の渡邊さゆりさん ©asami minami

 記念すべき第1回難民・移民フェスには、ミャンマー関連のブースが数多く出店されます。その多くを手がけるのが、「アトゥトゥ ミャンマー支援」という団体です。
 昨年2月1日に発生したミャンマー国軍のクーデターによって、コロナ禍で苦しんでいた同国の人々はさらなる苦境に陥りました。日本には現在、ミャンマーにルーツを持つ人々が3万5000人もいますが、彼らも例外ではありません。同団体の共同代表を務める渡邊さゆりさんが、在日ミャンマー人との出会いや彼らの現状、フェスに参加する意義について語ってくれました。

 現在、駒込平和教会で牧師をしている渡邊さんが、ミャンマーの人々と知り合ったのは、いまから10年前のこと。
 「当時、私は牧師を育てる先生をしていて、その学校の寮に暮らしていたんです。そこへミャンマーにルーツを持つ人たちが入学、入寮することになり、気づいたら彼女たちと生活することになったわけです」
 寝食をともにする中で、渡邊さんは徐々にミャンマーのことを知っていく。とりわけ新鮮だったのが、彼らの他者とのかかわり方でした。
 「ミャンマーには135もの民族が暮らしていて、山ひとつ越えただけでもことばがまったく違ったりする。民族が違えば歴史的背景も違うので、彼らは互いに“違うものは違う”と割り切っているんです。そこが “話せばわかり合えるはずだ”と考える、私たち日本人とは全然違う。どちらが良い悪いということではなく、その違いがものすごく新鮮に思えたんです」

 先生と生徒という関係で始まった、渡邊さんとミャンマー人たちのかかわり。それはやがて家族のようなつながりに変わっていく。
 「正直、私は救われたところがあります。彼女たちは“私たちは助け助けられて生きているんだから、先生だって助けてもらえばいいんだよ”と言ってくれて、心がものすごく救われました。彼女たちは私のことを丸ごと受け入れてくれて、“自分たちが育ったところを見てほしい”と言って、故郷を案内したりしてくれたんです」

 10年間、ミャンマーの人々を見守ってきた渡邊さんには、彼らが少し気の毒になることがあるそうです。
 「日本に暮らすミャンマー人は1988年のクーデターで逃げてきた人や技能実習生が多いのですが、大半が仏教徒ということもあってか多くの人が“日本に迷惑をかけちゃいけない”と強く思っているんです。ですからクーデターに反対するデモを行なうときも、律儀に“お騒がせして大変申し訳ございません”と断ってから始める。仮放免や技能実習生には日々の暮らしに困窮している人が少なくないのに、迷惑をかけちゃいけないと思っているのか周りに遠慮して、ひっそりと暮らしているんです。そうした姿を見ると、胸が痛みますね」

 昨年2月にクーデターが始まったとき、日本でもそれは頻繁に報じられた。いまではほとんど見なくなったが、戦禍が収まったわけではない。ウクライナと大差ない凄惨な状況が、いまもミャンマーで続いている。

 「彼らの多くが、“サバイバーズギルト”にさいなまれています。つまり同胞が国軍との戦いで傷ついたり、命を落としたりしているのに、自分だけが安全な日本に逃れてしまった。そうした罪悪感に駆られているんです。ミャンマー人は血縁のつながりをものすごく大事にするので、限られた収入の中からかなりの額を故郷の親類などに仕送りしているんです」

 日本人に迷惑をかけまいと、都会や郊外の片隅でひっそりと暮らすミャンマーの人たち。渡邊さんは、今回のフェスが控えめなミャンマー人のことがもっと知ってもらえる機会になればと願っています。

 「フェスに参加するミャンマー人はみんな日本語が上手いので、どんどん話しかけてください。ネイルをしてくれる女性も民族衣装を着せてくれる人も、きっとミャンマーのことや自分たちの暮らしについて、丁寧に聞かせてくれると思います。そうそう、陽ざしが強烈なミャンマーには、タナカという日焼け止めがあるんですが、それを担当してくれる人は“タナカは日本人には任せられない!”と張り切って大阪から駆けつけてくれるんです。このフェスをきっかけにミャンマーに興味を持ってくれたら、これほど嬉しいことはありません」

 ©asami minami

熊崎敬(くまざき・たかし)1971年生まれ、岐阜県出身のフリーライター。スポーツ、とくにサッカーを中心に取材を行ない、訪れた国は50を超える。主な著書に『日本サッカーなぜシュートを撃たないのか』(文春文庫)、『サッカーことばランド』(ころから)など。昨年、コンゴ民主共和国出身の難民申請者と出会ったことから、リンガラ語の学習を始める。

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