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東京クルド

 今年6月に開催された「難民・移民フェス」は好天に恵まれた夢のような祝祭空間だったなとしみじみ思いだされる。そして近づいてくる第2回が待ち遠しい日々だ。あの日、私はアフリカンデザインのバッグ販売のお手伝いをしていた。お客さんの応対や商品の補充で目の回るような忙しさで、出来れば会場をゆっくり回りたいと思っていたがそんな余裕は全くなく、バッグを売り続けていた。バッグの数がどんどん減ってくる頃、対面のかなり離れたテントから並ぶ行列がどんどん伸びてこちらのテントに届くほどまでになってきた。更にその後にも次から次に並び出し、「なんだなんだ」と驚かされたが、そのテントこそクルド料理のテントだったのだ。他のテントの料理やお菓子が売り切れたと情報が入る中でもあり、「この人達みんなにいき渡るのかな」と不安になったが、クルドのテントには新しい料理やお菓子が届けられたらしく、なんとかなったと聞いたから大したものだと感心した。めでたくフェスも終わって担当したバッグを売り切った達成感のほかに残ったのがクルド料理を食べてみたいなという思いであった。それに映画「マイスモールランド」も思い出されクルド人・クルド文化への興味が更に高まったのだった。
 フェス終了後まもなくのある日、「東京クルド」を見に赤羽へ出かけた。いま「東京クルド」は各地で自主上映されていて、ネット検索したところ赤羽で上映することがわかり予約したのだ。上映場所は有名な飲み屋街からは少し離れた住宅街にある「子どもの本『青猫書房』」で、店舗の奥のスペースに入るとクルドの方々の写真がたくさん貼られ、クルドの衣装も飾られていてまずはクルドの世界に入った感じがした。
 さて、「東京クルド」の上映が始まる。仮放免状態が続くクルドの方々の苦悩が続く映画であろうと身構えながら見始めたら、いきなり大勢の人間の小競り合いシーンだったので驚いた。トルコ大使館前でトルコ在外総選挙日に集まったトルコ人とクルド人が衝突したのだ。
 警視庁も察知していたようで大勢出動していて静止しようと試みるがなかなか収まらない。どうなるかと固唾を飲んでいると「日本クルド文化協会」での記者会見シーンに切り替わった。トルコ側に暴行を受けた方が前に並び、代表だかスポークスマンがそれを糾弾し、日本の記者たちが主にクルド人の車にあったというクルドの旗について質問し続けた。クルドの旗・・・クルド人達の国は残念ながらないが、本来あるべき国「クルディスタン」の旗があり、イランの自治州の旗などに採用されている、その旗だ。そこでつめかけたクルド人の中から冷静に自らの意見を述べたのがこの映画の主人公19歳のラマザンだった。「旗が問題ではない。旗がなくても彼らはクルドとわかれば襲いかかるのだ」と。
 ラマザンは子供の頃家族と共に日本にやってきたが家族全員「仮放免」の状態が続いている。彼は高校卒業後、通訳を目指して専門学校に入学しようと勉強を続けているが「仮放免」ではなかなか受け入れてくれる学校がない。しかし彼はめげずに他の専門学校入学を目指すと前向きだった。彼の笑顔がなんとも素敵だ。そんな彼を家族も暖かく見守っている。
 さて、もうひとり主人公がいる。ラマザンの友人であり同様に幼い頃に日本にやってきて「仮放免」が続いている18歳のオザンだ。彼はラマザンより日本語が上手いが、自分の境遇に不満を抱きながら解体業の現場で作業しているのだった。こんな好対照な2人をカメラは追っていく。

 その日は上映後、クルドの方の集いの場となっている川口市芝の喫茶店「ココシバ」の店主小倉さんのトークがあり、彼らの今の話を伺うことが出来た。ラマザンにはビザが出て、その後結婚したという。オザンは前向きに顔を出すようになり、京都大学でのこの映画の上映会の時には入管の許可を得て出掛けたそうだ。また彼女ともうまくいっていて「(映画が撮られた)3年前よりは幸せ」と言っているとのことであった。
 私は「青猫書房」さんで中島直美著「クルドの食卓」(ぶなのもり刊)を購入し、飲み屋の誘惑には乗らずに帰宅した。

 こうして難民問題に関心を持ち出すと、ロシアのウクライナ軍事侵攻後にノルウェー・スウェーデンがNATO加入申請したが当初トルコが反対したのは2カ国がクルド問題でトルコを非難していた為だった事に驚いたり、また今夏にクルドの方が初めて難民認定されたニュースや、アフリカ諸国での紛争の記事に目が行ったりと難民問題や世界への目が今まで以上に開かれている自分に気づいたのだった。

 それとお知らせ CSの日本映画専門チャンネルで「東京クルド」が放映されます。なんとフェス翌日の11月24日(木)11:05から。是非ご覧ください。そしてみんなで語らいましょう。
 さらにお知らせ 11月23日の難民フェスでは私が買い求めた中島直美著「クルドの食卓」(ぶなのもり刊)をポルベニールブックストアさんが販売されます。クルドの料理を味わい、この本も是非お買い求めください。

水野喜之(みずの・よしゆき)浪曲を唸り、「散歩堂」の屋号で一箱古本市出没中。本業はサラリーマン(らしい)。

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